●原博実監督について (『最も愛される監督・原博実-ヒロミズム』を読んで)
『最も愛される監督・原博実-ヒロミズム』(出版芸術社)読了。お馴染みサッカーライターの西部謙司氏が、インタビューで引き出した数々の言葉を手がかりとして原博実監督(「ハラヒロミ」)の魅力に迫った一冊。土曜日の味スタで完敗に打ちのめされた東京ファンにしてみれば、悪い冗談のようなタイトルかもしれないが(あまりのタイミングの悪さに著者も出版社も頭を抱えていることだろう)、僕は西部ファンでもあるので読んでみた。
「この薄さで1000円かよ!」というツッコミはさておき(笑)、なかなか良い出来の本だと思う。さすが西部さん、原さんの魅力についてよくつかんでいて、それを実にわかりやすく噛み砕いて伝えている。この本で描かれているのは僕たちが知っている「ハラヒロミ」だ。とにかくサッカーが好きで、サッカーの魅力を理解していて、ファンや選手に気を使うことができて、威勢が良くて、天然で、理想家で、「他にはない自分」を貫ける人物。
特に印象に残った(というより、重要に思える)のは、「正しく一人であり続けること」「監督で一番楽しいのは、選手が伸びていくのを見ていること」「特徴を生かすために捨てる」あたりだろうか。この3点を見るにつけ、やはり思い出すのは2002年のFC東京の状況だ。「浦和を降格させた人」という偏見を伴いながら、チームを大熊体制の「次」へ導くべくやってきた原さん。加地や石川や茂庭を獲得した東京。そして「攻撃サッカー」の旗印。
今にして思えば、原さんが監督に就任したタイミングは絶妙だった。なかなか結果が出ない中で原さんは全くと言っていいほどブレず、自分の理想とするサッカーを追求し、「攻撃サッカー」の旗印は次第に人の目を引いて東京は人気クラブへの道を歩んでいく。まだ無名の原石だった加地や茂庭や石川は長所を伸ばす方針の下でグングン成長し、いずれも日本代表、そして(前の2人は)なんとW杯出場まで上りつめた。
つまり、ポテンシャルを秘めた「若い」チームにとって、高い志と広い視野を持つ「育成型」の原さんはうってつけの人材だったのだ。その結果が、03年の魅力的なサッカーであり、04年のナビスコ杯制覇だったのだと思う。確かに、あの頃は楽しかった。監督の持つ特長とチームの状況、そしてサポーターの気質がピタリとはまった希有な例と言えるかもしれない。僕も、原さんがあの頃の東京に相応しい監督であったことに異論はない。
しかし、世の常として、特長は裏返せば欠点となり、美徳は一歩間違えれば問題となる。
05年の停滞。06年の混乱。07年の再停滞。全て原さんの責任ではないのは確かなれど、原さんの特長が裏目に出ていることは否めないと僕は思う。「特徴を生かすために捨てる」作業の積み重ねは東京を柔軟性に乏しく引き出しの少ないチームとし、「選手の特長を伸ばす」方針は一部選手の能力の偏りと勝点の取りこぼし、組織力の相対的劣勢(「一対一サッカー」)を招いた。そして「正しく一人であり続けること」へのこだわりは……。
同じ特長が、どちらかと言えば良い方向へ出ていた時期もあり、その後はどちらかと言えば悪い方向へ出ている、と。この本で「ハラヒロミ」というある種の「偏り」について確認してみて、改めてそう思うのだ。さらにいえば、よほど特殊な場合を除いて監督にも「賞味期限」があるのはそういうことなのかもしれない。特長を出すために監督が持つ「ネタ」には限りがあり、チームも常に移り変わっていく(それこそ原さんの言うとおり「生き物」だ)から。
そういう意味では、ガーロ監督が適任だったかどうかはともかくとして(多分、彼では難しかったのだと思う)、やはり昨シーズンの東京がチームに「新しい風」を入れようとしたのは、(そこまで深く考えていたかどうかはともかく)あながち間違いではなかったのではないか、と今でも思ったりする。逆に、05年あたりと変わり映えのしないサッカーに選手もサポーターも苦しんでいる現在の状況は、仕方のないことなのかもしれない。
