« 珍しくエルゴラの『東京書簡』がいいな、と思った件 (再掲) | メイン | 「奇跡」は果たして起こるのか ('07ラグビーW杯準決勝) »

2007年10月15日

●『ホステル』発『奇跡』行き

9月頭からの一月余り、ラグビーはW杯があるわ、サッカーは代表も女子代表もJもACLもあるわ、自転車はブエルタと世界選手権があるわ、プロ野球も大詰めだわ……とスポーツ関係がとにかく盛りだくさんだったのだが、その合間をぬって映画も何本か観た。変な言い方だけど、たまにはスポーツ以外で「息抜き」しないと頭が過熱するのである。とりあえず、『エヴァンゲリヲン新劇場版:序』以外についての感想なぞ。


51Gp6d78PqL._AA240_.jpgまずはDVDで『ホステル』。タランティーノ&ロドリゲスの『グラインドハウス』でフェイク予告編をやっていたイーライ・ロス監督のホラーである。東欧で遊び回る米国人ヒッチハイカーの兄ちゃんたちが、美女を餌とする秘密組織(金持ちに殺人を娯楽として提供)の罠にかかって拷問の末殺されていく、というおっとろしいお話。

なんつーか、「痛い、痛い、いたたたたたた!!」という映画だった。生きたまま目を潰されたりアキレス腱を切られたり、人間が体を切り刻まれていく過程は生理的に駄目な人が多そう(僕もかなりツラかった)。アメリカ青年たちが妖しく誘い込まれる過程や一晩空けての不気味な空気、秘密拷問組織の怪しさなど、物語の構成やディテールの出来が良いだけにまあ我慢できるが……いや~、やっぱりちょっとキツいな。

ちなみに、先日ヨドバシカメラでビワコビッチさんとホビー売場を冷やかしていたら、なんとこの映画のマスク拷問人のフィギュアが置いてあった。「こんなん、誰が買うねん!」と思わずのけぞってしまった2人(笑)。 


5168xsZ6k1L._AA240_.jpg次はリチャード・C・サラフィアン監督『バニシング・ポイント』。これはタランティーノの『デス・プルーフ』でスタントマン娘たちの会話に出てきた映画。アメ車の暴走、ドラッグ、ヒッピーと反権力、マイノリティと保守白人の弾圧、ベトナム後遺症、etc。70年代的な要素が存分に詰まっていて、解放感と無常感の両方を感じることができる傑作である。意外とカー・チェイス・シーンは少なくユルい雰囲気なんだけど、そこがかえって良い感じ。
 
 
21WSH3NX4SL._AA140_.jpg3本目は『イレイザー・ヘッド』をこれもDVDで。現在『インランド・エンパイア』が絶賛公開中、デイヴィット・リンチ監督のデビュー作である。この作品はずっと昔に一度観たのだけれど、当時は何が何だかわからずにただ「気持ち悪い」としか感じられなかった。まあ、何が何だかよくわからないのは今も同じだけれど(笑)。

ノイズだらけのスラムみたいな街で、工員がキチガイ一家の娘を妊娠させちゃって、その子供がとんでもない奇形児。工員は逃避として隣の部屋の女にエロい妄想を抱くが想いかなわずカミさんにも逃げられ、腹立ち紛れに赤ん坊を殺し、元々持っていた妄想(壁の暖房器具の裏に小さなステージがあって、奇形の女の子が踊っている)に逃げ込むところで物語が終わる……って、文字にしただけでも明らかに病んでますね、ハイ。

ただ、前回と違って、今回はこの不気味な映画に対して何かしらの魅力を感じてしまったのも事実なのである。つーことは、僕もどこかしら病んできたのだろうか(笑)。日常のすぐ側に潜む悪夢、始終流れるノイズ、切れかけた蛍光灯、幾何学模様の床、奇形、etc。リンチ作品の基本的なモチーフ(妄執)が全て詰まっている90分。
 
 
21VT94P8VBL._AA140_.jpg最後はカール・ドライヤー監督の名作『奇跡』。池袋の新文芸座の特集上映で観たのだが、月曜日のレイトショーなのにほぼ満員で驚いた。キリスト教の信仰篤いとある裕福な農家のお話。神学生だった次男がある時自分を「預言者」と称して「世迷い事」をつぶやき始め、彼の気が触れたと思い込む家族は哀しみにくれる。その後農家には三男の異宗派の娘との結婚騒動と、長男の妻の病気とが同時に起こり……。

ストーリーを素直に追う限り、これはうわべだけの信仰を否定しつつ、「人を本当に救えるのは信仰だけ」というテーゼを堂々と掲げたお話だ。一見立派な神父は宗派の違いによる対立を解決できず、腕の良い医者は病気を前に無力である(こともある)。それらを根本的に解決するのは、人と人との感情的な共感であり、愛する人のための「奇跡」を心から願う気持ち、つまり本来的・根元的な意味での信仰なのだ、という。

そうした物語が、完璧に計算された美しい画面の中で劇的に、しかしユーモアも交えながら紡がれる。なるほどこれは名作の名に値するな、と感心した。ただ、ラストで本当に「奇跡」が起こっちゃうのが……いや、奇跡が起こること自体はいい。でも、僕の観念だと「奇跡」というのはもっと「偶然」「巡り合わせの不思議」「確率の低さ」に近いものであって、ああも堂々と聖書的な「奇跡」が起こるのは……やっぱり宗教観の違いは大きい(笑)。
 
 
しかし、我ながら、『ホステル』にはじまり『奇跡』に終わるレビューってのも凄いな。
 

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://umanen.org/mt/mt-tb.cgi/2309

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)