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2015年06月15日

●『ニッポンの音楽』

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佐々木敦著『ニッポンの音楽』(講談社現代新書)を読んでみた。1960年代末から現在までの約45年間、日本のポピュラーミュージックにおいて脈々と続いているある重要な流れについて、日本音楽の「内」と「外」や1990年代に誕生した「Jポップ」、そして「リスナー系ミュージシャン」といったキーワードを用いて振り返る一冊。


この本が特徴的なのは、10年ごとに「物語の主人公」を設定してそのディケイドの音楽シーンをひとつの物語として語っていることだろう。70年代ならはっぴいえんど(細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂)、80年代ならYMO(細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏)、90年代なら渋谷系(小山田圭吾と小沢健二、ピチカート・ファイヴ)と小室哲哉、ゼロ年代なら中田ヤスタカ、という具合である。

このような書き方は、描く対象がより明確になってわかりやすい反面、当然ながら多くのものを省略して削ぎ落とすことになるわけで、著者も書いている通り網羅的な歴史書や資料ではありえない方法論だ。ただ、読み物として考えればおそらく正解で、「主人公」の誰か1人にでも思い入れや興味があれば確実にツボに入る本となっている(逆に言えば、全くピンと来ない人も多いだろうが)。

で、僕はといえば、90年代(大学時代)にコーネリアスやそこから遡ってフリッパーズ・ギターにハマったくちなので、とても面白く読み進めることができた。もちろんこれまでも小山田圭吾や小沢健二の音楽性や来歴については知ったつもりになってたんだが、それを歴史の中で位置づけ、彼らの先達や後に続く存在と比較することで改めてその存在の大きさについて思い知ったというか。

なるほど、歴史を変える存在というのはこういうことか、そしてそれが繰り返すのね、という話が延々と続く。YMOやはっぴいえんどについても、逆に最近の中田ヤスタカについてもおぼろげな知識しか持っていなかったのだけれど、いや、それぞれユニークでいて共通点もあって、まとめて振り返ると面白いんだね。


本の中で特に一番熱を感じ、心を揺さぶられたのはYMOの物語だった。その志の高さや発想の大きさ、画期的な活動ぶり、そして天邪鬼なところ。リアルタイムで追ってたらさぞ魅力的な存在だったんだろうなあ、と。今回、iTunesストアで主要アルバムを買ってみたんだけど、今聴いても素晴らしいね。『ライディーン』は言うに及ばず、『東風』や『U.T.』、『千のナイフ』『CUE』なんかも実にカッコいい。

そこら辺は著者の佐々木さんは僕より年齢的に10個上なので、(渋谷系にハマってた)僕とはちょうどスイートスポットに当たる音楽年代が一つ違うということなのかもしれない。そういう視点の違いみたいなのを意識して読むとさらに面白いのかも。

つーか、何年か前にNHKでYMOの3人がこたつに入ってみかんを食べながらトークし、その合間にスタジオ演奏が挟まるというスペシャル番組をやっていて「なぜこたつ?」とか思ったんだけど、この本によれば実際に70年代末、3人は細野さんちに集まってこたつで結成の相談をしたんだそうな。「最新のデジタルサウンドでアメリカ市場に打って出るぜ!」って話をこたつでしてたのかよ(笑)。いい話だなー。


ちょっとわからなかったのは、巻末の締め括りのところ。日本音楽の「内」と「外」の関係で全部をまとめようとする論法も強引に思えたのだが、それ以上にいわゆるテン年代の話(「Jポップ葬送」?)を書いたくだりがよく理解できなかった。これは僕が最近の音楽をあまり聞かないのと、やはり正確にとらえるのが困難な現在の音楽状況を起点にする難しさ、ということだろうか。歴史書としての宿命というか。

まあ、でも、そこら辺も含めて、この著者は色々言われるのを覚悟で書いているんだろうな、とは思う。ポピュラーミュージックなんてそれこそ多くの人が色々な思い入れを持っていて変化が激しいものを題材にするからには、なかなか大多数が納得できる書き方はできないし、筆者も認めているようにあっという間に古くなってしまうのは避けられないだろうから。勇気ある一冊なのは間違いない。


しかし、はっぴいえんども第1期YMOもフリッパーズ・ギターも(ついでに全盛期小室哲哉の歌姫としての安室奈美恵も)、実質的な活躍期間はほんの3年くらいなんだよね。ものすごい密度というか、活動の長さと歴史的なインパクトとは全く別物(別に反比例するわけではないんだろうけど)ということがよくわかる。うむ。

あと、大瀧詠一さんも一昨年亡くなったけど、YMOのメンバーってみんな60代を軽く超えてるんだよね……元気なうちに楽しんでおかないとなあ。マジで。


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