由紀彦災難に遭うも、レイソルの猛攻に耐え抜いて連勝!!!

 

 何でもこの試合、この節のtotoで最も支持率が偏っていたらしい。「東京勝ち」への投票は僅か8%余り。前節昨年に近いメンバー構成に戻して連敗を脱したとはいえスランプ状態のFC東京に対し、コリアントリオに北嶋・明神らスター揃いの強豪柏レイソル。しかも会場は柏サッカー場で、レイソルは現在ホームで13連勝中。まあ柏勝ちと考えるのが普通なんだろう。私個人としても今年の東京の出来からすればわざわざ柏くんだりまで出かける気にもならず、TV観戦を決めこんでいた。しかし当日、諸事情により自宅でBSが見られないことが判明し、急遽生観戦せざるを得ないはめに陥った。今から思えば、何と幸運だったのだろう。

 

 柏駅からシャトルバスに乗り、試合会場に到着。日立柏サッカー場は公園の緑に囲まれたこぢんまりとしたスタジアムだった。メインスタンドアウェイ側に入場すると、床が鉄板一枚で歩くたびにかん高い音を立てる。これ、本当に常設のサッカー場なの?という感じ。しかし、どこか懐かしいような感じもして、決して悪い気はしない。グラウンドの方を見ると、さすがにサッカー専用だけあってピッチが近いこと近いこと。スタンドの傾斜が少なく全体を見渡すのは難しいが、普段東京スタジアムで見てる身には選手が間近で見れるのが嬉しい。サポーター軍団もゴール裏直ぐに陣取り、ちょっと西が丘を思い出す。

 まずは両チームの選手がピッチに出てきてウォーミングアップ開始。私の席の近くでは由紀彦と小峯が1対1で頭・足を使ってボールの受け渡しを行う。由紀彦ファンの私の連れは、昨年の日本平以来の至近距離生由紀彦に大興奮。興奮ついでに、小峯がヘディングするたびに「どうせ届かないんだから使わないでしょ、頭!」などと叫んでいた。それはひどいぞ(笑)。

 スタメン発表。東京は前節同様、由紀彦・小林の両サイドにケリーをトップ下に置き、いわゆる4−2−3−1に近い布陣。サブに喜名が入っていないのが気になったが、怪我でもしていたのだろうか?一方の柏は、大野が水疱瘡から復帰して超ベストメンバー。頑強3バックに小憎らしい両サイドハーフ、明神・柳のボランチに北嶋・黄の2トップと、どこをとっても隙がなさそうな顔ぶれ。あえて弱点を挙げるならば、足の動きが悪いことで有名な若手GKだろうか(笑)。

 メインのアウェイ側に座ったので柏ゴール裏は遠目に眺めることになったのだが、柏サポーターはとにかく元気であった。メンバー発表前には突如地響きのような歓声とともに旗や横断幕が無数に上がり、まさに「いざ出陣!」という雰囲気。掲げる横断幕も、「柏が江戸を斬る」「サッカーの街歌舞伎町」「ディーゼル車万才」「F東サポを囲む夕べ」など一筋縄では行かないものばかりだ。ゴール裏スタンド全体を覆わんばかりの大フラッグは持ち出してくるわ、「かごめかごめ」の替え歌に続いて「浦和レッズ!」コールはかけてくるわ、東京側の「東京!」コールにあわせて「農協」の看板を持ち出すわ、G1ファンファーレ(しかも東京ゴール裏がやる関東版のファンファーレではなく、関西版なのが細かすぎ)を鳴らすわ、「そこまでやるか!」と東京サポーターも大喜び。最後のG1ファンファーレの演奏が乱れ、東京側が「下手くそ!(ドンドンドン)下手くそ!」と冷やかすと「ありがと!(ドンドンドン)ありがと!」と返してくるあたり、ヤツらただ者ではない、というかスタジアムに奇妙な連帯感が生じたように思えたのは私だけだろうか。

 キックオフ。あるいは立ち上がりから押し込まれるかもとの危惧を抱いていたのだが全然そんなこともなく、東京は果敢に攻め込んで行った。この日は呂比須がいないせいか(笑)パスがスムーズにつながり、中盤できれいなトライアングルを形成してはダイレクトプレーを武器に守備網を破ろうとする。特に目立ったのは右サイドに張った由紀彦で、ケリーやアマ、あるいは内藤とのコンビから数度にわたって突破、3バック脇のスペースから好センタリングを供給した。東京はとにかく積極性が目立ち、藤山・内藤も代わる代わる攻撃参加するなど、「格上」レイソル相手に全く引かずがっぷり四つにくむ構え。一方のレイソルも最初の10分ほどは横方向へのパスが多く慎重な戦いぶりだったが、中央の北嶋・サイドに流れる黄にシンプルにボールを当てることでリズムを掴み、次第に攻撃を厚くしていく様子。北嶋ももちろん怖いのだが、黄の動きの良さ(昨年チャンピオンシップ時とは雲泥の差)が非常に気になった。

