2015年10月15日

●セルフパロディ的、でも面白い(『孤独のグルメ2』)

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久住昌之原作・谷口ジロー作画『孤独のグルメ2』(扶桑社)を読了。ご存知、井之頭五郎が日本各地のA級〜C級グルメを食べ歩く……と書くとちょっとニュアンスが違うな(笑)。ダンディなのに中年くさい七三分け背広姿の主人公が、とにかく何処へ行っても腹が減ってしまって何かを食べまくる人気漫画の第2巻。


最初の連載が始まってから20年以上経っている本作だが、谷口さん作画の緻密さも久住さんの独特の語りも変わらず健在。テレビドラマ化もされてすっかり有名になった作品だけに完全に「型」が確立されていて、今回も静岡のおでん屋からパリの多国籍食堂まで色々な題材が取り上げられているにも関わらず、五郎さんが食べる限り全て同じ話のように見えてしまうのは強みというべきかマンネリというべきか。

つーか、ところどころやり過ぎ狙いすぎで、ほとんどセルフリメイクというかある種のパロディにさえ見えてしまうのであった。妙な駄洒落連発とか「俺は腹が減ってるだけなんだ」とかアームロック(笑)とか。まあ、僕を含めてファンが求めているのはそういった部分には違いないし、読んでみるとやっぱり面白いから全然いいんだけど。とにかく美味そうだし。

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2015年06月24日

●『サッカーは監督で決まる』

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清水英斗著『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』(中公新書ラクレ)を読了した。タイトルにまんま書かれているとおり、現代の著名なサッカー監督たちの、特にチームを統率する術を取り上げることでサッカー監督という仕事の全体像を描き出そうとした一冊。


この本で取り上げられているのはジョゼ・モウリーニョ、アレックス・ファーガソン、ビセンテ・デル・ボスケ、ペップ・グアルディオラ、ユルゲン・クロップ、ヨアヒム・レーヴ、イビチャ・オシム、そしてヴァヒド・ハリルホジッチ。いずれも現代フットボールを代表する監督たちであり、それぞれに一章を割く形でその手法と人となり、彼らが実現したサッカーについて述べられている。

こうして並べてみると本当に多彩というか千差万別というか……少なくともモウリーニョ〜オシムの7人は世界の十指に入るビッグネームと言ってもいいと思うのだが、見事にバラバラ、全く似ていないのは凄いことだな、と。サッカー監督という仕事が一筋縄ではなく、だからこそ奥深いのだと改めて思い知らされる。これにたとえばデシャンやシメオネを加えても、カラフルさは全く薄れないもんね。

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2015年06月15日

●『ニッポンの音楽』

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佐々木敦著『ニッポンの音楽』(講談社現代新書)を読んでみた。1960年代末から現在までの約45年間、日本のポピュラーミュージックにおいて脈々と続いているある重要な流れについて、日本音楽の「内」と「外」や1990年代に誕生した「Jポップ」、そして「リスナー系ミュージシャン」といったキーワードを用いて振り返る一冊。


この本が特徴的なのは、10年ごとに「物語の主人公」を設定してそのディケイドの音楽シーンをひとつの物語として語っていることだろう。70年代ならはっぴいえんど(細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂)、80年代ならYMO(細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏)、90年代なら渋谷系(小山田圭吾と小沢健二、ピチカート・ファイヴ)と小室哲哉、ゼロ年代なら中田ヤスタカ、という具合である。

このような書き方は、描く対象がより明確になってわかりやすい反面、当然ながら多くのものを省略して削ぎ落とすことになるわけで、著者も書いている通り網羅的な歴史書や資料ではありえない方法論だ。ただ、読み物として考えればおそらく正解で、「主人公」の誰か1人にでも思い入れや興味があれば確実にツボに入る本となっている(逆に言えば、全くピンと来ない人も多いだろうが)。

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2015年06月04日

●『5つ数えれば君の夢』

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今日マチ子著『5つ数えれば君の夢』(秋田書店)を読了した。現代少女マンガの巨匠(と僕が勝手に思っている)今日マチ子さんが、女性アイドルたちの夢と苦悩を描いた作品。僕もたまにはこういうのも読むのだよ、ということで。


主人公は、架空の5人組アイドルグループ「Five Stars」(モデルは「東京女子流」というグループらしい)。そのメンバーたちはアイドルとしての活動と高校における学生の日常という二重生活の中でそれぞれ自身のアイデンティティーを巡る悩みを抱えていて、本作は彼女らの暮らしの中での様々な「ゆらぎ」について1話ずつ描く連作形式となっている。

なるほどと思ったのは、彼女たちにとってアイドル活動自体は「夢」ではなく「現実」のものであり、逆に学園生活や恋や友情やペットとの暮らしなどのいわゆる普通の生活が「夢」となっていることだ。彼女たちはアイドルとしての矜持に支えられながら、ミドルティーンの女の子としての等身大の、しかし深刻な悩みと向き合っていく。

まあ、かつてのキャンディーズの「普通の女の子になりたい」なんかを持ち出すまでもなく、アイドル=夢というステレオタイプではない描き方がむしろ説得力を持つということなのだろう。特に、AKBなどの大成功でアイドルの日常化がいっそう進んだように見える現在においては。

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2015年04月10日

●『70年代日本SFベスト集成1 1971年度版』

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相変わらず本を読むのが遅くて60年代ベスト集成のレビューをしてから2ヶ月もたってしまったんだけど、筒井康隆編『70年代日本SFベスト集成1 1971年版』(ちくま文庫)を読了した。筒井さんが「日本SF」の中心的作家として活躍していた頃の伝説的(と僕は勝手に思っているが)アンソロジーの第2弾(原書の刊行順としては第1弾)。


収録されているのは、半村良『農閑期大作戦』に眉村卓『真昼の断層』、星新一『使者』、小松左京『保護鳥』、光瀬龍『多聞寺討伐』、広瀬正『二重人格』、河野典生『パストラル』、梶尾真治『美亜に贈る真珠』、永井豪『ススムちゃん大ショック』、高齋正『ニュルブルクリンクに陽は落ちて』、荒巻義雄『ある晴れた日のウィーンは森の中にたたずむ』の11作品。

