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2007年11月25日

●由紀彦はかの地でも「俺たちの由紀彦」だった (柏レイソル×ヴァンフォーレ甲府)


土曜日の午後は、カミさんのお供ということで、日立柏サッカー場にてJ1第33節。柏レイソル 2-1 ヴァンフォーレ甲府コスモクリーナーで地球が救われて以来6試合勝ち星なしのレイソルと、この試合で敗れればJ2への降格が決定してしまうヴァンフォーレ。まさにどちらにとっても負けられない一戦だったが、怪我人続出で苦しんできた柏が怪我明け選手の2ゴールで勝利。見事ホーム最終戦を飾った。


今節、東京×大宮戦でなくこちらをチョイスした理由は、なんといっても「俺たちの由紀彦」(下記[注]参照)である。前日にまさかの契約非継続発表。いや、「まさかの」なんて書いたけど、実は何となく予感がしていたのだ。チケットを押さえておいて本当に良かった。つーか、前日って(ちなみにアルセウは当日)……お別れの事を考えたら、もっと早く発表してあげればいいのに、と思ったのだけれど。まあどうせチケット完売だったから同じか。

それに加えて、このカードには2年前からの因縁もあるのだ。未だに記憶に新しい、衝撃の入れ替え戦。柏サポーターにとって「2-6」の悔しさは忘れようと思っても忘れられるものはあるまい。会場はあの時と同じ、陽の傾きかけた日立台。そして今度2部降格の絶壁に立たされているのは甲府の方。復讐の舞台としてこれ以上のものはないだろう。両チームに対して好感を持つ僕としては、ちょっと複雑な心境になったが。

 

試合はやや地味ながら激しい攻防となった。甲府はいつものようにショートパスをテンポ良くつないで、中盤の主力を欠く柏はサイドアタッカーやFWへの早く長いボールを多用して、それぞれゴールを目指していく。ボールの奪い合い一つ一つがいつもの3割増しぐらい激しく感じられたのは、気のせいだろうか?前半から早くも怪我と退場が危惧されたほどだった(何しろレフリーは柏原さんだったし(笑))。

序盤は「もう後がない」甲府の前へ出る勢いがやや優り、FW羽地のヘッダーがゴールポストを直撃する場面も。しかし、次第に柏の組織防御が機能し始め、巧みに訓練されたマークの受け渡しで甲府アタッカーに余裕を与えない。そして20分、ゴール前へ入れた柏のFKが流れたところ、怪我でシーズンの大半を棒に振っていたDF近藤が押し込んでゲット。その後も甲府は攻めあぐみ、1-0のままハーフタイムへ。

後半になると甲府はやや攻め方を変え、ロングキックも交えてボールを動かそうとする。中盤にキープ力のない柏は引いて守る形に。だが、前半終わり頃から甲府アタッカーは動きが落ち始めており、なかなか崩すまでには至らない。焦りもあるのか荒っぽいファウルも目立つ。「これでは駄目だ……」という雰囲気に。そこで大木監督が動いた。57分に石原→山崎の交代でFWを増やす采配。これが当たった。

65分、右からのCKがDFに当たりながら逆サイドに流れたところ、DF秋本が渾身のシュート!南の脇を抜いてサイドネットに吸い込まれた。飛び上がる甲府ゴール裏。同点。その直後、左サイドからのクロスをファーサイドのMF藤田がダイレクトボレーで叩き、ボールは南の横っ跳びも届かずゴール右隅へ……ポスト直撃、ノーゴール。ほんの一瞬だが「奇跡」が垣間見えた瞬間だった。ミラクルまであと数cm。

さらに甲府は攻めたてる。ところが、勢いにのってドッカンドッカン行けばいいものを、次第にショートパスが増え、いつの間にやら「つなぎサッカー」に逆戻り。うーむ。一方の柏は鈴木達也・山根と怪我上がりの(フレッシュな)選手を投入し、流れを取り戻すことに成功した。84分、谷澤が上げた直線的なクロスに走り込む鈴木が合わせ、ゴール左隅にビューティフルゴール!決して広くはないスタジアムが大歓声に包まれた。

その直後、太田OUT由紀彦IN。スタンドから拍手が沸く。由紀彦は得意のクロスを上げる機会もなく、ほとんど見せ場はないながら、流れを壊さないよういつも通りの小走りで味方をフォローし続け、丁寧にパスをつないでいった。「なんか、シブいプレーヤーになったよな」と感慨を抱いたところでロスタイムの3分が経過し、試合終了の笛が鳴った。