 16分には北嶋がドリブルでペナルティエリアに進入(小峯タックル成功)、18分北嶋のポストプレーから大野がゴール前へ走り込み、こぼれ球を渡辺光輝がシュート(土肥セーブ)。21分右サイドに流れた黄にスルーが通り、中央で待つ北嶋にセンタリングが入る(サンドロカット)。東京も負けずに19分右サイドから中央へドリブルで持ち込んだ由紀彦のシュートがポストをかすめ、29分には由紀彦とのワンツーから内藤がフリーでセンタリング、ケリーのヘッドが枠に飛んだ(南セーブ)。さらに30分小林が左サイドゴールライン際ドリブルで明神を抜き去ってペナルティエリアへ進入、39分小林とのコンビで右サイド裏へ抜けた文丈のセンタリングをケリーがボレーシュート。これも南が弾いてゴールはならなかったが、両チームが攻め合い、スピード感の溢れる好ゲームになった。

 試合が始まってからも柏サポーターは元気満点。ゴール裏からは「犬の吠える声」「かん高い笑い声」(相手がミスした時用?)「マシンガンの銃声」等が聞こえる。銃声に対しては東京ゴール裏から「撃たないで!」コールが起こり、私の周りの柏サポも思わず笑い声を上げていた。また、ゴールキックのボールを土肥(元レイソル)が取りに行った時や柏ボールのCKの時などは例外なく最前列サポーターが金網に殺到しよじ登り、押しとどめようとする警備員軍団との戦いが続いていた。少なくとも遠くで見ている分には、楽しくてしょうがない。試合内容の良さもあり、「はるばる柏まで来た元はとれそうだな」と上機嫌の我々であった。

 しかし前半終了間際、そんな「楽しい」観戦が突然終わりを告げる(以下スタンドから見たままに描写)。40分グラウンド中央ややメイン側で三浦文丈が柳想鐵にスライディングタックル。やや深く入りすぎたそのタックルはファウルになったのだが、キレた柳が文丈をストンピング。当然一発レッド。しかしレフェリーがなぜか現場に急行せず(というか柳を止めようとせず)、荒れる柳に対して由紀彦が立ちふさがり、にらみ合った次の瞬間由紀彦が殴られ(?)口を押さえて崩れ落ちた。エキサイトする両チームの選手(特にアマラオ)。しかしなおレフェリーは乱闘寸前の現場に厳しい態度をとろうとせず、それどころか一人倒れている由紀彦に近づいて赤紙を提示。納得いかない(そりゃそうだ)表情の由紀彦。さらにエキサイトして猛抗議する東京の選手(特にアマラオ)、首を横に振るばかりで聞く耳もたないレフェリー。何もしようとしない副審。頭を抱える大熊。由紀彦に対して容赦なく「早く出ろ!」と叫ぶ柏サポーター。場は一気に白け、前半はそのまま終わってしまった。「あ〜あ、せっかくのいい試合を壊しやがった!」。私の頭の中は、柳と石山主審に対する怒りで完全にスパーク。横に座った連れは「信じられない」という表情でもう泣きそう。いずれにせよ、これで10人対10人。印象が薄かった柳に対して由紀彦は攻撃の核となっていただけに明らかに東京の方が大きな痛手で、しかも人数が減ってシステムが崩れれば個人能力の差が出てくるかもしれない。ハーフタイムの間、私が暗く口数少なだったのは、今考えても無理はない。

 

