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2014年09月29日

●(今さらながら)武藤嘉紀はマッシモ東京の申し子である

 
しばらく書いていないうちに、我らがFC東京にも色々な出来事があった。森重・権田にとって悔しいブラジルW杯あり、中断明けの快進撃あり、上位陣との4連続ドローあり、ナビスコや天皇杯の敗退があり、2週連続の大勝とチーム新記録の14戦無敗あり……。引き続き一喜一憂が続いているわけだが、新監督1年目でリーグ戦6位につけているのだからまずは上々といったところだろう。

そんな中でも特筆すべきは、武藤嘉紀の飛躍だ。元々ユース出身の現役大学生、ドリブル突破を武器とするスタイル、恵まれたルックスなど「目立つ」要素の多いルーキーだった彼は、開幕戦での先発出場から順調に実力を発揮して東京の主力選手としての座を確かなものにするばかりか、日本代表にも選出され、ウルグアイ戦で即初出場、続くベネズエラ戦でゴールを決めるなど瞬く間にスターダムにのし上がった。

その後も、Jリーグで順調に活躍し、専門誌やスポーツ新聞はもちろん地上波のニュースや一般誌、はては女性誌でも(羽生結弦君なんかと並んで!)名前を見ることになったのだから凄いものだ。今や武藤は、日本サッカー界有数のスターになりかけているのかもしれない。まあ、メディアでの取りあげられ方は正直行き過ぎ感が否めないのだが、一選手としても乗りに乗った「成長株」なのは間違いない。

 
 
僕が彼の活躍を見るにつけ思うのは「なんとツイている、恵まれた男なんだろう」ということである。特に、マッシモ・フィッカデンティ監督が就任した今年のFC東京に入団したことは、本当に大きかった。

フィッカデンティ監督によって東京のサッカーはガラリと変貌を遂げた。ポポヴィッチ時代のボール支配を重視するサッカーは思い切りよく放棄され、4人のDFと3人のMFが素速く帰陣して密集体型を形成、それに前線3人のプレスを加えて守りを固め、ボールを奪っては手数をかけずに素速いカウンターを狙うスタイルへ移行した。もちろん状況によってポゼッションすることはあるが、全体として堅守速攻型なのは確かだろう。

ただし、堅守速攻とはいえ「守備的」という印象は意外と薄い。むしろ早い守備のセットから前(相手ゴール)を向いてボールを奪い、ボール奪取の勢いをそのまま攻撃の勢いにつなげる意図が感じられ、場面場面では以前よりアグレッシブですらある。そして、狙い通り攻撃に転じれば、薄く広がった相手の守備網を突いて高い確率で好機に至る。現在の得失点差(+18)を見れば、東京の攻撃の効率の良さは明らかだ。

味の素スタジアムで東京の試合を観ている人ならば、武藤のプレースタイルがそうしたサッカーにフィットしていることに異論はないと思う。

天性のスピードとその持続力を活かした足の長いドリブル、相手ゴールに向かって強引にでも突破を狙う積極性とそれを支えるしなやかで強靱な体幹、ワンタッチでチャンスを作り出す機転、そして労を厭わぬ献身性と90分間走り続けるスタミナ。これらはまさに「広いスペースを」「手数や人数をかけすぎず」「速く攻めきる」マッシモサッカーの攻撃において最も輝くものであるように思えるのである。

戦術的な面だけではなく、フィッカデンティ監督の指導スタイルも武藤にはプラスに働いているのだろう。同監督の試合後のコメントからは、武藤についての高い評価と、だからこその厳しい要求が伺える。本当かどうか知らないが、クラブハウスに彼の活躍を賞賛する新聞記事をスタッフが貼っていたところ、監督が「はがせ」と命令したなんて報道もあった。まるでスポ根漫画のようだが、実にいい話だと僕は思う。

結果として、恵まれた指導の下で武藤は試合ごとに能力をグングン伸ばし、特に決定力の面では目を見張るような成長を見せている。後半戦に入ってからは、9試合で実に8得点の大活躍。彼の得点した試合は東京はいまだ負けていないそうだが、まさにマッシモサッカーなくして武藤の活躍なし、武藤の活躍なくしてマッシモサッカーなし、というような状況になっているのだ。

