●『60年代日本SFベスト集成』
年末年始に買って積んである本が全然片付かないままの日々だが……前にちくま文庫で復刊されているのを見つけてた、筒井康隆編『60年代日本SFベスト集成』をようやく読み終わった。今や日本文学界の大御所的存在となっている筒井さんだが、1970年代には「SF作家」の代表的存在としてこの手のアンソロジーを手がけていたのである。
この『ベスト集成』シリーズ、僕が子供の頃に徳間文庫から出ていたのだけどなかなか本屋に置いてなくて(当時はAmazonなんて便利なものはなかったのだ)、選りすぐられた古めのSF短編がまとめて読める貴重な機会だったのであちこち大きめの本屋をハシゴして探し回った記憶がある。今はまたこうして普通に買えるようになったんだからいい時代になったな、と思う。
内容的には文字通り日本SF黎明期、いわゆるSF作家第一世代の初期の傑作たち(しかも筒井さんのセレクトだからけっこう捻ってもいます)が集められていて、特に星新一『解放の時代』と荒巻義雄『大いなる正午』は凄い。前者はポルノを超えたポルノというか、まあ僕が今までに出会った小説で一番衝撃的な部類のものである。それを星さんが書いたというのだからもう……。
荒巻さんの『大いなる正午』は「高次元の海に堤防を築く」というもの凄い難解なストーリーの時空土木SFで、当時の筒井さん曰く、
なぜそんなことをするかというと、始原にして終末の不可視の海というのがあり、その海岸線というのが次元の境界なのである。そこにあった高次元破堤が、渚の時層が柔らかすぎて壊れたため、高次元泥層という頼りないものを支持層として補修するわけだ。おわかりであろうか。なあに、書いている方だってぜんぜんわからない。
この解説もさすがは筒井さんだよな。で、僕も最初に読んだ時はチンプンカンプンだったわけだが、今回読み直してみたら、なんとなくわかったような……気がしているだけかもしれない(笑)。
他にも、もちろん小松左京さんや半村良さん、手塚治虫さん、石原藤夫さん、山野浩一さんらのキラ星の如き傑作が並んでいる(でも『終わりなき負債』は小松さんとしてはイマイチかな)。どの作品も20年ぶりくらいに読んで懐かしさを覚えたけど、書かれたのは50年も前なのにどれも大して古びてないのは凄いな、と。ただ、既に半分以上が故人なんだね。平井和正さんも先日亡くなったし。そう考えるとちょっと寂しいな。
ちくま文庫ではこの本に続いて1970年代のベスト集成も復刊され始めてるみたいなので、もちろん買って読みたいと思う、というか既に71年版と72年版は買ってあるんだけど、詰んだままなんだよな。僕は本を読むのがメチャクチャ遅いので、つくづく時間が足りないなあ、と……頑張ろう。
[付記]
この本に収録されている光瀬龍さんの『幹線水路二○六十一年』はぜひ東京都水道局あたりの人たちに読んでもらいたいと思う。ハードボイルドインフラ公務員小説(笑)の大傑作なので。
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