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2010年03月26日

●『サッカーを100倍楽しむための審判入門』

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あれはもう2ヶ月余り前になるのか、FC東京新体制発表会の日に新宿で飲んでいてfct-fan氏に「読め!」と突きつけられた(実話)、松崎康弘著『サッカーを100倍楽しむための審判入門』(講談社)をようやく読んだ。日本サッカー協会審判委員長が自ら著した、知っているようで知らなかった審判に関する画期的な一冊。
 
タイトルにも「審判入門」とあるとおり、この本はサッカーの審判に関する諸々の知識のうち初歩的なものから(ファンにとっては)やや高度なレベルのものまでをわかりすく説明したもの。構成的には第1章は近年のJリーグで物議を醸した判定の例、第2章は審判の歴史、第3章と第4章は日本における審判制度と具体的な試合日の流れ、第5章は特に重要な「ゲームコントロール」というテーマ、そして第6章は審判になるための道筋について、それぞれ解説している。

 
一読した印象としては、「快著」だな、と。

 
まず「おっ」と思ったのは、文章の読みやすさであり解説のわかりやすさである。内容的には決して薄い訳ではなく、むしろB6版の本にしては盛りだくさんの印象すらあるのだが、スラスラと引っかからずあっという間に読めてしまった(読むまで2ヶ月余かかったのは、単に僕の無精のため)。失礼ながら、最初は「本人が書いてるのかな?」とも思ったのだが、考えてみればこれだけわかりやすい文章をかけるサッカーライターというのもなかなかいないような(笑)。

内容的にも、近年のJにおける具体例(西村主審の「死ね」事件とか、鹿島×川崎の大雨中止事件とか……)をズバズバ挙げて判定の適否を解説する第1章などは、審判の役割やあるべき姿を明確に示す素晴らしいものだ。正しい判定も誤った判定も丁寧に解説する姿勢は、当時観ていてモヤモヤしていた僕らにとっては爽快に感じられる。ピクシーの「スーパーゴール」への対応について、主審に「拍手を送るくらいの度量」を求める見解などその最たるものだろう。

僕はJリーグの審判がみんな下手くそとか間違いだらけとは思わないし(少なくとも多くの場合、観客よりはよく見えているだろう)、以前「審判をほめよう!」という文章を書いたこともある。所詮人間のやることだから、ノーミスの完璧さを求めようとは思わない。ただ、やっぱり「説明」がないとストレスがたまるものなんだよね。たとえ100%納得できないとしても(この本もやや審判に甘めなところはある)、「なぜだ?」の疑問にはどこかで答えてほしいのだ。

だから、こういう本が世に出て、審判側のミスもきっちり認めながら(←ここが重要)責任者の肉声で語ることには本当に大きな意義がある。以前JSPORTSの「F.A.」や「Foot!」にモットラムさんや上川徹さんが出演して解説してくれた時も、ご両人の人柄もあって大変感銘を受けたものだ。サッカーを楽しみとするファンの素朴な願いとしてそういう機会はどんどん増やしてほしいと思うし、松崎さんも透明性を高める方向性を強調しているようなので期待したい。
 
  
……と、つい第1章の良さばかり強調してしまったけど、残りの章もなかなか読み応えがあるということはちゃんと書いておこうか。第2章〜第4章の審判基礎知識&豆知識パートには知らない話も色々とあって勉強になった。例えば、「サッカー審判はJ2級に上がった時点で「主審」と「副審」に完全に分けられてしまう」という事実は知らなかった。同じ日本でもラグビーとかだと、主審と副審はローテーションで担当して厳格なカテゴリー分けはされてないから。

あと、第5章のゲームコントロールの話はかなり高度な内容も含んでいるんだけど、その中で個々の審判の特徴に触れているのが面白い。「家本さんは細かい所が見え過ぎて笛を吹きすぎ」とか「村上さんはおっちょこちょい」とか「西村さんはフィジカルは強いが、少し神経質」とか。しかし審判ってのは大変だね、ファンには文句言われるわ、委員長には厳しく書かれるわ(笑)。まあ、第6章に書かれている「狭き門」ぶりを見ても、リスペクトしなきゃな、とは思う。
 
 
通して読むと、なんつーか、全体的に公正さを保っているんだけど、言葉の端々や行間には「審判の事をもっとわかってほしい」という本音も垣間見えるんだよね。無理矢理審判の正当性を強調するのではなく、間違いや不完全な部分は正直に認めた上で、ファンとも「同じサッカー仲間なんだからもっとうまくやっていきたい」という思いが発せられているというか。だからこそ僕はシンパシーを感じることができたのだと思う。率直に、良い本だと思った。お薦めです。
 

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コメント

これはいい書評!
読みたくなるし読まなきゃいけない。
観客の立場に理解を示しながらも審判のことをわかってくれよーと言っているというのが伝わってきました。
ぜひ読みたいと思います。

こんにちは

多分始めまして(何処かであってるかもしれないけど…)
この本は知りませんでした、面白そうなので探して読んでみます。

ご無沙汰しております。以前鹿島スタ行きの電車でお会いした内田ファンの娘を持つmaruです。初投稿かもしれません。
いつも楽しく読ませて頂いております。
で、この本を読みました。面白かったですね~。
Jを吹く人がこんなすごい選ばれたエリートだったとは3級審判の私も知りませんでした。これってかなりのレベルですよ。信じられない位。

「審判をほめよう」の記事も読みました。2002年の段階でこのような内容を書けるとはさすが普通のサポーターとは違いますね。

やっぱり僕は審判とその国のサッカーのレベルは比例して成長していくものなのだと思います。東京ゴール裏も「くそレフェリー」なる醜いコールはやめてほしいと思うのですが…。

>シュート入らないさん
>TokyoCowboyさん
ぜひ読んでみてください!審判に対する見方がちょっと変わるかもしれませんよ。

>maruさん
どうもご無沙汰です。面白かったでしょ〜。私も、彼らがここまで「選ばれし者」だとは知りませんでした。もう少しリスペクトしたいものですよね、もちろんたまに(しばしば(笑)?)「えー」と思うことはあるにしても。

>審判とその国のサッカーのレベルは比例して成長していく
>「くそレフェリー」なる醜いコールはやめてほしい
完全同意、です。

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