 ところが、後半立ち上がり優位に立ったのは意外なことに東京の方だった。由紀彦が抜けた穴はケリーがやや右寄りにポジショニングすることでバランスをとり、グラウンドから2人減ってスペースが増えたことで攻撃のペースはむしろ上がっていった。いきなり3分、ケリーのポストからアマラオが枠にシュートを飛ばすが南にセーブされ、CKもケリーのしょぼいキックで逸機。しかし続く5分、中央のケリーが左サイドのスペースに走り込む文丈めがけて大きくボールをはたき、ペナルティエリア左脇で文丈が倒されてFK。直前のCKがしょぼかっただけに正直期待薄だと思えたのだが、なんとなんとケリーが蹴ったボールは絶妙のカーブを描いて南の指先をかすめ、ゴール右上隅に吸い込まれていった。一瞬間の抜けた静寂が訪れ、そして東京サポーターの歓喜の声が上がった。まあ絶対まぐれだとは思うのだが、後からは何とでも言える素晴らしいケリーのゴールで東京先制。これに対し優勝戦線に残るため絶対に勝ちたいレイソルは、失点直後から3バックも含めて積極的に前へ出て攻勢をかけようとする。しかしその前がかりの態勢が幸いして東京はカウンターをかけやすくなり、数の不足を浅利や藤山のオーバーラップで補ってケリーらのシュートにつなげる。久々の「先制点→カウンターでいい形」という「東京パターン」に持ち込むことに成功した。

 14分、レイソルは両サイドを一気に代え、酒井と砂川を投入。この交代が、何とも効果てきめんであった。東京左サイドでは藤山・小林に対して黄・酒井のマッチアップになり、攻防のバランスが一気に柏側へ傾斜。好クロスが度々ゴール前へ入る。また、東京側にも疲れが見え始め、カウンターで上がっていった選手の戻りが遅れてピンチに陥る場面も多くなった。しかし、ここで土肥(元レイソル)と小峯が大活躍。ミドルシュートは全て土肥が的確な反応で止めまくり、こぼれ球は小峯が抜群の嗅覚を見せて足と頭(ほら、ちゃんと使ってるよ!)でクリア、クリア、クリア。20分を過ぎる頃には東京が全く押し上げが利かなくなり延々とピンチ状態が続くが、しかしギリギリのところで崩れない。

 28分、小林OUT、下平(元レイソル)IN。文丈を左サイドへ回すことで防御を改善する狙いだ。文丈は怪我のせいかいつもより動きが悪く「コバよりややまし」という程度の防御だったが、古巣相手に1点リードというこれ以上はないシチュエーションで投入された下平は大奮闘。DFラインの前で走り回り、柏のパスの出所にプレッシャーをかけてしつこくしつこく絡んでいく「納豆ディフェンス」。スライディングタックルが決まった後ゴール裏で「キャプテン!」コールが起こったときは私も胸が熱くなった。下平はさらに攻撃にも貢献し、33分には文丈に浮き球のスルーパスを通してポスト直撃シュートを呼び込み、38分にも自らシュートを放つ。凄いぜ、キャプテン。

 そして33分、この試合を決定づける、そしてこの試合の暗黒面を象徴するシーン。東京陣左サイドにボールが入り、酒井がドリブル。酒井は東京DFの間に隙間を見つけるや、巧みなコントロールでそこに入っていく。一瞬足が揃い、完全に裏をとられた東京DF陣。藤山の腕が伸び、酒井の肩にかかる。倒れる酒井。「あ!やっちゃった!!」東京サポーターがフリーズし、柏サポーターが立ち上がりかけたその瞬間………なぜか、笛はならなかった。この日確かに石山主審は一貫してコンタクトに寛容なレフェリングではあったが、しかしこの時は手を使って、しかも後ろからのファウルだった。もし私が柏サポーターだったら、24ポイントくらいの大文字で「やめちまえ!」とでも書いているところだ。反対に、東京としては全くもって救われた場面だった。

 東京の粘りと不可解レフェリングに根負けしたのか35分を過ぎるとレイソルの動きが落ち、流れは再び東京へ傾いていく。レイソルはパワープレイを狙ってDF渡辺毅を前線に固定するが選手に意図が伝わっていないのかなかなかクロスが上がらない。結局、43分、黄のゴール右隅へのシュートをまたしても土肥(元レイソル)がはじき出したところで柏の攻勢も終息。逆に東京はレイソル陣でボールを持つやケリー・内藤らが巧みに時間をつぶしていたが、ロスタイム、右サイドゴールライン手前でキープしていたケリーが突如反転してセンタリング。ペナルティエリア内に残っていた薩川は意表を突かれたか全く動けず、フリーのアマが頭でゴール左下隅に叩き込んでトドメの2点目。私も含めて東京サポーター全てが一斉に叫び声を上げてガッツポーズをし、負けを悟った柏サポーターの多くは席を立った。結局そのまま2−0で試合終了。FC東京、アウェイで見事な戦いを披露し「大番狂わせ」を演出した。