ヴァンフォーレ甲府は、「いいサッカーをしているのに……」という今季の評判そのままの戦いぶりだった。まあ、個々のスピードや強さや技術で劣るから人数をかけて短いパスをつないでいく、という考えはわかるのだけれど、やはりちと極端だったかも。攻撃の密集体型は、一歩間違えれば味方のスペースをなくして一つ一つのプレーをより難しくしてしまうから。バレーみたいな「飛び道具」があればまた違うんだろうけど。

柏レイソルの方は、これで7試合ぶりの勝点3を得られたし、ホーム最終戦を勝利で飾れたし、勝点も50の大台に乗ったし、甲府への復讐を果たすこともできたし、で万々歳といったところだろうか。ファン・サポーターにしてみれば楽しく希望に満ちた素晴らしいシーズンだったに違いない(ゴール裏が選手・スタッフに「ありがとうございました~」と頭を下げていた(笑))。いいなあ……来年は見ていやがれコンチクショウ、だな(笑)。



試合後に選手たちが挨拶に回ると、ゴール裏のみならずバックスタンドからも大きな「由紀彦!」コールが聞こえてきた。駆けつけたお子さんを抱き、顔を覆って男泣きする由紀彦。思わずこっちももらい泣きしそうになった。最後は他の選手たちを待たせたままゴール裏のサポーターの中に混じってメガホンを持たされ、「皆さん、これからもレイソルを応援してやってください!」と絶叫……。いや、まさかこうまでしてもらえるとは、ね。

なんつーか、今後彼がどこのチームに行くのか、どんなサッカー人生を歩むのかはよくわからないけど、少なくとも石崎ノブリン(セレモニーでは軽妙な挨拶でウケとったな)に誘われてレイソルに移籍したことは間違ってはいなかったと、本人も周りも確信しているに違いない。と、そう思える美しい光景だった。愛されてたんだな。ホントよかったな、由紀彦。できれば次は、東京に戻ってきてくれないかな、と思うんだけど(笑)。ダメ?


[注]
佐藤由紀彦。最近の東京ファンはよく知らないかもしれないが、99~02年に在籍したアタッカー。「清水商の10番として全国優勝」「横浜FMのリーグ年間制覇に貢献」といった華麗な経歴を持つ一方で、プロ入り後6チームを渡り歩く苦労人でもある。FC東京在籍時は、ひたむきな無駄走りと右サイドからのピンポイントクロスを武器として、J1昇格とその後の躍進の原動力に。小峯隆幸や小池知己らとともに東京の「魂」を体現する選手でもあった。

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コメント

日立台にお運びいただきありがとうございました。

ゆっきーとレイソルは相思相愛でした。
彼がいてくれたから、去年からの苦難の日々をしのいで耐えて乗り越えて、今がある。

ボロボロの負け試合でも、いっとう先陣をきって、真ん前を見据えてゴール裏に歩いてきたゆっきー。
誰もが膝をついて立ちあがれなくなったときに、力強い言葉でつねに上を向かせてくれたゆっきー。

どれだけ感謝してもしきれません。。。

わたしたちレイサポは、佐藤由紀彦というプロサッカー選手を絶対に忘れません。一生想いつづけます。
在籍期間は短いけれど、レイソルの『魂』です!

サポートするチームは違えど、ゆっきーを応援する気持ちを共有させていただければ幸せです。

>きなこ@レイサポ様

どうもー。鈴木達也君のボレーシュートは凄かったですね!!

今季は何度か日立台にお邪魔して色々と興味深いことを目にすることができたのですが、中でも印象的だったのは、おっしゃるとおり、試合後(清水戦のような完敗の後でも!)に他の選手を率いてサポーターに挨拶に行くなど、リーダーシップを発揮する由紀彦の姿でした。

東京時代の由紀彦は、年々選手として上達する一方で負けん気の強さというかある種の子供っぽさもたたえていて、それがまた魅力だったんですけど、その後も様々な経験をする中で強くなったんだなあ、大人になったんだなあ、と感慨深いです。

今後については移籍先もまだわからないですけど、彼ならばきっとどこに行っても何らかの形でそのチームに貢献してくれるだろうな、と信じられますね。東京で、横浜で、そして柏での彼の姿を見てきた私たちとしては。

これからも、応援します。

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