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2009年01月08日

●オフシーズンは、本でサッカーれ!

ふと、最近は観戦記ばかり更新していて、本や映画についての記事をほとんど書いていないことに気づいた。ということで、昨年の秋から暮れにかけてに読んだサッカー本のうちお薦めのものを3冊ほど紹介してみようか。……結局サッカーかよ(笑)。つーか、一昨年暮れの記事ではその年に気に入った本や映画について3つずつ挙げてるんだけど、去年は「ベスト○」を選べるほど(サッカー以外のジャンルの)数をこなしてないんだよな……うーむ、今年は頑張ろう。
 
 
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まずは、いとうやまね著『サッカー誰かに話したいちょっといい話』(東邦出版)。足かけ4年、60カ国70人ものサッカーファンへの取材をもとにした連続読物。イタリアの教会の庭で、トルコの道路で、チュニジアの広場で、コソボのアパート裏で。様々な場所における「サッカーの日常」が描かれている。少年は近所の八百屋をヒーローと仰ぎ、若者は飛行機事故で散った我がチームの悲劇に涙し、人口肛門を付けた老人は80歳を超えて今日もボールを蹴り続ける。

この本の良いところは、それらのエピソードを変に叙情的にならず、抑制の利いた筆で綴っているところ。登場するのはスターではなくあくまで「普通の人」。派手に見せようとすればわざとらしくなるから、描き方がおとなしくなるのは当たり前かもしれない。でも、膨大な数の、地味かもしれないが「彼らにしかあり得ない」体験を淡々と読み続けているうち、なんというか、不思議な共感みたいなものが沸いてくるのだ。「ああ、やっぱサッカーっていいよな」という。

多分、「サッカーとはこれほどまでに色々であり得るのか」という感激と、その一方でシンプル極まりないサッカーという一つの競技を「これほどまでに色々な人が愛しているのか」という感動との、両方から来る思いなんだろうな。

特に好きなエピソード2つ。1つは、ガーナのクラブチームのファンがバスで0泊5日、サバンナを突っ切って応援に行く話。途中、いかなる場合も停車してはならない(猛獣に襲われるから)。もう1つは、ノルウェーのチームがある島へ遠征した時の話。滞在時間が限られるため、フェリーの中で着替えて慌ててグラウンドに到着すると、相手チームが震えながら「4-4-2で」待っていた(そして、羊の乱入で中断した試合は、フェリー出航により85分で終了した)。

サッカーっていいよね(笑)。
 
 
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つづいては西部謙司著『サッカー戦術クロニクル』(カンゼン)。古くは第二次大戦前のオーストリアに始まり、1950年代のハンガリー、70年代のオランダ、80年代のミラン・バルサからそして現代にまで至る、いわゆる「トータルフットボール」と称される戦術的な潮流を追いかけた一冊である。西部さんが持ち前の豊富な知識と歯切れ良い語り口をいかんなく発揮し、古今東西に現れた「未来のチーム」について語る。

西部さんは同時期にやはり「戦術」をテーマとした『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版、浅野賀一さんとの共著)という本も出しているんだけど、僕はこの『~クロニクル』の方が断然良いと思う。『~が最高峰』は現代の各国リーグとそのトップチームの戦術的特徴について解説した、いわば横軸のカタログ的な本。それに対し『~クロニクル』は「トータルフットボール」を縦軸として、サッカーの進化の歴史を追った本。

TV観戦を楽しむための情報源として考えると、あるいは『~が最高峰』の方が有用かもしれない。しかし、僕としてはやはり、トータールフットボールという「夢」ないし「理想」を追いかける物語としてサッカー史を解釈する見方に惹かれるのである。ジミー・ホーガンに始まり、ヴンダーチームからマジック・マジャール、そしてクライフ。それらがサッキやバルサ、ジョゼさんを通じて僕たちの目にしている現在のサッカーにつながっているとは、なんて素敵なんだろう。

そして、言うまでもなく、その「夢」と「理想」の種は、この日本にもまかれているのだ。
 
 
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最後は、宇都宮徹壱著『股旅フットボール』(東邦出版)。ライターであり写真家である筆者が、日本固有のサッカー文化を求めて「百年構想」の最前線を駆け回る。グルージャ盛岡、V・ファーレン長崎、ファジアーノ岡山、ツエーゲン金沢、カマタマーレ讃岐、FC岐阜、FCMi-Oびわこ草津、町田ゼルビア、ノルブリッツ北海道、とかちフェアスカイジェネシス、そして「全社」に「地域決勝」。こうして取材対象を並べるだけで、いかに奇跡的な一冊なのかがわかる。

筆者自身が「光と影」と表現しているとおり、描かれるのは多かれ少なかれ問題を抱えたチームの姿ばかりだ。「底辺からJを目指す」のは生やさしいことではない。不足する資金、経営ノウハウの欠如、劣悪な環境、市民のサッカー熱の低さ、地域的なハンディキャップと戦力不均衡。それらを乗り越えて地域決勝に進出したチームの前には、理不尽な大会ルールが立ちはだかる。06~07年のV・ファーレンが直面した現実には思わず愕然、である。

それでも、この本がネガティブな色に染まってしまわなかったのは、彼らのあがく姿を冷静に、しかしあくまで応援目線で追いかける宇都宮さんの姿勢によるところが大きい。愛が感じられるんだな、要するに。そして、今はまだはるか遠くの出来事かもしれないけれど、そのサッカーは僕たちの応援するチームと確実に地続きになっている、という点もまた共感を呼び起こすのだ。僕たちと彼らと、追いかけているものはきっと同じ。そう、ここにも「夢」がある。

読み進むうち、2年余り前に目撃したV・ファーレンと岐阜の死闘を思い出した。大分九石ドームの近くにある小さなグラウンドで行われた地域決勝。試合前、青赤のユニフォームを着ている頃と全く変わらぬ不敵な表情でアップしていた、小峯隆幸の勇姿……。

栃木SCとカターレ富山、そしてファジアーノ岡山の皆さん、J2昇格おめでとう。町田ゼルビアと、そして今度こそ地域決勝を勝ち抜いたV・ファーレン長崎の皆さん、JFL昇格おめでとう!いつか、FC東京と彼らが相まみえる日の来ることが本当に楽しみだ。ただし、願わくば、その場所が2部とか3部とかではありませんように(笑)。上がってきたら、ガチンコでやろうぜ。
 

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