今回の復刻版の帯に「黄金期の魅力と迫力!記念碑的アンソロジー。」とあるけれど、これは全くその通り。有名無名様々な短編が含まれているが、1980年代後半〜90年前半のまだまだ「日本SF」そのものが力を持っているように思えた時期にそのジャンルにハマっていた僕にとっては、まさに珠玉の作品ばかり。これらが同じ年の作品というのは本当に凄いことだと思う。


特に、高齋正『ニュルブルクリンクに陽は落ちて』については、おそらく十数年ぶりに再読して、あらためて感動してしまった。何度読んでも泣けるんだな、これは。

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2015年02月08日

●『ディズニープリンセスと幸せの法則』

今までも書いてきたとおり、この冬は子供のプリンセスブームにつきあってディズニー映画を見続けていたんだけど、そんな僕にぴったりの本が出ていたので読んでみた。

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荻上チキ著『ディズニープリンセスと幸せの法則』(星海社新書)。気鋭の若手評論家である荻上さんが、ディズニープリンセス映画の歴史を3つの時期に分けてそれぞれの時期の作品に共通する法則(ディズニーコード)の変遷を解説した本。


ここで言う3つの時期とは、まず美男美女の王子様お姫様が悪を倒して結ばれる『白雪姫』『シンデレラ』『眠れる森の美女』の古典期。続いて抑圧や身分違いからの解放を特徴とする『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』のルネサンス期。そして『塔の上のラプンツェル』を経て『アナと雪の女王』で一つの到達点に至った、寛容と共存を尊ぶ現在。

やや図式的なところはあるけれど、なるほど、ディズニーの物語というのは時代に合わせて進化しているのね、と。また、各時代の中でも随時バージョンアップは行われていて、たとえば『白雪姫』では抽象的な機能に過ぎなかった「王子様」が『シンデレラ』で名前を得て、さらに『眠れる森の美女』では生き生きとしたキャラクターとなった、とか(これは僕も気づいた)。

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2015年02月05日

●『60年代日本SFベスト集成』

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年末年始に買って積んである本が全然片付かないままの日々だが……前にちくま文庫で復刊されているのを見つけてた、筒井康隆編『60年代日本SFベスト集成』をようやく読み終わった。今や日本文学界の大御所的存在となっている筒井さんだが、1970年代には「SF作家」の代表的存在としてこの手のアンソロジーを手がけていたのである。


この『ベスト集成』シリーズ、僕が子供の頃に徳間文庫から出ていたのだけどなかなか本屋に置いてなくて(当時はAmazonなんて便利なものはなかったのだ)、選りすぐられた古めのSF短編がまとめて読める貴重な機会だったのであちこち大きめの本屋をハシゴして探し回った記憶がある。今はまたこうして普通に買えるようになったんだからいい時代になったな、と思う。

内容的には文字通り日本SF黎明期、いわゆるSF作家第一世代の初期の傑作たち(しかも筒井さんのセレクトだからけっこう捻ってもいます)が集められていて、特に星新一『解放の時代』と荒巻義雄『大いなる正午』は凄い。前者はポルノを超えたポルノというか、まあ僕が今までに出会った小説で一番衝撃的な部類のものである。それを星さんが書いたというのだからもう……。

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2015年02月03日

●『イスラーム国の衝撃』

中東における日本人人質殺害事件によって、人類社会のどす黒い部分をあらためて目の前に突きつけられた思いがしているわけだが。


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ここ数日、池内恵さんの『イスラーム国の衝撃』(文春新書)を読んでいた。イスラム政治思想を専門とする東大准教授が「イスラム国」台頭の背景や経緯、彼らの戦略などについて解説した本である。

現在「イスラム国」を扱った本は幾つも書店に並んでいるのだけれど、この本を選んだのは記述のバランスが良さそうだったから。実際に読んでみると、「イスラム国」を巡る諸事象について扇情的な書き方をするでもなく、彼らを貶めるでも擁護するでもなく(他の本を軽くめくってみた限りでは、偏った論調のものも多いみたいだ)、淡々と冷静に、わかりやすく説明してくれている。

アル・カイーダをはじめとするグローバル・ジハード運動の流れ、イラク戦争と「アラブの春」によって中東地域を中心として出現した「統治されない領域」、そして目新しさのない(つまりベタな)「イスラム国」の原理主義思想と即物的で残酷で、見方によっては斬新に見える手法……。

この手の社会的な怪物については、僕たちもオウム真理教事件を経てある程度は知ったつもりになっていたのだけれど、それが中東というただでさえ歴史的・政治的に困難の多い地域の、特に長年の紛争で疲弊しきった空白地帯に生じると本当に手がつけられなくなってしまうんだな、と。読んでいて暗澹たる思いに襲われた。でも、確かに存在しているんだな、彼らは。

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2014年12月23日

●『河北新報のいちばん長い日』

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『河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙』(文春文庫)を読んだ。東日本大震災下、東北6県を発行区域とする地域紙「河北新報」が、自らも被災しながら東北の人々のために数々の困難を乗り越えて新聞発行を続ける様子を描いたドキュメント。
 
 
この本は河北新報社が自らを取材・報道対象としてとりまとめたものであり、核となっているのは震災1カ月後に行われた記者たちへのアンケート調査とのこと。そのためか、ドキュメンタリーとはいっても単一の著者によって書き綴られたようなストーリー性の強いものとはなっておらず、新聞そのものを文庫一冊分まで膨らましたような、いかにも新聞社が作ったというゴチャゴチャした仕上がりとなっている。

ただ、そんな雑然としたテイストは「震災直後」を描く上ではマイナスとなっていないばかりか、むしろ当時の混乱と緊迫した雰囲気をよく伝えてくれている。一体何が起こったのか、これからどうなるのか、いつまで続くのか、と不透明で不安だった数十日間。東京にいた僕らでさえ困惑しきりだったのだから、そりゃ被災地の真っ只中で懸命に闘ってた人々はその状況を整理して眺めることなんて無理だったろう。

フラッシュバックというと言いすぎだけど、読んでいるうちに幾度か、あの頃の事を思い出して胸が締め付けられるような思いがした。

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2011年08月15日

●『地には平和を』

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先日亡くなった小松左京さんのSF実質デビュー作『地には平和を』を読み直した。文庫は全て絶版になっているようだが、同作が収録されているハルキ文庫「時の顔」の中古をアマゾンで見つけたのですかさず購入。


