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2006年10月06日

●『街場のアメリカ論』

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内田樹著『街場のアメリカ論』(NTT出版)読了。フランス現代思想を専門とする筆者が、「日米関係の歴史」「アメリカン・コミック」「リスクヘッジの統治システム」「シリアル・キラー」「訴訟社会」などといった様々な側面から、アメリカ合衆国という国の特質や病理について考察した異色の論考集。


以下、断片的に感想を挙げてみる。

「門外漢」であることを逆手にとって冒頭でその旨宣言することにより、巷に溢れかえるアメリカコンプレックスや「アメリカ問題専門家」的言説からの自由を確保。いかにも内田さんらしい手法だ、と思った。要所でアメリカ以外の国に関する歴史や思想も持ち出しつつ、結論に至るまで縦横無尽の快走。

テレビや雑誌などでよく目にするアメリカ論、つまり「事情通」による最新・大量のデータや情報の集約とは異なり、逆に「腐り得る」表現や情報を極力捨て去ることによって、ある意味普遍のアメリカ像を描くことに成功した本と言えるだろう。それは、ひるがえってそこから普遍的な日本像を認識できるということでもある。

各章で導かれる結論は、「そうなんだ!」と驚くよりも、「そう言えばそうだ」と納得するものが多い。つまり、普段何となく僕らが直感しているアメリカの特徴について明確に言語化してくれているということ。例えば、「アメリカの統治システムは人間の愚かさを勘定に入れているから、トップが駄目でも大丈夫」とか。

同じ筆者の著作でも、『街場の現代思想』に比べれば論理的にスムーズでずっと隙が少ないように思えるのは、おそらく大学の演習における討議を基にしているからなのだろう。当たり前の話なんだけど、複数の視点から叩いたものの方が、外部からの批評に対しても耐性が高いということだーね。

歴史学と系譜学の話で出てくる「過去から現在までがまっすぐに因果関係でつながっているというようなシンプルな物語に依存しないためには、年号を覚えておくことがぎりぎりの防衛線」というくだりでは、河合塾で石川晶康先生に習った日本史を思い出したね。「歴史に流れはない」というやつである。


まあ、内田さんの著書は大抵そうであるように、これは頭をほぐすストレッチになる一冊である。1680円くらいなら、出す価値は十分にあると思う。アメリカってのは、日本人にとって存在が近くて大きすぎるがゆえに、逆に「アメリカとは?」って真面目に考えたことのある人は少ないのではないかな?

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コメント

こんばんは。先日は丁寧なレスポンス、ありがとうございました。
『街場のアメリカ論』、面白そうですね。レビューを拝見していて司馬さんの『アメリカ素描』を思い出しました。これも門外漢の見たアメリカという視点から書かれていて、特に印象に残っているのは「アメリカは多民族国家だから、文化的な背景を問わずに誰にでも分かる、誰でも使えるような様々な発明や工夫が生まれ、その汎用性ゆえにメイドインUSAの製品や思想は爆発的なスピードで世界中に広がったのだと思う」というような文章でした。アメリカ人はバカだバカだと言われるけど、バカでも使えるように作ってあるから俺もアメリカ製品が好きなんだな、とか思いましたよ。

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