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2008年04月20日

●スタア誕生 (FC東京×川崎フロンターレ)


夕方、味スタでJ1第7節。FC東京 4-2 川崎フロンターレ。「第13回多摩川クラシコ」。チームの営業的思惑はさておき(つーか、盛り上げようという仕掛けは基本的に歓迎したい)、JFL時代からのライバルとの一騎打ちであり、昨年の壊滅的大敗からの立ち直りを図る東京にとっては確かに重要な一戦であった。試合は、双方のアタッカーの個人能力を押し立てた点の奪い合いとなるが、後半「切り札」を投入した東京がラブリーな攻勢で激戦を制す。


東京は今野・浅利・梶山に栗澤を加えた守備的な中盤構成。おそらく最初からサイドも含めた撃ち合いになっては危険だという判断があったのだろう、中村とその周辺をタイトに締め、攻撃は2トップと左サイド長友の走力をシンプルに生かす形。4分、赤嶺がバックヘッドで流してボックス左手前に走り込むカボレがグラウンダーのシュート、ポスト左を抜ける。長友はトイメンの森に対して全く気後れすることなく勝負を挑み、引きずるように突破する場面が何度か。

問題は後方にあった。容易に中盤でつなげない川崎としてはまずは強力2トップを目がけて蹴ってくるのだが、「つぶし役」を担う佐原は古巣相手だけに、塩田も昨年12失点を喫した相手だけに、いずれも気合いが空回りしたのか不安定なプレーぶりが目立つ。また、開始時の薄曇りの中ではハイボールが見づらかったのかもしれない。7分、FKからのアーリークロスを徳永が見失って(?)触れず、大橋の足下に落ちたボールを塩田が慌ててかき出す場面も。

19分、佐原が後方から鄭を倒してしまい左サイドのFK、中村のフィードをボックス内で鄭が胸で落とし、佐原が鄭のマークを外して前に出たところでジュニーニョが佐原の背後へチョン蹴り、フリーで待ち受ける鄭が反転ボレーをゴール右隅に叩き込んだ。川崎先制。「佐原は90分ピッチ上にいられるだろうか……」と不安になる失点だった。23分、敵陣中央のFK、この日は最初から目が覚めている梶山がDFライン裏に走り込む赤嶺を狙うが、DFを倒してファウル。

24分、ボックス横で森が長友を倒してFK、栗澤の低いキックがDFの間を抜け、カボレが寺田に後ろからつかまれながらもスネに当て、ゴール左に転がり込んだ。1-1。またしてもストライカーらしい得点。カボレ先生、ありがとう……という喜びもつかの間、直後に左FKからまた中村のクロス、ファーに抜けたボールを鄭が拾って折り返し、赤嶺がクリアし損ねたところで谷口に蹴り込まれた。1-2。早い時間での同点ゴールに「いける!」という雰囲気が漂っていただけに、なんとも間の悪い失点だった。

だが、今の東京には反発力がある。28分、ボックス左でカボレが獲得したFK、ファーに流れたボールを梶山が拾ってシュート性のクロス、惜しくもDFブロック。30分には川崎陣でボールをかっさらった今野がボックス手前からミドルシュートを狙うも外れ。34分にはジュニーニョがDFライン裏に思いっきり抜けるが、塩田がよく我慢してセーブ。その他、ジュニーニョや鄭がロングボールで抜けかける場面があったが、いずれも藤山が絶妙のポジショニングで防ぐ。

2度目の同点弾は43分。梶山が左タッチ際を駆け上がる長友へ鮮やかなフィード、ボックス横で森が立ちふさがったところで長友はインスイングのクロスを入れ、一旦は逆サイドへ抜けたものの、あきらめない赤嶺がこぼれ球を追ってシュート、ゴール左に決まった。当たりは悪いがそんなことは関係なし、これまたストライカーらしいゴール。また、赤嶺に追いすがるDFをなにげにカボレが押さえ込んでアシストしていた事も忘れてはならない。同点でハーフタイムへ。


後半になると川崎が中盤を作り始め、俄然ボールタッチの増えた中村の配球に山岸の上がりも加わって東京ゴールを脅かす。50分、カウンターからジュニーニョが藤山を振り切りかけてシュート、ポスト右に外れ。54分、長友・栗澤のパス交換から梶山のシュートがCKとなり、徳永の折り返しにカボレが飛び込むが届かず。56分には右サイドフリーの森へパスが通るもクロスはバーの上。62分、左から藤山をかわして切れ込んだ鄭のシュートは塩田の正面。