『地には平和を』のストーリーはこんな感じだ。舞台は1945年10月末、広島に投下された原爆が不発に終わり、8月15日のクーデターが成功して本土決戦へ突入した日本。少年兵ばかりの「黒桜隊」に所属する15歳の河野康夫は、押し寄せる米軍に追われながら天皇が立て籠もる信州目指して逃亡を続けていた。ある日康夫はついに米軍の銃火を浴び爆発で投げ出されて瀕死の状態に陥るが、そこに「Tマン」と名乗る謎の金髪男が現れて……。

粗筋からわかるように、これはパラレル・ワールドものにタイムトラベルの要素を組み合わせた正統派のSF小説だ。日本の本土決戦は未来からやってきた狂人が引き起こした「時間犯罪」だった。無謀な戦いが引き起こす膨大な悲劇を横目に見ながらタイムパトロールは懸命の捜索を続け、ついに犯人を逮捕する。そして1945年秋の「間違った歴史」が消去されるまでの僅かな間、パトロールの一員であるTマンは康夫に「本当の歴史」を見せてやるのだった。

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2010年04月22日

●『アンチ・ドロップアウト』『マスコミはもはや政治を語れない』『多読術』

最近読んだ本、いくつかについて。
 
 
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小宮良之著『アンチ・ドロップアウト〜簡単に死なない男たちの物語』(集英社)。財前宣之、石川直宏、小澤英明、阿部祐太朗、廣山望、佐藤由紀彦、金古聖司、藤田俊哉、茂庭照幸、李忠成……かつて日の丸のユニフォームに袖を通しながら挫折を経験して下部リーグなどに場を移し、しかしなお戦い続ける元Jリーガーたちの物語。

テーマ的にはありがちと言えばありがちなものだし、劇的に盛り上げようとして妙にクサくなっている部分があるのも否定できない。だが、それは筆者もある程度承知しているのだろう、ギリギリのところで筆は抑制されており、エピソードとしては共感度の高いものがほとんどなだけに普通に読めば普通に泣ける本だ。だから、取り上げられた10人のうちのいずれかに思い入れがあれば読んだ方がいいと思うし、Jリーグファンなら少なくとも損はしないかな、と。

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2010年03月26日

●『サッカーを100倍楽しむための審判入門』

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あれはもう2ヶ月余り前になるのか、FC東京新体制発表会の日に新宿で飲んでいてfct-fan氏に「読め!」と突きつけられた(実話)、松崎康弘著『サッカーを100倍楽しむための審判入門』(講談社)をようやく読んだ。日本サッカー協会審判委員長が自ら著した、知っているようで知らなかった審判に関する画期的な一冊。
 
タイトルにも「審判入門」とあるとおり、この本はサッカーの審判に関する諸々の知識のうち初歩的なものから(ファンにとっては)やや高度なレベルのものまでをわかりすく説明したもの。構成的には第1章は近年のJリーグで物議を醸した判定の例、第2章は審判の歴史、第3章と第4章は日本における審判制度と具体的な試合日の流れ、第5章は特に重要な「ゲームコントロール」というテーマ、そして第6章は審判になるための道筋について、それぞれ解説している。

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2009年04月24日

●『オールナイトサッカー』

サッカー本レビュー3連発のそのさーん。
 
 
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最後は杉山茂樹編・著『サッカー番長杉山茂樹・オールナイトサッカー』(コスミック出版)。「フランクにワイワイガヤガヤ」、外国のサッカーラジオ番組をコンセプトにした(?)ムック本。ある意味大物名物ライター(笑)たる杉山茂樹氏の「責任編集」と銘打っているだけあって、前ページ通じてスギヤマ色(でわかるかな)に溢れた一冊。

基本スタンスは「日本サッカー」(特に岡田監督)批判。語り手はセルジオ越後、釜本邦茂、加部究らが並ぶ。となれば当然に内容は「辛口」となるわけだが、確かに品の良いコラムや理屈っぽい文章も多いサッカー媒体の中でこの「生々しさ」は新鮮である。対談やインタビューを多用しているせいで非常に読みやすいし。中でもチョン・テセくん(憲剛には頭が上がらないのね)と、あと江本孟紀さんの記事は楽しかった。張本さんの「町人ども」発言って(笑)。

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2009年04月23日

●『蹴りたい言葉J』

3連続サッカー本レヴュー(と大げさに言うほどのもんじゃないが)の2冊目。
 
 
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続いては、いとうやまね著『蹴りたい言葉J』(コスミック出版)。海外におけるサッカー名士たちの名言を集めた『蹴りたい言葉』に続くシリーズ第2弾。「リサーチの達人」(と、Amazonでは紹介してあるんだよマジで(笑))である著者が、今度はJリーグの開幕前から現在までにおける名言・迷言を集めた一冊。

構成的には『蹴りたい言葉』と同様に、見開きの右頁に名言→左頁にその解説という流れになっており、とても読みやすくなっている。内容は、やはり前作と同じように格言的なものを集めた本というよりは、象徴的なコメントを取りあげることを通じて様々な人物や出来事を紹介する「名士録」「事件簿」的な色彩が強いと言えるかもしれない。また、正直「掘り出し物」は少なく、ある程度Jリーグを追ってきたファンならば知っている発言が多いのではないだろうか。

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2009年04月21日

●『日本サッカー史 日本代表の90年 1917-2006』

4月から仕事の担当が替わったりして忙しく、全然映画も観てないし本も読んでいない……のだが、かろうじてサッカー関係の本だけは3冊ほど読んだ。ので、つれづれとレビューなぞ。
 
 
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まずはバーレーン戦@さいスタの直前に読了した、後藤健生著『日本サッカー史 日本代表の90年 1917-2006』(双葉社)。ご存じ日本サッカージャーナリズム界の大御所(と言っていいのだろうな、多分)が「膨大なフィールドワークと徹底的な検証」を基に書き上げた大著。

一言で表すならば「とんでもない本」である。なにしろ、06年の時点で90年もの長きに渡っているサッカー日本代表の歴史を1冊の本でカバーしているのだ。その中身の重厚さときたら……日本におけるフットボールの起源に始まって、初の国際試合からベルリン五輪の大金星、戦争とその後遺症、クラマー来日と東京五輪、メキシコの栄光、一転して暗黒時代となった70年代、プロ化への風が吹いた80年代と世界へ飛躍した90年代、そして現代へ。

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2009年01月08日

●オフシーズンは、本でサッカーれ!

