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2006年01月25日

●『奇跡のラグビーマン』

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大友信彦著『奇跡のラグビーマン-村田亙37歳の日本代表』(双葉社)読了。ヤマハ発動機ジュビロの一員としてトップリーグで活躍するラグビー(元)日本代表、村田亙選手の半生を描いたノンフィクション。
 
村田亙といえば、生来のスピードを生かした攻撃プレーによって数々の栄冠に輝く一方、ジャパンの一員としては「不遇」のイメージがつきまとう選手でもある。強力なライバルの存在もあってW杯では十分な出場機会を得られず、「145」の惨事の当事者ともなった。積極果敢なスタイルゆえに怪我は多く、競技生活の総決算となるはずだった前回のW杯でも直前でメンバー落ち。ファンとしては、その能力を考えればどうしても「報われていない」ように思えてならないのだ。

だが、この本であらためて振り返ってみると、そんな同情や心配など余計なお節介でしかないことがよく分かる。3度のW杯出場、東芝府中での日本選手権3連覇、日本人として初めてのプロラグビー選手、37歳での日本代表復帰……。常に逆境に戦いを挑み続けるファイターであり、地球の裏側で確固たる足跡を残した偉大なラグビーマンでもある人物。そしてそんな彼を支える、温かい家族や友人たち。何と豊かな人生を歩んでいるのだろうと、今さらながらに驚かされる。

最も印象的なのは、フランス移籍の経緯だろうか。ジャパンのチームメート岩淵健輔からF1ジャーナリスト、そしてマルボロの広報担当者やTV局のスポーツコメンテーターを経て、はるか南仏バイヨンヌの会長へ。偶然と、無謀とも思える情熱と、そして人々の善意がつなげた細い糸。移籍市場のシステム化が進むサッカーではちょっと考えられないプロセスであるし、僕たち日本のラグビーファンにとっては感謝すべき「奇跡」なのかもしれない、とさえ思う。

本書はそういったエピソードについて、粘り強い取材を基にかなり細かい部分まで描く事に成功している。難点を言えば、物事の因果関係について「亙がいたからうまく行った」あるいは「亙がいないから駄目だった」的な流れにやや傾きがちなのと、あとは大友さんの文章が「熱すぎる」ことだろうか。特にプロローグやエピローグのあたり、言い回しがちとクサすぎるかな、と。ここら辺は筆者の個性でもあるし、伝記とはそういうものなのかもしれないが、村田さん自体が劇的な人物だけにもう少し淡々と描いた方がよかったかもしれない。

とはいえ、語り継がれるべき偉大な選手について、このように単行本という形でまとめられたのは喜ぶべきことに違いない。今の日本ラグビーに決定的に欠けているのは「近現代の物語」なのだから。また、できればラグビーファンのみならず、それ以外の人々にも読んでほしいとも思う。「野球やサッカーやオリンピック以外でも、こんな凄い選手がいるんだぜ!」と胸を張って言いたい、村田亙とはそういう存在なのである。

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コメント

この本買おうか迷っていているところです(笑)。
wataさんの専大時代から地道に取材してこられた大友さんでありますから既出の著書でも細かなドキュメントは描かれておりましたが。

wataさんがヤマハに来た時には関西リーグでプレーが観れるのかと思うと驚き、瑞穂でヤマハ×近鉄の試合を観た時には感慨深いものがありました。

今も水色のジャージですが、やはり東芝府中の「PからGO」の頃の水色のジャージ姿が印象に残っています。

ヤマハ応援団はwataさんの偉大さを認識していないような気がしますが(笑)。

予測ですが、藤田俊哉がユトレヒトに移籍したのは経験者であるwataさんの後押しがあったのかと…

「145」の重い十字架を背負ってる日本ラグビー、オールブラックスのものを身につけている日本人を見るとつい五臓六腑が煮えくり…(苦笑)。

>この本買おうか迷っていているところです(笑)。
買って下さい(笑)!
そうやってラグビー本の売り場を増やさんとー。

>やはり東芝府中の「PからGO」の頃の水色のジャージ姿が印象に残っています。
そうそう。速かったですからね。村田さんがSHじゃなきゃ、あれほど鮮烈なチームにはならなかったでしょうね。対応できない相手のチームがほぼ毎回ノット10m取られてましたからね。

>ヤマハ応援団はwataさんの偉大さを認識していないような気がしますが(笑)。
それはもったいない。彼はトヨタの廣瀬と並ぶ国宝級ですよ(笑)。

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