また、武藤は、プロ初めてのシーズン、一緒にプレーする選手たちにも恵まれたように思える。アタッカーだけを見ても、エドゥーは武藤とは全く異なるタイプで、巧みなポストプレーとピンポイントの決定力、ブンデスリーガで7年間プレーした豊かな経験が武器のFW。河野は前後左右を問わない機動力と状況判断力、そしてアイデアに溢れたトップ下。平山は独特のテンポで足下にボールを収めて確実に攻撃の基点となる選手。

これらの個性の異なる選手たちと組んで様々なコンビネーションを繰り出すことで、武藤も周りの選手たちも、各々の武器をより良い形で発揮できているように思える。柏戦の2点目と3点目、いずれも武藤が絡んで河野がアシストを決めた2ゴールは「これがマッシモ東京だ!」と叫びたくなるような素晴らしい得点だった。何というか、うちのカミさんの言葉だけど、彼らの組合せは「足し算じゃなくて掛け算」なんだよね。

(ついでに言うと、河野もまた武藤と同様に「フィッカデンティ監督になって良かった」という物言いがよく当てはまる選手だろう。)

と、長々と述べてきて、繰り返しになるが、武藤は本当に1年目から良い環境に恵まれたな、と。もちろん実力あっての話だし、他の監督や同僚であっても成功したかもしれないが、それにしてもベストの条件ではあったと思う。加えてその活躍の最中に日本代表がアギーレ新監督を迎えるという巡り合わせの良さ。そうしたツキも含めて「もってる」男だし、真のスターたり得る資格を有しているということなのだろう、きっと。
 
 
いやー、ホント、これから一体どこまで行っちゃうんだろうと、今の騒ぎを眺めるにつけ楽しみであると同時に心配にもなってしまう。まあ、本人はコメントを見る限り謙虚なままだし、プレッシャーを認めつつもそれをバネに成長する気概を持っているようだ。幸い、既に書いたように、フィッカデンティ監督も彼の置かれた状況の難しさを理解して配慮してくれている。おそらく、東京にいるうちは大丈夫なのかな、とは思う。

ただ、それでも、いつかは壁がやってくる。本人のスランプもあるだろうし、監督が替わるなどして自分の意に沿わぬスタイルのプレーに合わせなければならないこともあるだろう。数年後には東京や日本からも飛び出して異なる環境の中に飛び込んで行く可能性も高い。才能豊かな彼の前には、無限の可能性とともに、多くの困難や落とし穴が待ち受けているのだ。まことに気の早い話ではあるのだけれども。

4月にまだ柿谷のいるセレッソに快勝した時、僕は武藤について少々大げさだと思いながら「ライアン・ギグスみたいなFWになってほしい」と書いた。その後の活躍ぶりを見るとあれは決して大げさでなかったんだと嬉しくなるのだけれど、やっぱり問題はこれが続けられるかどうか。ブーム的な「時の人」ではなく、40歳になるまで欧州屈指の名門チームを引っ張ったギグスにならって、息の長い活躍を続けて欲しいもんである。

ま、試合後のヒーローインタビューで見ることのできる、彼の爽やかすぎる笑顔と独特のかん高い調子の声を聞いていると、これは大丈夫かな、とは思うんだけどね。ああいう人は自分も周りに応えようと感張るだろうし、そんな彼を見て周りも助けてくれるんだよな、きっと。今いちばん「俺たちの○○」が似合う男、武藤よっち。僕も引き続き応援していきたい。
 
 
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コメント

>BBSTARさん

どーもです。

武藤、メキメキ良くなってますよね。おっしゃるとおり、マッシモさんの指導も効いてるんでしょうね。

ご指摘の点については直しました。ありがとうございます。確かに、ゴールしたのは2戦目のベネズエラ戦でしたね……。

それと、これはお詫びなのですが、すっごく久しぶりにブログ更新したせいもあってか、誤ってBBSTARさんのコメントを消去してしまいました。申し訳ない。

今後はそういうことのないよう、もう少しまめに更新するよう努めたいと思います(笑)。よろしくお願いします。

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