ふと、最近は観戦記ばかり更新していて、本や映画についての記事をほとんど書いていないことに気づいた。ということで、昨年の秋から暮れにかけてに読んだサッカー本のうちお薦めのものを3冊ほど紹介してみようか。……結局サッカーかよ(笑)。つーか、一昨年暮れの記事ではその年に気に入った本や映画について3つずつ挙げてるんだけど、去年は「ベスト○」を選べるほど(サッカー以外のジャンルの)数をこなしてないんだよな……うーむ、今年は頑張ろう。
 
 
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まずは、いとうやまね著『サッカー誰かに話したいちょっといい話』(東邦出版)。足かけ4年、60カ国70人ものサッカーファンへの取材をもとにした連続読物。イタリアの教会の庭で、トルコの道路で、チュニジアの広場で、コソボのアパート裏で。様々な場所における「サッカーの日常」が描かれている。少年は近所の八百屋をヒーローと仰ぎ、若者は飛行機事故で散った我がチームの悲劇に涙し、人口肛門を付けた老人は80歳を超えて今日もボールを蹴り続ける。

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2008年01月23日

●『蹴りたい言葉』

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昨年のうちに読んだ本だけど、忘れないうちに紹介しておこう。いとうやまね著『蹴りたい言葉 サッカーがしたくなる101人の名言』(コスミック出版)。プラティニ、マラドーナ、モウリーニョ、クライフ、カントナ……。サッカー界における様々な著名人の名言(迷言?)を、サッカーライター・ユニット「いとうやまね」さんが独自のセレクションで紹介した一冊。紹介された人物=言葉の数は実に101!!わんちゃんか(笑)。


この本の良いところは、まずその簡単かつ明解な構成だろうか。見開きページの右側に「人物」「その人物の名言」「発言が行われた時と場所」が大きく印刷され、左側に発言の意味や背景にある事象の解説、そして人物の詳細なプロフィールが掲載されている。見やすい作りである。また、著名人1人につき1発言のみに絞ったのも、より多くの人々の発言をわかりやすく紹介する上では好都合ではなかろうか。

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2007年08月14日

●原博実監督について (『最も愛される監督・原博実-ヒロミズム』を読んで)

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『最も愛される監督・原博実-ヒロミズム』(出版芸術社)読了。お馴染みサッカーライターの西部謙司氏が、インタビューで引き出した数々の言葉を手がかりとして原博実監督(「ハラヒロミ」)の魅力に迫った一冊。土曜日の味スタで完敗に打ちのめされた東京ファンにしてみれば、悪い冗談のようなタイトルかもしれないが(あまりのタイミングの悪さに著者も出版社も頭を抱えていることだろう)、僕は西部ファンでもあるので読んでみた。
 
 
「この薄さで1000円かよ!」というツッコミはさておき(笑)、なかなか良い出来の本だと思う。さすが西部さん、原さんの魅力についてよくつかんでいて、それを実にわかりやすく噛み砕いて伝えている。この本で描かれているのは僕たちが知っている「ハラヒロミ」だ。とにかくサッカーが好きで、サッカーの魅力を理解していて、ファンや選手に気を使うことができて、威勢が良くて、天然で、理想家で、「他にはない自分」を貫ける人物。

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2007年06月07日

●勝因と、『敗因と』 (後編)

前編から続く)
 
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では、なぜ日本は一つになれなかったのか、というのがこの本の主題である。ここは人によってはすっきりとしない部分だろう。金子さんは反トルシエ・ジーコ監督推進の立場だった人で、今回はその総括を期待した読者も多かったはず。が、結局ジーコへの批判は巧みに回避され、「原因は、一つではない」という言葉が登場する巻末部分はどうも不明瞭な印象だ。唯一示されるのは「ドイツ大会の日本には「目標」が欠けていた」という指摘のみ……。


だが、実はこの結論(?)はいいところを突いているのでは、と思う。昔から、代表における対立自体は珍しくない。アトランタの時も、岡田時代も、「トルシエジャパン」においても、選手同士、あるいは監督と選手の衝突はあった。だが、それが致命傷にならず大きな成果を挙げることができたのは、やはり「28年ぶりの五輪出場」「初のW杯出場」「開催国として義務付けられた決勝ラウンド進出」といった、皆が共有できる明確な目標があったからだろう。

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2007年06月05日

●勝因と、『敗因と』 (前編)


日曜の夜は、国立競技場で女子サッカー北京五輪最終予選を観戦。日本代表 6-1 韓国代表。事前には接戦も予想されていた「グループA最大のライバル」との対戦は、意外や意外、一方的な展開に。怒涛の攻撃で6点を奪ったなでしこジャパンが予選突破をほぼ確実にする勝点3を獲得。スコア的にも内容的にも文句のつけようがない、胸のすくような快勝だった。


日本のプレーはとにかく「素晴らしい」の一言。宮本を起点にパスをつないで攻撃を組み立て、スペースが空いたとみるやサイドチェンジやオーバーラップを繰り出す。そしてボックス付近では明確な意図をもったクロスと荒川・澤らのドリブル勝負。バリエーションの豊富さとテンポの良さ、さらに決定的プレーの精度に圧倒され、韓国はほとんど何もできなかった。観客としても最高に面白いサッカー。今まで観た「なでしこ」の中でも一番かもしれない。

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2007年02月16日

●『機動戦士ガンダム一年戦争全史 上』

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先日、さる方からいただいた『機動戦士ガンダム一年戦争全史 上』(Gakken)を読んだ。おなじみ『機動戦士ガンダム』(いわゆる「ファースト・ガンダム」)で描かれた地球連邦とジオン公国の戦争について、「歴史群像」シリーズと同様の形式でまとめた架空戦記書。

内容としては、「宇宙世紀」の年代記、ミノフスキー粒子の「物理学的な」説明、両国の政治体制や軍事組織の解説、MSの工学的検討、兵器や作戦についての考察、etc……すげえ膨大な量であり、一つ一つのこだわりも凄い。たかが一つのアニメのためにようこここまで作るなあ、とひたすら感心。「アホだ」とも言えるし、「やはりガンダムは偉大だ」とも言えるだろう。

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2006年10月19日

●『映像のカリスマ』

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黒沢清著『映像のカリスマ 増補改訂版』(boid、エクスナレッジ)読了。現代日本を代表する映画監督・黒沢清による名評論集が、初刊行から15年の時を経て復活。1973年から92年に至るまでに書かれた「映画なるもの」を巡る評論・対談・脚本が満載され、さらにボーナストラックとして近年の未公開文章も収録。まさにファン待望の1冊。