 感想。この試合を演出したのは、間違いなく石山主審と柳想鐵だ。前半の流れのままでいけば普通の好ゲームとして充分に楽しめただろうが、あの退場劇と後半のファウル見逃しはゲームに大きなアクセントを付け、結果見ている者にとって「大きく心を揺さぶられる」ゲームとなった。ただし、揺さぶられた方向にレイソル寄りの人間は「怒り」、東京寄りの人間は「感動」という違いがあったということだ。ありがとう、石山主審、頼むからもうJリーグで笛を吹いてくれるな

 柏レイソルにとってはこの敗戦はすなわち1stステージの終戦を意味することになるのだろう。確かに個々の能力は高そうだし攻守ともに統率がとれている印象もあるのだが、何というか、いざという場面でたたみかける「強さ」が見られないのも事実だ。この日リードされてからの反撃でももっともっとペースアップして行けばいいと思うのだが、どうも相手に合わせてしまったり最初から最後まで同じペースで戦うような不器用さがこのチームにはあるし、得点力不足に悩んでいるのに酒井を控えにしている選手起用もそれを後押ししてしまっているのかもしれない。

 FC東京にとっては、間違いなく今季のベストゲームであった。全体のバランスを重視した1トップフォーメーションも功を奏しているのか、開幕戦以降不足していた攻撃時にお互いがフォローし合う動きがよく見られるようになり、パスがテンポ良くつながっていくさまは見ていてワクワクする。守備も最後まで泥臭くしつこく食いつき、審判のフォローがあったとはいえ(笑)今季初の完封という成果を上げた。個々の選手については、由紀彦・ケリー・小峯・土肥あたりが目についたが、他の選手もおおむね出来は良かったと思う。采配も、的確なタイミングで下平を投入して逃げ切りに成功。何か良いことずくめのようだが、それでもようやく辛勝という結果に現在のチーム力が反映されているということなのだろう。ともかく、この調子で勝ち星を重ね、序盤のつまずきを早く取り戻して欲しいものだ。

 あと退場処分を受けた由紀彦については…とても気の毒だったけれど、あの場面、味方が踏みつけられているのを目にして迷わずすっ飛んでいった彼の行動は、フットボーラーとして、チームの一員としてまことに正しかったと思う。そして自分より一回り体のでかい柳を相手に一歩も引かずにらみ合って………また惚れちゃったよ、おい。試合後のグラウンドには、ゴール裏の「俺たちの由紀彦!!」コールを受けて笑顔を見せる由紀彦の姿があった。ホント、東京の宝ですよ、彼は。

 国立等で見て薄々感じていたのだが、柏サポーターは実に楽しいヤツらだ(少なくともこの日見た限りでは)。試合前の東京サポーターに対するちゃかしもユーモアに溢れて東京ゴール裏のリアクションともぴったり噛み合い、試合中もチームへの応援と試合を「楽しむ」ことを両立させようという意図が伝わってきた。埼玉県某市の田舎ヤンキーどもとは大違いである。ちなみに、この試合のテレビ中継(NHKBS、スカパー)で両チームのかけ合いを「挑発的な応援」と表現していたそうだ(川淵君も同じようなことを言いそうだね)が、あれのどこをどうとったらそういう解釈になるのか教えて欲しいものだ。当事者たちは、楽しくてたまらんかったんだぞ。シャレのわからん奴ほど迷惑なことはない。

 あと、この日感じたのは、やはりサッカー専用スタジアムはいい、ということ。ピッチ上とゴール裏、さらにはスタジアム全体が独特の雰囲気をつくり出し、我々観戦者のテンションもいつも以上に上がっていく。後半のレイソルの攻勢でも、レイソルはサポーターの声援をまさに背に受けて攻め込み、東京はサポーターの間近な声援を力として守り抜いていた。これこそ、正しいプロフェッショナル・フットボールですよ!以前はよくわからなかった、柏の葉に対して柏サポーターが拒絶反応を示す気持ちが今は理解できる。「一体となる」ことの大切さよ。

 

 

2001年5月12日 日立柏サッカー場

Jリーグファーストステージ第9節

 

柏レイソル 0−2 FC東京

 

(追記)試合前、スタメン紹介の時、「FC東京の選手・スタッフ・サポーターの皆さんを心から歓迎いたします!」とのアナウンスが入ったのはちょっと嬉しかった。その時点で「来て良かった」と確信したよ。


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