●『70年代日本SFベスト集成1 1971年度版』
相変わらず本を読むのが遅くて60年代ベスト集成のレビューをしてから2ヶ月もたってしまったんだけど、筒井康隆編『70年代日本SFベスト集成1 1971年版』(ちくま文庫)を読了した。筒井さんが「日本SF」の中心的作家として活躍していた頃の伝説的(と僕は勝手に思っているが)アンソロジーの第2弾(原書の刊行順としては第1弾)。
収録されているのは、半村良『農閑期大作戦』に眉村卓『真昼の断層』、星新一『使者』、小松左京『保護鳥』、光瀬龍『多聞寺討伐』、広瀬正『二重人格』、河野典生『パストラル』、梶尾真治『美亜に贈る真珠』、永井豪『ススムちゃん大ショック』、高齋正『ニュルブルクリンクに陽は落ちて』、荒巻義雄『ある晴れた日のウィーンは森の中にたたずむ』の11作品。
今回の復刻版の帯に「黄金期の魅力と迫力!記念碑的アンソロジー。」とあるけれど、これは全くその通り。有名無名様々な短編が含まれているが、1980年代後半〜90年前半のまだまだ「日本SF」そのものが力を持っているように思えた時期にそのジャンルにハマっていた僕にとっては、まさに珠玉の作品ばかり。これらが同じ年の作品というのは本当に凄いことだと思う。
特に、高齋正『ニュルブルクリンクに陽は落ちて』については、おそらく十数年ぶりに再読して、あらためて感動してしまった。何度読んでも泣けるんだな、これは。
舞台は細菌兵器で人類の大半が滅んだ第3次大戦後のドイツ。メルセデス社のF1ドライバー・ハインツは、同僚のクララとともに人気の絶えたニュルブルクリンク・サーキットで開発途中の新車のテストを続けていた。互いに想いを寄せる2人だったが、細菌は数少ない生き残りである彼らの身体をも次第にむしばみ、そしてハインツがコースレコードを更新した時、ついに悲劇が……というお話。
四半世紀前に初めてこの作品を読んだ時、成就されない愛のやるせなさに衝撃を受けたのを覚えいている。もはやレースに出ることのかなわないF1カーと、自分の愛をなかなか受け入れてもらえないヒロイン。そのいずれをも愛していて、しかし自分に残された時間が刻々と失われていく主人公の苦悩。そして結局、彼らの誰もが満足に報われることのないまま、物語は唐突に終わってしまう。
「報われなさが愛の純度を高める」という、まさに厨二的な(でもおそらく真実を含んだ)観念といったらいいのだろうか。しかも物語が展開されるのは「世界で最後に残されたただ2人と1台」というシチュエーションにおいて、である。解説の筒井さんが「車への愛情が文学的主題にまで高まった傑作」と解説しているのはまさに正鵠を射ていると思う。本当に切ないなあ、と。
まあ「車なんかよりも両思いの彼女を先に抱いてやれよ」と言ってしまえばそれまでのような気もするし(笑)、大人になってから読んだらそこまで感動しなかったかもしれないけど、最初に読んだのは僕がちょうど中二くらいの時だったので。思い出の一篇であります。
もうひとつ、忘れようとしても絶対に忘れられないのが永井豪『ススムちゃん大ショック』。
ある日、小学生のススムがいつものように登校前に公園に立ち寄ると、そこには地獄のような光景が広がっていた。何の前触れもなく突然子供を虫けらのように殺し始める大人たち。公園だけでなく街角でも、学校でも、虐殺はいたるところで行われていた。ススムは数人の仲間たちとともに下水道に潜って難を逃れるが、しかしそのうち……というお話。恐ろしい漫画である。
何が恐ろしいって、物語を文字に起こすだけでも恐ろしいんだが、とにかく絵が怖いんだよね。永井豪って元々はコメディの人だし、特にこの作品の頃は絵柄も劇画調とはほど遠くて可愛らしいんだけど、それだけに一旦スプラッター方面に走ると絵と描かれている事柄とのギャップで恐怖感が倍増するのね。そしてこのテイストが後の『デビルマン』等にも受け継がれていく、と。
しかし、初めて読んだ時はまだ自分自身子供時代の方が近かったので「殺される側」の恐怖感が大きかったんだけど、この歳になって子供ができると別の怖さが増してくるね。ここまで極端ではないにしても、自分だっていつ「殺す側」に回るかわからんよな、というか。ショッキングなラストシーンには改めて戦慄を覚える。僕にとっては同じ作者の『デビルマン』と並ぶトラウマ漫画である。
いずれにせよこの本、今回詳しく触れた『ニュルブルクリンクに陽は落ちて』と『ススムちゃん大ショック』の二つを読むためだけでも買う価値があると思う。もちろん繰り返しになるけど、それ以外にも傑作揃いの一冊。『保護鳥』はSFホラーの、『未亜に贈る真珠』はタイムトラベル恋愛ものの、それぞれ日本におけるオールタイムベストに入ってもおかしくない作品だろう。
こういうのを復刊してくれる筑摩書房はえらい!と思う。これからもどんどんよろしく(笑)。
↓よかったらクリックして下さい。
にほんブログ村