僕のサイトを昔から見てくれている人ならご存じかもしれないが、黒沢清は僕が最も敬愛、いや偏愛する映画作家である。『勝手にしやがれ』シリーズに『復讐』『CURE』『蜘蛛の瞳』『カリスマ』『回路』『ドッペルゲンガー』etc……。世間的にはあまり知られていないかもしれない。でも、僕にとってはどれも珠玉と呼んでいい作品たちである。

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2006年10月06日

●『街場のアメリカ論』

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内田樹著『街場のアメリカ論』(NTT出版)読了。フランス現代思想を専門とする筆者が、「日米関係の歴史」「アメリカン・コミック」「リスクヘッジの統治システム」「シリアル・キラー」「訴訟社会」などといった様々な側面から、アメリカ合衆国という国の特質や病理について考察した異色の論考集。


以下、断片的に感想を挙げてみる。

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2006年08月29日

●『1974 フットボールオデッセイ』

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西部謙司著『1974 フットボールオデッセイ』(双葉社)読了。今やサッカーの歴史において伝説となった感のある、74年W杯決勝西ドイツ×オランダ戦。その試合で対決した両チームの「スター」たちの人となりや経歴を、色々な意味で転回点を迎えていた当時のサッカー界の状況にも言及しつつ、小説の形式をとってドラマティックに描き出した本である。

読んだ感想は、とにかく「面白かった」の一言に尽きる。筆者曰く「起こった出来事については、ほぼ事実」「人物造型に関しては9割方フィクション」だそうだが、主要人物の振る舞いや言動はいかにもそれらしく、生き生きと「作られている」。もちろん、小説であるがゆえに描写の臨場感(特に決勝の序盤と主人公格フォクツの登場時!)はノンフィクションとは比べものにならない。エンターテイメントとして、非常に高いレベルの一冊に仕上がっている。

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2006年08月19日

●『ジョゼ・モウリーニョ』

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ルイス・ローレンス著『ジョゼ・モウリーニョ』(講談社)読了。ご存じチェルシーの名物監督にして、数々のビッグタイトルを手にする若き名将ジョゼ・モウリーニョの伝記。傲岸不遜なパブリック・イメージで知られる彼だが、実はその裏側に意外な素顔が……なんてことは全くなく(笑)、いかにも彼らしい人となりを伝えるエピソードが満載。

この本が扱っているのは00~04年の出来事。描かれているのは、今と変わらぬ、巷間のイメージそのまんまのモウリーニョである。自分流を自信満々に押し通す豪腕ぶり。ビッグクラブからの引き抜きに平然と乗る野心家の顔。重要な戦いでは手段を選ばない攻撃性。人への敬意を忘れず、信頼の絆で選手をまとめる名監督ぶり。そして、家族を愛するよき父親の姿。「複雑ではあるが、ブレず芯の通った」人物像。そこが魅力でもあり、嫌われる所以でもある。

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2006年08月14日

●『9条どうでしょう』

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『9条どうでしょう』(毎日新聞社)読了。人気哲学者・内田樹氏と彼が選んだ個性豊かな3人の論者たちが、日本国憲法第9条(及びそれを改正しようという国内の動き)について語った本。

この本の勝因(勝手に勝ったことにしてるが)は、とにかく人選に尽きる。平川さんは元々内田さんの盟友だし、小田嶋さんも何かこの手の話を書きそうに思える人だけど、まさか町山さんとはね。なるほど、軍事オタクの過激派(笑)が入った事で本全体の娯楽性と幅広さがぐっと高まっているように思えるのだ。

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2006年08月01日

●『封印作品の謎2』

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安藤健二著『封印作品の謎2』(太田出版)読了。様々な理由により絶版や放送禁止の憂き目に遭い、今では目にする事のできない過去の名作たち。それら"封印"問題の背景や経緯、"封印"という行為がもたらす問題について追うルポルタージュの第2弾。今回取り上げられた作品は、『キャンディ=キャンディ』『ジャングル黒べえ』『オバケのQ太郎』『サンダーマスク』の4つ。

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2006年07月17日

●『うつうつひでお日記』

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『うつうつひでお日記』(角川書店)読了。『失踪日記』の大ヒットによって一般世間にもその名が知れわたったロリコン不条理漫画家・吾妻ひでお先生が、日々の生活を「やまなし」「おちなし」「いみなし」で坦々と描いた日記マンガ。

『失踪日記』は2度の失踪やホームレス生活、アル中での入院といった「シャレにならない現実」を明るくダウナーなノリで描いた傑作だった。この本は、同じノリではあるけれど、内容は正真正銘の「日常生活」だけ。ドラマティックな出来事はほとんどなく、プチヒッキー(笑)な吾妻先生だけに、描かれているのは本やテレビの感想と三食の様子と時折襲ってくる鬱と、あと脈絡のない女の子の絵がほとんど。

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2006年06月03日

●『草競馬流浪記』

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『草競馬流浪記』(新潮社)読了。競馬や将棋、野球などをこよなく愛した故・山口瞳さんが、昭和50年代後半に全国の公営地方競馬全27場(当時)を巡った旅の様子を綴っている本。4月の末にさる友人から借りていたのだが、結局読み通すのに1ヶ月以上かかってしまった。5月は忙しかったからなあ。仕事とか飲み会とか、あとジロとかジロとかジロとか…(笑)。

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2006年03月28日

●『巨人軍論』

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野村克也著『巨人軍論 -組織とは、人間とは、伝統とは』(角川書店)読了。選手として、そして監督として数十年の長きにわたって読売ジャイアンツ最大のライバルであった野村監督が、「巨人軍とは何だったのか」について語る。

この本の大半を占めるのは、「栄光の巨人軍」の歴史と、それに絡めた「野村の野球論(組織論)」という2つの要素である。野村さんの現役・監督時代の巨人への敵愾心はよく知られているが、元々は子供の頃からの巨人ファンであり、彼の方法論(「ID野球」)も全盛期巨人の合理的野球(「ドジャース戦法」)から着想を得ているのだという。まあ、やっぱり、という感じではある。好きじゃなかったらあれほどこだわらないよね、そりゃ。

