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2005年11月04日

●『マンガの深読み、大人読み』

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夏目房之介著『マンガの深読み、大人読み』(イースト・プレス)読了。マンガ家でありマンガ評論家でもある夏目房之介さんの評論集。主に表現手法を切り口として、扱う題材は手塚治虫、鳥山明、ねこぢる、『ピーナッツ』、浦沢直樹、『クレヨンしんちゃん』、いしいひさいち、永井豪、未来都市、黄表紙、『巨人の星』、『あしたのジョー』、日本マンガの海外進出と、実に様々。

難しめの本である。収録されている評論1本1本は、確かにマンガの見方を変えてくれそうな興味深い内容で、特に「アトムや矢吹丈の正面顔」の話やいしいひさいち論あたりはかなり面白かった。でも、それらをまとめて一冊分のボリュームにしちゃうと、読むのが大変だな、というのが正直な感想。全体的にアカデミックな色彩が強いため、ちと心してかからねばならないのである。あと、巻末の日本マンガ文化論は(本人も認めているように)ちょっと論としてのクオリティがイマイチかな、と。

 
ただ、第2部「『あしたのジョー』&『巨人の星』徹底分析」については、文句なしに良いと思う。お得意の表現論と連載当時の状況の再現と筆者の思い入れとの相乗効果。両作品の魅力を的確にとらえており、しかも関係者の熱い思いがひしひしと伝わってくる。特に『あしたのジョー』論とちばてつやインタビューはグッドジョブ!力石やジョーの顔の変化や連載時期によるキャラの登場頻度と物語のテーマとの関連、さらにはそのテーマと当時の漫画界の状況の関連について見事に論じてみせた。これはすごい。

そして、改めて振り返ってみると、やはり『あしたのジョー』の最終回は素晴らしい。ラストシーンばかりが強調されがちだけども、そこに至るまでの描写・構成がとにかくいいのだ。「最終15ラウンドには、ほぼ意識のないような状態の丈が、少年院でおぼえたコンニャク戦法、さらにクロスカウンター、トリプルクロスと、過去の戦いの歴史を重ねてみせる」そうそう。それが燃えるんだよ。「このとき狂喜乱舞する観客は、読者たちでもある。いや、リアルタイムで読んでいた、僕ら読者そのものだった。」ホントそうだと、膝を打つ。読んでて思わずガッツポーズしたくなるもんね(笑)。

で、問題の『あしたのジョー』のラストシーン。ジョーが左側を向いて座っている事の意味づけには驚かされた。左は未来、右は過去か…。なるほどね。ちょっぴり「深読み」が過ぎるような気がしないでもないけれども、しかし確かにあそこでジョーが右を向いて座っていたら印象は違ってくるような気はするね。未来を向いて終わるからこその『あしたのジョー』ですか。なるほどねええ。


そういや、夏目房之介という人は、初期の『Number』で連載を持っていて、古いスポーツマンガについて模写(引用?)も交えながら楽しく紹介していたような記憶があるな。あのコーナー、どこかで単行本に収録されたりしてないのかな?今度調べてみよう。

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コメント

本人です。感想、ありがとうございます。ナンバーの連載は双葉社から『消えた魔球』として単行本化され、その後新潮文庫になりました。よろしく。

どうもこんにちは、夏目さん。

新潮文庫ですね。さっそく探してみます。ありがとうございます!

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