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2014年11月19日

●今はただひと言、ありがとう、と言いたい

佐藤由紀彦選手 現役引退のお知らせ (V・ファーレン長崎公式)
 
 
もう10日以上前のニュースではあるのだが。

驚いた……というのは嘘で、知った時の率直な感想は「やっぱりそうか……」だった。さすがの由紀彦ももう38歳、加えて今シーズンは長崎で全く試合に出ていなかった(ベンチ入りさえほとんどなかったのではないかな)のだから。正直なところ、来るべきものが来たか、という感じだった。

もちろん、だからといって、ショックが全くないと言ったらそれも嘘になるんだけど。
 

佐藤由紀彦という選手を知ったのは彼が東京に来た1999年シーズン(それは僕がFC東京を応援し始めた年でもある)だから、もう15年も前になるのか。最初は、清水商で10番を付けていた元高校サッカーのスター選手が、Jに参戦したばかりの東京に「来てくれた」という感覚だったのかな。ゴール裏も「由紀彦〜、由紀彦〜、俺たち〜の〜由紀彦〜!」とさかんに歌ってたっけ。

でも、実はその時の由紀彦は、鳴り物入りでエスパルス入りしたけれど全く試合に出られず、前年にようやく石崎監督の山形で芽が出始めたかな、というところ。彼は自分のサッカー人生のステップアップと東京のJ1昇格を重ね合わせて、ある種の覚悟を抱いて東京に来たのだった。そしてそれを知ったシーズン半ばから、僕もまた彼の情熱にすっかり魅入られてしまったのだった。

青赤の衣を身にまとい、ひたむきに右サイドを駆け上がり続けた背番号14。自力昇格が消えたホーム最終戦の試合後に力尽きて仰向けに倒れ込んでしまった姿も、ゴールライン際から絶妙のアシストを決めて奇跡の昇格を演出した新潟戦の勇姿も、今となっては本当に懐かしい。由紀彦が懸命に右サイドを突破する姿、本当にワクワクさせられたもんなあ。もし彼がいなかったら、その後の僕のFC東京への関わり方も違ったのかもしれない、とさえ思う。

そしてJ1で旋風を巻き起こし、優勝争いも垣間見た2000〜2002年。特に2001年は新加入の増田にポジションを奪われかけながら、クロスに磨きをかけてレギュラーを奪回。幾度も素晴らしいゴールをアシストした。特に夏の札幌で三浦文丈に合わせたクロスの凄まじさは今でも目に焼き付いている。だってさ、ボールが「ギュン!」って音をたてて鋭角に曲がってピタリ合ったんだよ。ベッカムかと思ったよ。あと、彼の熱血退場がチームの激勝を呼び込んだ日立台の一戦なんてのもあったな。

当時、深川の練習場(まだ小平グラウンドはなかった)に見学に行くと、全体練習の後で居残った由紀彦が長澤コーチと2人で延々と、何十分もクロスの練習をやり続けてたんだよね。あの時期は、チームの成長や苦闘と由紀彦の選手としてのレベルアップが見事にシンクロしていて、本当に楽しかった。NHKの中継で解説の加茂周さんがよく「年々良くなっている選手ですね」とコメントしてくれたのをよく覚えている。

だけど、そんな蜜月にも終わりは来るもので、2002年の監督交代と怪我、そして石川加入を機に段々と出場機会が(いつも一緒にいた小峯隆幸ともに)減って、2003年に横浜Fマリノスへ移籍。そこから横浜が連覇した2年間は由紀彦のプレーぶりも円熟しきって、おそらく彼の選手としてのピークだったのだろう。いちファンとしては嬉しかったけど、東京での活躍でなかったのはやっぱり少し寂しくもあった。

その後は清水に一旦戻り、石崎ノブリン率いる柏での印象的な2年間を経て、仙台→長崎と移籍していく彼の姿を眺め続けることになった。うちのカミさんは僕なんかよりずっとずっと熱い由紀彦ファンだったから、僕は彼女のお伴で柏での最終戦のマイクパフォーマンスも、長崎初年度の最終戦も見届けることになったんだけど、どこに行っても「俺たちのユキヒコ」と愛される姿が印象的だった。

(ちなみにうちのカミさんはJFL時代に町田や成田や三ツ沢(ニッパツじゃない方)までV・ファーレンを追いかけ、その大半の試合で由紀彦が出場しなかった(笑)という真性ファンである。)
 
 
そして先週の土曜日。長崎の選手として6年目(!)を迎えたシーズンも残り2節の京都サンガ戦。正直、ホーム最終戦がその日に行われていることさえ僕は意識してなかったんだけど、東京ファンの盟友・田中組長が送ってくれた本文のないメールの添付写真をひと目見て、瞬時に全てを了解した。「ああ、ついに最後の試合がやってきたんだな」と。

この試合、由紀彦はピッチに姿を現すことはなく終了の笛を聞くこととなった。テレビ画面に映る横顔には、ちょっとだけ無念さが浮かんでいるように見えた。試合後のハンドマイクでの挨拶は相変わらず彼らしい熱さに満ちたものだったように思う。まだ、最終戦があるっちゃあるのだが……。
 
 
思えば。佐藤由紀彦という選手を15年間見てきて、「スーパーなプレーヤー」だと思ったことは一度もないんだよね。むしろ、体がそう大きいわけでもないし、足が速いわけでもない。テクニックがずば抜けているとも言えず、突出したキャプテンシーを発揮するわけでもない。ただ、誰にも負けない闘志と、懸命な努力のたまものとしての正確無比なクロスがあった。確かにあった。

そういう選手が20年間も第一線でプロ選手を続けることができて、しかも忘れられない活躍を幾度も見せてくれた。これは考えてみれば凄いことなんだと、今にして思う。日本代表には縁がなかったかもしれないが、そんなの関係ない、俺たちの佐藤由紀彦は日本サッカー史に確かな足跡を刻んだんだ、と。ちょっと大げさかもしれないけれども。

いや、20年間お疲れ様でした。本当にありがとう。彼の第二の人生に幸多からんことを。
 
 
[追記] 
 
もう一つ感慨深いこと。由紀彦が引退したことで、FC東京がJリーグに参戦し、そして僕が応援し始めた1999年の在籍選手で現役の者がついにいなくなったのである。まあ、当時僕が東京にシンパシーを寄せた理由の一つが「自分と同年代の選手が多いこと」で、その僕が40代になっちゃったんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけど、何というか……大きなひと区切りだな、と思う。
 
 
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