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2006年03月16日

●『悪役レスラーは笑う』

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森達也著『悪役レスラーは笑う -「卑劣なジャップ」グレート東郷-』(岩波新書)読了。50~60年代に日米のプロレス界を股にかけ、数々の悪辣ファイトで名を馳せた希代の悪役レスラーかつ伝説のプロモーター・グレート東郷。その謎に包まれた生涯とアイデンティティーの「秘密」を孤高のドキュメンタリー作家が追いかける。

この本のテーマは大きく分けて2つ。1つ目は、複雑で錯綜するナショナリズムについて。戦後のマット界の英雄・力道山は大和魂を叫びながらも実は在日一世であり、彼と固い友情を結んだグレート東郷も母親が中華系であるが故に在米日系社会から差別を受けた生い立ちを持つ(と言われていた)。そんな事ととは露知らず、彼らの活躍に喝采した日本人。なるほどその歪んだ構図はまことに興味深く、そこから現代日本の偏狭な排外「愛国」主義の高まりに思いを馳せ、ため息をつくのはいつもの森テイストである。

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2006年02月27日

●『街場の現代思想』

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内田樹著『街場の現代思想』(NTT出版)読了。フランス現代思想と映画評論と武道論の間を軽快に渡り歩く当代随一の論客が、様々な題材を用いて世の理路を解き明かしていく。

タイトルに「現代思想」なんて付いてはいるけれど、思想家とか難しい用語はあまり出てこず(皆無ではないが)、身の回りのモノについてのお話が大半。ありふれた事象に対して筋の通った解釈を施し、それに対する心構えを説く、というスタイル。特に第3章「街場の常識」は、まんまそのまんま人生相談である。

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2006年01月25日

●『奇跡のラグビーマン』

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大友信彦著『奇跡のラグビーマン-村田亙37歳の日本代表』(双葉社)読了。ヤマハ発動機ジュビロの一員としてトップリーグで活躍するラグビー(元)日本代表、村田亙選手の半生を描いたノンフィクション。
 
村田亙といえば、生来のスピードを生かした攻撃プレーによって数々の栄冠に輝く一方、ジャパンの一員としては「不遇」のイメージがつきまとう選手でもある。強力なライバルの存在もあってW杯では十分な出場機会を得られず、「145」の惨事の当事者ともなった。積極果敢なスタイルゆえに怪我は多く、競技生活の総決算となるはずだった前回のW杯でも直前でメンバー落ち。ファンとしては、その能力を考えればどうしても「報われていない」ように思えてならないのだ。

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2006年01月18日

●『消えた魔球』


夏目房之介著『消えた魔球 熱血スポーツ漫画はいかにして燃えつきたか』(新潮文庫)読了。前に『マンガの深読み、大人読み』をレヴューした時に「夏目房之介という人は、初期の『Number』で連載を持っていて、古いスポーツマンガについて模写(引用?)も交えながら楽しく紹介していたような記憶があるな。あのコーナー、どこかで単行本に収録されたりしてないのかな?」と書いたら、速効でご本人から「単行本化され、その後新潮文庫になりました」とのコメントをもらったのだった。ネットってスゴイかも(笑)。しかし、いざ探してみると既に店頭にも在庫も無いようなので、Amazonのマーケットプレイスで購入。

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2006年01月15日

●『生協の白石さん』

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『生協の白石さん』(講談社)読む。東京農工大学生協に設置されている、利用者の質問や意見を受け付けるための「ひとことカード」。切実な要望からおフザケの入った質問まで、学生たちから寄せられる様々な投稿に対する生協職員「白石さん」の軽妙な回答がネット上で話題となり(→blog版)、ついに単行本化されたもの。最近よくある「ネット発出版」であるが……。

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2006年01月03日

●『オシムの言葉』

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木村元彦著『オシムの言葉-フィールドの向こうに人生が見える』(集英社インターナショナル)読了。サッカーファンの間で話題になっている例のヤツ。品切れ状態が続いていたが、ようやく年末にアマゾンで入手した。面白い、という一言では済まない読みごたえ。1冊読むのに何日何週間とかかってしまう遅読の僕でも、わずか2日で読み通してしまった。

ピッチ上で表現されるオシムサッカーの凄さは、この3年間で幾度となく目撃している。彼の経歴についても、パルチザンとユーゴ代表の監督を歴任し、ユーゴ崩壊後はオーストリアで名を挙げてから市原へやってきた、くらいの事は知っていた。もちろん、独特の含蓄ある発言にはいつも楽しませてもらっている。でも、その一方で、偏屈を装うような物腰、メディアに対するガードの固さが気になってはいた。「ユーゴ代表では苦労したのだろうな」という程度の認識しか持っていなかったのだけれども……。

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2005年12月13日

●『魔障ヶ岳』

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諸星大二郎著『魔障ヶ岳-妖怪ハンター』(講談社)読了。諸星さんの代表作とも言うべき『妖怪ハンター』シリーズ久々の新作。人里離れた「魔障ヶ岳」に存在する奇妙な遺跡を訪ねた考古学者・稗田礼二郎は、不思議な「物の怪」に遭遇し、さらに遺跡の奥でうごめくこの世ならぬ「モノ」(神とも魔とも鬼とも名付けうるもの)を目撃する。その後、帰還した稗田と同行した3人の身の周りに次々と不思議な事が起こって……。

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2005年12月07日

●『ドキュメンタリーは嘘をつく』

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『ドキュメンタリーは嘘をつく』(草思社)読了。傑作ドキュメンタリー『A』『A2』等の監督として知られる森達也さんが、ズバリ「ドキュメンタリーとは何か」「表現とはいかなる行為であるか」を突き詰めた連作エッセイ。日本有数の個性派映像作家たる森さんらしく、豊富な体験・エピソードを交えつつ、思慮深く、しかし頑固に自らの信念を綴っている。

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2005年11月29日

●『長い道』

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『長い道』(双葉社)を読む。昨年度の文化庁メディア芸術祭大賞を受賞したこうの史代さんの、受賞作『夕凪の街 桜の国』に続く単行本。4年に渡る雑誌連載をまとめたものだとか。前作ほど大きなドラマ性がある訳ではないが、より身近で、より地に足のついた余韻と感動をもたらしてくれる良作。

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2005年11月11日

●ビバ!田中圭一!!

