●28年前のラグビージャージには襟があったのだ
久しぶりにラグビーネタ。
今年はワールドカップイヤーということで、我らがJSPORTSでは「熱狂再び!ラグビーワールドカップ名勝負」と題して過去のワールドカップの名勝負の数々を流してくれてるんだけど、いやー、なかなか楽しいんだこれが。
既に放送された主なものだけでも、映画『インビクタス』のモデルになった第3回決勝や、最強NZを撃破したフランスをグレーガン・ラーカムの豪州が破った第4回決勝、ウィルキンソン率いるイングランドが北半球に初の栄冠をもたらした第5回の決勝、そして宿沢ジャパンが世界の実力を思い知らされた第2回のアイルランド戦……僕にとってはどれも忘れられない試合ばかりである。
で、そんな至福のラインナップの中、特に興味深く観たのが第1回W杯(1987年)の3位決定戦、オーストラリア×ウェールズだ。これは僕も初見で、トライを奪い合うシーソーゲームの末、ロスタイムにウェールズがトライ&逆転コンバージョンを決めるという熱い試合だったんだけど、なにしろ28年前の試合だけあってルールもそれ以外も今とは異なる点が多くて面白かった。以下、箇条書きにしてみよう。
○ シンビン制度がない
試合の序盤、ラフプレーを繰り返した豪州のフランカーの選手がいきなり退場を宣告された(そして大人しく従って走って去っていった)ので驚いた。そうか、シンビン(一時退場)って確か第3回大会の後から普及したルールだったっけか。厳しかったんだね。試合の大半を14人で戦っちゃ、ライナーとキャンピージのいる豪州でも勝てんわな。
○ ラインアウトでサポーティングがない
今は両軍1m離れなきゃいけないラインアウトも50cm間隔でしかもサポーティングがないということで、ボールが投げ入れられるともうグチャグチャ。長身チームが圧倒的に有利なので、当時はジャパンはほとんどラインアウトとれなかったんだよな……。もちろんクイックスローなどどいうチャラいもの(笑)はない。
○ プレースキックでキックティがない
この頃はまだいちいちピッチの外から土を運んできて盛って蹴ってたんだよね。さすがに今は見なくなったねえ……トップリーグだとトヨタの廣瀬が最後くらいかな?あれはあれで味があったような。あと、キックオフもいちいちプレースキックでやってたのね(今はドロップキック)。
○ スクラムのコールがない
今はレフェリーが「クラウチ」だ「バインド」だ「セット」だとコールをかけてスクラムをコントロールしているんだけど、28年前はそんなのなし。サッと組んで後はボールが入るのをもじもじ待つ感じ(笑)。まあ、当時は8人で固く組んで押すというやり方自体してなかったみたいで、全体的にスクラムの姿勢が高い(だから長く待てる)し、コールがなくても成り立つ時代だったんだなあ、と。
○ 終了のホーンがない
もちろん当時はタイムキーパー制なんてのは導入されておらず、時計は動きっぱなし。ロスタイムが何分あるかもわからず、実際この試合ではそこでウェールズが逆転したこともあって超ドキドキ(笑)。日本でも真下レフェリーとか、めちゃめちゃロスタイム長かったもんなあ。
○ 用語やスタッツがない
今回は当時の映像に谷口アナと小林深緑郎さんの音声がのる形だったので「このブレイクダウンが〜」なんて言ってるけど、当時は(少なくとも日本では)「ブレイクダウン」なんて言葉はなかったわけで。「ミスマッチ」も「オーバーラップ」もなし。うーむ。もちろん中継でスタッツなぞ出やしないのだ。
○ トライが5点でない
途中「なんか点の増え方がおかしいな」と思ったら、そうだ、当時はトライが4点なんだった(笑)。5点になったのは第3回からだったっけか。今の目で見ると、4点はちょっと軽い感じですな。1960年代まではトライとPGやDGが同じ3点だったというから……キックは今でも大事だけどね。
○ ジャージの襟がある
ここまで「ないない」ずくしで書いてきたけど、これは当時の方が「ある」!