一進一退ながら相手を崩しきれない展開に、両チームが同時に動く。63分、川崎は大橋→養父、そして東京は栗澤→大竹。ともに攻撃に変化をつけたいゆえのアタッカー同士の交代。意図は明確、さてどうでるか……というところだったが、結果的に城福采配はとてつもないインパクトを生むことになった。

64分、大竹が縦パス、左へ流れて受けたカボレが一拍おいてからクロスを上げ、こぼれ球がボックス右角付近で梶山の足下へ。ここで大竹が梶山からボールをもぎとり(笑)、迷わずDFの列に割り込むように仕掛けていく。そして次の瞬間、左足つま先でフワリと浮かしたシュート。ボールはゆるやかな弧を描き、立ちふさがるDFも、跳び上がるGK川島も、何者も届かない軌道を通ってゴール左上に吸い込まれていった。……呆然の半瞬が過ぎ、場内には驚愕と歓喜の声が爆発。堂々と両腕を掲げる大竹。すげえ、なんてシュートだ!!!

川崎もめげず、中村を起点としてパス交換のテンポを上げて反撃に出る。しかし、次の得点も東京。70分、DF3人に囲まれたカボレのキープから右サイドで梶山→徳永→赤嶺→徳永とつないで今野がカボレへ楔のパス、戻したボールを赤嶺が大竹へはたき、大竹は猛然と追い越す今野目がけて絶妙のスルーパス。半身抜けた今野はダイレクトで右足シュート、川島の指先を抜けてゴール左隅に決まった。テンポの良いパス回しと連動した動き、そして思い切った飛び出しからクリティカルな勝負パス。「なるほど、これがラブリーか!」と。

もう攻めるしかない川崎は思い切り前がかりに。東京は自陣深くに押し込まれる。前にカボレを残してしのぎたいところだが、カボレも奮闘した疲れからか味方のパスに反応できない。80分、早いスローインから中村→鄭とつないでオーバーヘッドのシュート、ゴール右に外れ。その直後にはCKから鄭が落としたボールをジュニーニョが頭でシュート、塩田が片手一本ではじき出し、さらに飛び込んできた伊藤を赤嶺とともに体をはって防ぎきる。頭を打って倒れ込む塩田。頑張れ!

攻める川崎、守る東京という構図は続く。82分、山岸のクロスがボックス内のジュニーニョに通るも、長友と大竹が体を寄せてシュートさせず。さらにFKからのはね返りを森が狙うがバーの上。ここで東京はカボレOUT川口IN。信男さんは苦しいチームを助けるべくDFラインに勝負を挑む……のだが、どうもパスの出し手との呼吸が合わない。85分には中盤でボールを奪ったジュニーニョが左タッチ際を疾走、折り返しを黒津が左足で狙うが、塩田がはじき出す。

それでも、東京としてはどうにか「守り抜く」という意思統一はできた様子で、塩田の安定したゴールキーピングもあり、残り時間は意外と落ち着いて見る事ができた。ロスタイムには時間稼ぎなど毛頭考えていなさそうな大竹が左サイドを突破してクロス、信男さんが飛び込むもわずかに届かず。結局、『眠らない街』の大合唱が響く中、2点差のまま試合終了の笛が鳴った。



先週に続いて正直なところを書くと、実は今回も勝負という意味では厳しいと思っていた。「東京ダービー」も実は際どい勝利だったし、まして今回は羽生まで負傷で欠いている状況。守備に問題のある東京が川崎の強力アタッカーを前にどれだけやれるか、不安が期待を大きく上回っていたのだ。ところが、蓋を開けてみれば。各選手の頑張りに加えて城福采配大当たりの快勝。後半なんて、力でねじ伏せた感じにすら見えた。ある意味、嬉しい誤算である。

個々の選手で言えば、まずはMF陣の健闘。浅利は単に守るだけでなく攻守を適確に繋いでくれたし、梶山は今季一番の出来。栗澤も自分のできる範囲できっちり仕事をしてくれた。今野は、彼の能力がチームにはまった形で発揮されているのが素晴らしい。DF陣では塩田は前半やや不安定だったものの、後半の勝負所では頼りになる働きだった(頭は大丈夫だろうか?心配だ)。長友は無尽蔵のスタミナと躍動感で陰のMVP。藤山と徳永はまずまず、か。佐原は……90分もって良かったな、と(笑)。

