●『技術力』
西部謙司著『技術力 サッカー 世界のスタープレーヤー』(出版芸術社)読了。世界各国の「名将」や「チーム作り」を主題に様々なサッカーのあり方をとりあげた前作『監督力』に続く第2弾。今度は「選手」を主題として、現代のサッカーの流れの中でなお残り続ける多様な個人・プレースタイル・ポジションを描き出している。
この本は『技術力』というタイトルのとおり、スタープレイヤー特有の技術やポジション別の諸スタイルについて論じている項がほとんどである。そのような箇所ではさほど奇をてらった記述はなく、適切なたとえ(ピルロをQBに見立てたのには膝を打った)を交えながらのわかりやすい説明で「なるほど」という感じである。TV観戦の副読本としても使えるのではないだろうか。少なくとも、チームの中核となる選手を何でもかんでも「司令塔」と呼びたがるマスコミ関係者には必ず読ませたい。
そして、西部さんというライターのいいところは、単にわかりやすかったり説得力があったりするだけではなく、文章の中に適度な遊びの部分があること。やっぱり一番楽しいのは脱線気味の部分である。例えば、冒頭のロナウジーニョの項なんて「ヤツの何が凄いって、あの笑顔がスゴイ」という話だし。「うふうふ」「たのしーっ、うれしーっ」「うれしさ全開、歯茎も全開」って、いいのかそこまで書いて(笑)。
ともあれ、この本の中で西部さんが一番強調したいのは、マケレレや中澤佑二の項で書いているとおり、「現代サッカーであろうと何であろうと、個性的な選手を11人組み合わせてこそのチーム」という事なんだろう。そういやトークライブでも「優れた個×11」的な現在の日本協会の強化方針を批判してたな。強化方針云々の適否については、僕にはまだ判断がつかない。でも、確かに、ピッチの中には大小剛柔色んな奴がいて、それが2つのチームとして競い合うからフットボールはいいのだ、という方向性については大いに共感できる。
さて、ここまで「監督」「選手」と来て、次に来るのは「クラブ」だろうか、それとも「ファン」だろうか。個人的にはどっちもやってほしいものではあるが…。続編求む。