原さんだって苦しいだろう、そりゃ。あれだけ理想を追いかける人が、通算5年目にもなってその理想の限界(あくまで「今の東京」限定かもしれんけど)にぶち当たっているのだから。
僕は、「ヒロミスタ」と自称するような人々とは相容れない部分があるけれども、サッカー人としての原さん、解説者やテレビレポーター(笑)としての原さんのファンだ。それは昔から、「浦和の人」だった頃からそうだ。だから、FC東京の勝敗云々とは違う次元において、今みたいにベンチで厳しい表情を浮かべたり敗戦後にボンヤリと人ごとみたいなコメントをつぶやく姿ではなく、明るく楽しい原さんが見たいと心底思う。
「縁がある」とか言ってないで、お互いに卒業しないと。もう。
[追記]
念のために。繰り返しになりますけど、今の東京の有様について原さん「だけ」が原因などというつもりは毛頭ありません。もっと根本的な原因は別の所にあると僕は思っています。
コメント
現在の東京には、大きく二つの問題があると思います。
一つは、チームのリズムを作る選手の欠如です。アマラオ・ケリーがチームを離れて以降、攻守の切り替えや試合の流れをコントロールする選手がいません。最近の東京は、行き当たりばったりの試合ばかり。先行しても、抜け目なく追加点を取るような試合は見たことがありません。
今なら、梶山の仕事でしょうが自分のプレイで頭が一杯のようです。梶山の成長を待つか、外から呼ぶか、決断の時期と思います。
もう一つの問題は、フロントがどんなサッカーをしたいのか、明確ではないことです。ロペス・福田・ササ・(アモローゾ)・平山・ワンチョペと運動量を期待出来ないFWを取り続けていますが、どんなサッカーをしようというのでしょうか?彼らにゴール前に張ってもらうなら、両サイドにクロスの上手い選手やFKの精度の高い選手が必要ですが、今の東京の選手層とは合ってません。
現有メンバーで行くなら、縦への速さを生かすべきでしょうし、別のサッカーをしたいならメンバーの大幅な変更を考えるべきでしょう。いずれにせよ、停滞も3年目。やりたいサッカーのビジョンを明確にすべきです。
Posted by: コタツねこ | 2007年08月14日 12:14
やっぱあの後で購入したんですね
>あまりのタイミングの悪さに著者も出版社も頭を抱えていることだろう
私も原さんの色がいろいろな面で出ていた反面。このタイミングで出している以上は”今”を即した形で書いてくれている部分があってくれてよかったかと…
西部先生の文章は嫌いではないのでなおのこと
例えるなら今の時期に『美しい国へ(by安倍晋三)』を今の時期に出すぐらいのタイミングの悪さを感じます(笑)
Posted by: よっし~ | 2007年08月14日 23:01
>「この薄さで1000円かよ!」というツッコミはさておき(笑)
最初見たとき、ゲームの攻略本かと思ったよ。(苦笑)
それはさておき宿沢本2冊のレビューまだー!?
どうせ読んだんでしょ。待ちくたびれた~(笑)
Posted by: ぶらっくばす | 2007年08月21日 00:10
>今の時期に『美しい国へ(by安倍晋三)』を今の時期に出すぐらいのタイミングの悪さ
わかりやすすぎるたとえだなあ(笑)。
>それはさておき宿沢本2冊のレビューまだー!?
>どうせ読んだんでしょ。待ちくたびれた~(笑)
まだ読んでないの(笑)!!今、ちょっと靖国関係のを読んでてね。少なくとも、永田さんのは読んでみたいんだけど。
Posted by: murata | 2007年08月21日 23:51