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「たけくまメモ」11/1付のエントリーを見て「『ドクター秩父山』か…そういえばそんなのもあったなあ」と懐かしく思い、復刊された『ドクター秩父山』と、あと同じく田中圭一さんの作品集『神罰』を買って読んでみた。


まずは『神罰』(イースト・プレス)だが……これが「最低漫画全集」というサブタイトルどおり、超ウルトラスーパーメガトン級のくだらなさ。絵的には手塚治虫のパロディ(そっくり、というよりもはや憑依しとるなこれは)が中心で、あとは永井豪や本宮ひろし、藤子不二男調のものやラブコメ的なタッチまであったりと様々なのだが、にも関わらず物語やオチは大半が下ネタ(笑)。後半部分の連続4コマなんて、タイトルからして「局部くん」(笑)。全く素晴らしすぎである。

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2005年11月04日

●『マンガの深読み、大人読み』

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夏目房之介著『マンガの深読み、大人読み』(イースト・プレス)読了。マンガ家でありマンガ評論家でもある夏目房之介さんの評論集。主に表現手法を切り口として、扱う題材は手塚治虫、鳥山明、ねこぢる、『ピーナッツ』、浦沢直樹、『クレヨンしんちゃん』、いしいひさいち、永井豪、未来都市、黄表紙、『巨人の星』、『あしたのジョー』、日本マンガの海外進出と、実に様々。

難しめの本である。収録されている評論1本1本は、確かにマンガの見方を変えてくれそうな興味深い内容で、特に「アトムや矢吹丈の正面顔」の話やいしいひさいち論あたりはかなり面白かった。でも、それらをまとめて一冊分のボリュームにしちゃうと、読むのが大変だな、というのが正直な感想。全体的にアカデミックな色彩が強いため、ちと心してかからねばならないのである。あと、巻末の日本マンガ文化論は(本人も認めているように)ちょっと論としてのクオリティがイマイチかな、と。

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2005年10月14日

●『健全な肉体に狂気は宿る』

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『健全な肉体に狂気は宿る』(角川書店)読了。仏文学者・内田樹さんと精神科医・春日武彦さんの対談本。明白な形で単一のテーマが示されているわけではないのだけれど、あえて言うとすれば「生き方」に関するよもやま話、といったところだろうか。気が合う2人ゆえに興がのり、ずけずけとした物言いがテンポよく続く。頷いたり考え込んだりする部分は色々あれど、とにかく面白く読み進めることができた。

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2005年09月27日

●『技術力』

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西部謙司著『技術力 サッカー 世界のスタープレーヤー』(出版芸術社)読了。世界各国の「名将」や「チーム作り」を主題に様々なサッカーのあり方をとりあげた前作『監督力』に続く第2弾。今度は「選手」を主題として、現代のサッカーの流れの中でなお残り続ける多様な個人・プレースタイル・ポジションを描き出している。

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2005年09月16日

●『不肖・宮嶋 国境なき取材団』

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宮嶋茂樹著『不肖・宮嶋 国境なき取材団』(新潮社)読了。ご存じ有名報道カメラマン「不肖・宮嶋」の数多くの戦場取材のうち、これまで単行本未掲載だった短編10本をまとめた総集編的(?)な本。

僕は、自分ではそれなりに好奇心のある方だと思っていて、時折ふらっと1人で興味のあるところに行ってみるのが好きだ。また、スポーツにせよ何にせよ、「後方で冷静に考える」事も大事だと思う一方、やはり「現場で観るにしかず」と思っている部分もある。でも、そのくせ困難な所へ辛いことを乗り越えて行くだけの根性には欠けていたりする。要はヘタレである。

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2005年08月31日

●『歴史としてのドイツ統一』

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高橋進著『歴史としてのドイツ統一』(岩波書店)読了。1988年ハンガリー-オーストリア間国境の開放に始まって89年ベルリンの壁開放、そして90年統一実現に至るまでのドイツ統一を巡る政治過程を、政治家や外交官たちの回顧録を中心に解明した書。

外交プロセスに的を絞って当時の会談や検討の模様を正確かつ詳細に再現する手法をとっているため、正直なところ政治や外交にあまり興味のない人、特に89年前後の国際政治に関する知識がない人が読みこなすのは困難な本である。しかし、逆に言えば、僕のようにペレストロイカや東欧革命に心を揺り動かされて大学の政治学科なんぞ行ってしまった人間にとっては、これほど素晴らしい読み物はないとも思う。

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2005年06月29日

●『コモンズ』

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ローレンス・レッシグ著、山形浩生訳『コモンズ』(翔泳社)。買ってから実に2年くらい置きっぱなしにしていた本だが、ついに手をつけて読了。人間の創造性の発揮における自由な領域(「コモンズ」)の大切さ、特にインターネットにおけるコモンズの確保の重要性について、様々なフェイズや理論・事例を取り上げて説いた本。すげえ力作で、400頁以上のボリュームだが、2年かけて(笑)読むだけの価値はあった。

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2005年05月30日

●『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』第9巻

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安彦良和著『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』9巻(角川書店)読む。8巻(ジャブロー到着)で物語も折り返し地点に差しかかったということで、今回(から11巻くらいまで?)はシャアとセイラの幼い日々を描く番外編。

で、感想だが……いらないよ、これ、安彦先生…。こういう前日譚ってのは本編の中でほのめかされたり徐々に明らかになったりするからいいのであって、ディテールまで一気に明らかにしてしまう必要は全くない、というより想像の余地を奪ってしまうゆえにむしろ本編の出来を損ねてしまいかねない感がある。おまけにシャア&セイラとザビ家・ラル家の関係が本編とは微妙にずれて(矛盾して)しまっているし。『スターウォーズ』エピソード1・2(これもプリクエルね)を観た時の、何とも言えない違和感を思い出した。

いや、別に番外編を読まなきゃいいのかもしれんけどね。それはそれで、ファンとしては間が空きすぎて辛いっす。ワガママなのは重々承知でお願い。先生、早く本編に戻って(いや、実作業的にはもうそろそろ戻っちゃってる頃か…)。

2005年05月11日

●『終戦のローレライ』

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福井晴敏著『終戦のローレライ』(講談社文庫)読了。あまりの端折りぶりにダイジェストの出来損ないみたいになってしまった映画版に対して、小説版は全四巻にもんのすごい情報量を詰め込んだ大作。前者を映画版『ヤマト』とすると、後者はテレビ版『ガンダム』といったところか。きっと小説版を先に読んだ人にしてみれば、映画版はすっかすかで物足りなさすぎるのだろうな。その密度ゆえに、小説は小説でクリアの難易度は高そうだが。