アタッカー陣では、まずはカボレだろう。ストライカーらしいシュートだけでなく、ハイボールへの強さや足下に収めての粘り、味方を生かす技術と肝心な場面での守備など、総合力の高さが頼もしい。赤嶺も、相変わらず良いところで良いゴールを決めてくれる存在。今年は久しぶりに東京から複数の「年間二桁ゴール」が出るかもしれないね。信男さんも、味方の理解が得られないながらも頑張ってくれたと思う。そして、なんといっても「切り札」大竹洋平の存在。

石川直宏が初登場の試合で右サイドを切り裂く姿を見た時も、鈴木規郎がレッズ山田をぶち抜くのを目にした時も、まだ大学生だった阿部吉朗がロングボールをダイレクトジャンピングボレーで決めた時も、「よっしゃ、良い選手が来た!!」と嬉しくなったものである。しかし、今年の大竹のインパクトはそれらをはるかに上回る。「スターの誕生」を目にした時の戦慄というか、何年か後に「俺、大竹の初ゴールをこの目で見たんだぜ!」と自慢できるというか。

いや、ホント、ちょっと勇み足気味にそれくらい言いたくなるような選手が久々に現れた。FC東京のエースナンバー「14番」の3代目はこれで決まったかな。

しっかし、これで東京はなんと3位浮上である。第7節で4勝2分1敗。開幕前にいったい誰がこれだけ順調な姿を想像しただろうか。個人的には、志半ばで挫折した2年前の夢をもう一度追いかけることができる、という意味で本当に嬉しい限り。まあ、これまでは対戦相手に恵まれた面はあるし、怪我人続出の状態でGWの連戦を迎えるのは非常に厳しい。でも、そんな厳しさに城福監督と選手たちがどう立ち向かっていくのか、楽しみにもなってきた。


最後に。フロンターレの関塚監督は、退院された後も自宅で経過観察の状態が続いているとのことで、本当に心配です。石崎さんの跡を継いで川崎を強豪に育て上げ、ファンや選手を大事にし、常にピッチサイドで熱く実直にファイトする関塚さんの姿は(時折退席処分を受けるなどの失敗もありながら)、他チームのファンである僕にとっても共感を覚えるものでした。元気になってまた現場で指揮を執ることができるよう、ご回復を心よりお祈り申し上げます。


[おまけ]

試合後、ゴール裏に催促されて「シャー」をやるアマラオ。今年はほとんど毎試合姿を見てるな、このオッサンは(笑)。
 

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コメント

馬場や梶山が加入したときも、スゴく上手い選手だと思いましたが、大竹は更に試合の流れを変える力があります。(寝てるときの梶山のパスミスも、試合の流れを変えますが・・・。)

初ゴールのシーン、相手DFもあの位置から、つま先でループを打つとは思ってなかったと思います。技術も素晴らしいですが、発想も抜群です。

今野へのスルーパスも、まるで「先輩、ここで打って下さい。」と言わんばかりのスピード・コースで出してます。

U23に緊急招集されるのも当然と思いますが、これで代表招集は7人目。清水戦が、心配です。

>発想も抜群です。
そうなんですね。普通の選手はあそこでそういうイメージを持てないわけで、「発想の引き出し」の豊かさこそが彼の強みなのかもしれません。どう練習してもできない人にはできないプレーのように思えました。

>まるで「先輩、ここで打って下さい。」
今野は、まるで操られているようでしたね(笑)。それでもきっちり決めたのはエライ。

川崎戦の記事が読みたくて待っていたのですが、なぜかRSSでは配信されなかったので、気づいたのは今日になってしまいました。大竹のゴールをどんなふうに書いてくださるのか楽しみでしたが、期待に違わず、というより期待以上のfont size でやられました。

>たけ@ちょうふさん
どうもです。

大竹のゴールについては、久々に表現過剰な方向へ筆が滑った感じです。最近はフォントサイズも変えずに淡々と書いていたのに。気取ったファン(私ね(笑))の神経を狂わすスーパーシュートでした。

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