いや、正確には今でも襟はあるんだが、極小化されてほとんど襟と呼べない代物になってるので。襟があって、かつ今のピチピチユニとは違ってちゃんと「服」という感じジャージであった。個人的には昔の方が好きなんだけど(だってラグビージャージですよ!)、まあ機能的な進歩(掴まれないようにするため)だから仕方ないのかな。
プレーの中で目についたのはそんなところだろうか。他にも、選手たちの髪型が微妙に古い(これは仕方ない)とか、スタジアムがすげー素朴(ニュージーランド開催)とか、あとウェールズの逆転コンバージョンで興奮した観客が簡単に乱入してきたり(でも実はあと数プレイあったのであっさり追い返されたり(笑))とか、時代を感じさせる部分は色々あったけれども。
それにしても、ルールだけ見てもラグビーってのは本当に変化の激しいスポーツだな、とは思う。もちろんサッカーでもGKがバックパスを手で扱えなくなったりオフサイドの解釈が緩くなったりはしたけど、定着したのはそれくらいか(Vゴールのような一時的な流れとかキックインのような試行はあったけれど)。ラグビーの指導者や選手は大変だな、と思ってしまった。あとファンも(笑)。
まあ、当然のことながら、今年の秋の第8回大会で展開される「今風」のラグビースタイルだって、おそらくまた28年後(第16回大会か……)になれば「えー、昔ってこんな違ってたの」って目で見られるわけで。つか、その頃に僕が元気でいられれば「56年前はな〜」とか語り出して、子供とか孫とかにウザがられてしまうかもしれんな(笑)。それはそれで本望ではある。ははは。
[付記1]
ちなみに、第1回ワールドカップにおける日本代表の戦績は3戦全敗。結局今に至るまでジャパンが勝利したのは第2回(宿沢監督)のジンバブエ戦だけで、「第1回大会、せめて18-21で負けたアメリカ戦に勝てていれば……」 というのは後々まで言われることである。後悔先に立たず。日本ラグビーにとって1987年は、「雪の早明戦」の年(永田組の早稲田が日本選手権勝った年)なんだよね。
[付記2]
解説の小林深緑郎さんが試合中に「当時、会場にほとんど日本人はいなくて……」とか回想してたけど、この人第1回から現地で観てたんだ。つーか、この人いったい何歳なんだ(笑)。確か第3回の頃までは、商社マンとかそういう肩書きでラグマガとかに原稿書いてたような気がするんだけど。ぜひ、貴重な生き証人として、28年後も頑張っていてほしいものである。いやマジで。
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コメント
第3回と4回はヨーロッパにいたので、熱く見てました、いや懐かしい…
フランス代表のラクロワが大好きで、フランス代表のユニまで買ってしまいました。もちろん白襟付きのブカブカです(笑)
たしか、第4回でニュージーランド代表が初めてピチピチジャージ着たんじゃなかったでしたっけ?
フランス対NZ戦はロンドンのパブで見てました、居合わせたフランス人のサポーターがフランスのピンチで発した"Nom de dieu!"(神様!)という叫びが凄く迫真的に聞こえたものです。
Posted by: 発汗 | 2015年05月14日 09:08
ああ、たしかにルール改定はサッカーに比べるとすごく多い印象ですね。
「ペナルティキックが直接タッチを割って、その後のラインアウトでボールを入れるのは『蹴った側』」に変わったときは、まだサッカー見てませんでしたが、当時もし熱心なサッカーファンだったら「信じられねー」って言ってたかも。
Posted by: kwbr | 2015年05月14日 23:12
>発汗さん
ラクロワは第3回の得点王を獲っているんですね。フランス代表の(昔の)ユニは、ウェールズとならんで白襟がくっきりしていていいですよね。
第4回のフランス×NZ戦はラメゾンが立て続けにドロップゴールを決めたのと、その後のフランス代表の神がかり的な逆転劇がとても印象的で……。
そういや、フランス代表のWTBのドミニシが、第4回では大きな白襟でトライを重ねていたのに、第5回ではピチピチちび襟で走っていたのを今思い出しました。だから、やっぱり第4回のオールブラックスがピチピチジャージの走りかも(最新テクノロジーはたいてい南半球発ですし)。
Posted by: murata | 2015年05月15日 00:37
>kwbrさん
PKタッチキックでのラインアウト投入権もそうですし、一時期「ラックでアンプレイアブルになった時、持ち込んだのと反対側のボールになる」というルールになった時は「なんじゃそりゃ」と言いたくなりました。
ラグビーの場合、試行錯誤それ自体が文化というか慣習になっている感じですね。一見保守的なようでいて、意外と革新的というか。
サッカーの「キックイン」をちょっとだけ思い出しました(笑)。
Posted by: murata | 2015年05月15日 00:42