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2005年05月02日

●『失踪日記』

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吾妻ひでお著『失踪日記』(イースト・プレス)読了。

二度の失踪、ホームレス生活、自殺未遂、アル中の発作、そして精神病院への強制入院。これらの体験が明るく楽しく…いや本当にかわいい絵柄で楽しく読める本なんだけど、背後に隠れた闇は深そう(笑)。ま、「人間どんなになっても(とりあえず)生きてはいける」という意味では前向きに人生をとらえられるだろう。

巻末の対談は、もともと聞き手のとり・みきが吾妻ファンだから、完全に吾妻讃歌、ハイテンションで信者ぶりを発揮という気がしなくもない。でも、とり氏の言うとおり、「『漫画作品』として完成度が高く本当に面白い」のも確か。何度も読み返せそうな魅力はある本だと思う。

個人的に一番好きなのは、拾った300円で買ったパック酒をすげーうまそうに飲むシーン。

2005年03月18日

●『監督不行届』

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安野モヨコ著『監督不行届』(祥伝社)読む。日本有数(?)のオタク庵野秀明監督と筆者との結婚生活、というより「オタク夫の壮絶な生態(とそれに染まっていく妻)」を描いたエッセイ・コミック。ホントおもしれーなー、庵野カントク。

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2005年03月04日

●『ラグビー・ルネッサンス』

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日本ラグビー狂会編・著『ラグビー・ルネッサンス』(双葉社)読了。毎年1回出版される「狂会本」。既に10冊は超えているのかな?一昨年までは欠かさず買っていた大好きなシリーズなのだが、ライターの質がやや落ちたように思うことと、あと僕自身も3歩進んで3歩下がる(笑)という感じの日本ラグビーに疲れを感じたこともあり、前回は初めて購入を見送った。今回は気を取り直して、というよりジャパン欧州遠征の惨状を目にして「145」の頃を思い出し、購入。

今回の目玉はリ・スンイルさんの2つの原稿(大阪朝鮮高校の闘いの歴史と、フットボールのレフリーのルーツを追ったもの)だな。ともにラグビーがラグビーたる所以をよく示してくれていると思う。佐々木典男さんの書いたプロローグ中にある、マコーミック(に遭遇した岩手のファン)のエピソードも同じ趣旨だよね。こういうエッセンスを明確に盛り込んでくれている限り、「狂会本」は存在する意義があるのではないだろうか。

あとの各ライター(特に平塚・中尾・梅本の3氏)は安定した芸風を発揮してるっちゃしてるのだが…ざっと見渡してみて気になるのは、若い書き手がいないことだな。

2005年01月27日

●『Game of people-アジアカップ&ユーロ2004超観戦記』

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西部謙司著『Game of people-アジアカップ&ユーロ2004超観戦記』(双葉社)読了。タイトルにもある通り、2004年に行われた2つの国際サッカー大会を追いかけた観戦記。個々の試合の描写はやや抑えめにし、大会の流れや各国の現況、大会中の街や人の様子、さらにはそれらから見える国民性といったところまで突っ込んでいるのが特徴だ。

前半のパートでは、「分析力・洞察力はあるがコーチングはしない」ジーコの下でいい意味での鈍感さ(ある種のタフさ)を身につけた日本代表が、前回とは全く異なる戦いぶりでアジアカップ連覇を成し遂げる過程が描かれている。

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2005年01月19日

●『USAカニバケツ』

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『USAカニバケツ 超大国の三面記事的真実』
(太田出版)読了。ウェイン町山こと町山智浩氏のアメリカ生活エッセイ集第3弾。

前作『底抜け合衆国』が宗教右派(含ブッシュ)による政治的文化的締めつけ等の割と硬めのテーマを中心としていた(それでも娯楽性は十分だったが)のに対して、今回はサブタイトルの通り三面記事的な小ネタを中心に幅広い事象を取り上げている。題材としてはお馬鹿なもの(エマニュエル坊やにMCハマー、マイケル・ジャクソンとか(笑))から深刻なもの(ウェスト・メンフィス・スリーやスポーツ選手の腐敗等)、あとミステリアスなもの(謎の飛び降り自殺目撃!)まで本当に様々。

一通り読んでみると、一攫千金ないしシンデレラ・ストーリーで一旦成功した(「アメリカン・ドリーム」ってやつですか)人間が結局は挫折・没落してしまう話の割合が多いように思うのだが、気のせいだろうか。『アメリカン・スプレンダー』の作者みたいな本当のハッピーエンドもあるにはあるんだけど…。

2005年01月15日

●『封印作品の謎』

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安藤健二著『封印作品の謎』(太田出版)読了。取り上げられているのは『ウルトラセブン』12話(「遊星より愛を込めて」)、『怪奇大作戦』24話(「狂鬼人間」)、『ノストラダムスの大予言』、『ブラック・ジャック』41話(「植物人間」)・58話(「快楽の座」)、そして埼玉県監修のO157予防教育ソフト。

これらの作品に係る経緯は様々なれど、多くに共通しているのはある種の強烈な抗議の存在と、それが抗議する側の意図以上の影響(萎縮)を制作者側に与えて自主的な「封印」に至っていること。そして、そういった事例の積み重ねの結果として、今のマスメディアにおいて、行き過ぎた抗議へのトラウマが表現の窮屈さをもたらしているという現実がある。たとえ差別反対の趣旨であっても、差別の要因となる事象それ自体を語ることが難しくなってしまっているのだ。それってナンセンスちゃう?

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2005年01月11日

●『夕凪の街 桜の国』

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こうの史代著『夕凪の街 桜の国』(双葉社)読む。

…おそらく、いくら言葉を費やしても、どんなレトリックを駆使しても、この作品の素晴らしさを伝えることはかなわないだろう。帯にみなもと太郎氏が寄せた「実にマンガ界この十年の最大の収穫」というコメントは、けっして大げさではない。

原爆がもたらした消えない心の傷。不幸な死の後に残った、ささやかな愛情と幸福。生きていることのかけがえのなさ。読みながら自然と涙がこぼれ落ちそうになった。わずか100頁ほどの短編だが、心にもたらしてくれるものは限りなく大きい。

できるだけ多くの人に読んでみてほしい、と素直に願える。そんなマンガ。