●スタンドの向こうに山が見える風景は好きだ ('10-'11天皇杯3回戦)
「体育の日」の午後は、正田醤油スタジアムで天皇杯3回戦。ギラヴァンツ北九州 0−2 FC東京。先週、ようやくリーグで連続無勝利のトンネルを抜け出した我らが東京。今週は舞台がガラッと変わり、中立地でのJ2下位チームとの対戦である。試合はほぼ全体を通じて東京が支配する形となり、途中暑さなどからグダグダになる時間帯もありながら前半半ばに石川が、終了間際には平山が得点を挙げて勝利。まずは順当に4回戦へ駒を進めることとなった。
からっとした秋晴れ、というか10月にしては強い日差しの注ぐ中でキックオフ。
代表戦で今野・キム・権田を欠く東京だが、やはり戦力は上。個人能力で圧倒する東京の優位で試合が進む。2分、中央の大竹から左へ展開、リカルジーニョの折り返しを松下がシュートするがGK水原がキャッチ。特に動きがキレていたたのは石川で、序盤からドリブルで右サイドをえぐる場面が幾つか。8分、CKの流れから石川が撃ったミドルシュートはわずかに枠外。一方の北九州はシンプルにサイドから攻めようとするが、クロスが散発的に上がるのみ。
もう一つ差が顕著だったのは中盤の展開力。松下・梶山は正確かつ鋭いミドルパスでサイド攻撃を演出し、13分には松下が好フィードからクロスのこぼれ球を自分で狙うチャンスも。しかし、東京はFWやウイングが左右に流れてよくボールを収めるものの、人を使う意識が強すぎるのか攻撃の焦点がはっきりせず、北九州の粘り強い守備もあってなかなか決定機に至らない。19分、大竹→平山から素早くつなぎ、石川がボックス内でシュートするも水原が押さえた。
ようやく先制点が入ったのは26分。梶山の展開パスをスルスルッと上がった椋原がグラウンダーで折り返し、DF裏に抜けた石川がダイレクトに叩いて水原の脇を抜いた。シンプルだが狂いのないプレーが続いての得点。1−0。ところが次のキックオフ、北九州が一気に攻め入り、クリアが小さくなったところをフリーの大島がシュートするピンチ。これは枠外で命拾いしたが、先制点で安堵したのだろうか、東京DFは少しフワフワしたプレーぶりだった。
ただし、梶山らのミスもありながら、全体的な東京ペースは変わらない。29分、32分と大竹のシュートが枠をかすめる。35分、波状攻撃からリカが左サイドをえぐり、GKとDFの間を抜くクロスを通すも梶山・大竹は届かず。42分にも平山のサイドチェンジが右の石川に通り、梶山とのスイッチでボックスに突入してシュートするが水原がストップ。1点差のままハーフタイムへ。
後半開始直後、北九州にチャンス。意表を突く反転パスで佐藤が右サイドを突破して折り返し、後半から投入のレオナルドがフリーで狙うも、ふかしてくれて助かった。逆に49分、松下の展開パスからリカ→北斗とつないでクロス、平山が狙ったヘッダーは惜しくもポスト左。52分には松下のCKに森重がダイビングヘッドで合わせたがバーの上。57分、東京は凡ミスが増えていた梶山に替えて羽生を投入。攻勢を強めるというより流れを渡さないための交代だったか。
後半も半ばになると暑さの中で疲れが出たか、トラップなどのミスが増えて好機の頻度が落ちていく。62分、松下の縦パス一発で抜け出した石川がDFに絡まれながら撃ったシュートが枠をかすめる。65分、ギラヴァンツは宮川を、東京は大竹に替えて重松を投入。重松はDFの背後を狙う動きを繰り返し、北九州が前がかりになったこともあって攻撃はやや活性化する。67分、オフサイドギリギリの飛び出しから、重松のクロスを平山がシュートする惜しい場面。
71分、北九州は中途半端に上がる北斗の背後を突いて佐野が右サイドを突破、低いクロスにレオナルドが飛び込むもきわどく塩田がキャッチ。76分、東京は石川OUT前田INの交代。77分、ボックス手前のFKも松下が直接狙い、水原が横っ跳びで弾き出す。この頃になると、羽生がおとなしめのプレーぶりだったこともあり、東京はパス回しもスペース作りも松下が1人でやっている状態であった。他は操られるまま、まるで鵜飼いのようというか(笑)。
北九州は北斗の背後を狙い続ける。79分、佐藤のクロスが北斗に当たって跳ねながらゴール前へこぼれるピンチは塩田が防ぐ。その後の東京はグダグダなプレーが続き、いくら何でもこれは危ない……と思い始めたところで飛び出したのが88分の追加点。カウンターで右サイドに飛び出した松下が逆サイドの平山へナイスパス、平山は一旦トラップミスしたもののDF2人相手に粘り、最後はゴール右上に豪快なシュートを突き刺した。2−0。やれやれ、と試合終了。
まあ、内容はともあれ、カップ戦で勝ち抜いたのだからまずは喜ぶべきなのだろう。
2回戦と違ってJ2相手だから油断ならないのは確かだが、戦力の違いは明らかだった。だから、今回はいかに「取りこぼさない」かの勝負。そういう意味では2−0の完封勝利は決して悪い結果ではない。攻撃陣は両翼の個人技を生かしながら20本以上のシュート機会を作ったし、攻守のバランスもまずまずで、全体的には安心して観ることができた。松下の能力をようやく中盤で発揮させられたことや、梶山・羽生を実戦に慣らすことができたのも好材料だろう。
ただ、今後のリーグ戦のことを考えると……やはり時間との戦いになるんだろうな、とは思う。押し込みながらフォローの遅れや意図のズレが相変わらず多くてなかなか崩しきれなかったし(大熊監督から「コンパクトに!」みたいな指示が飛んだような)、守備でも大宮戦・湘南戦と同様にフワッと気が抜ける時間帯があった。米本も含めて復帰してくる選手たちを組み込みつつ、できるだけ早く今の方向性でチームを固めていくこと。いやー、楽しみだけど、キツイ!
MVPには松下を挙げたい。前半は梶山もいて遠慮していたのかもしれないが、後半は全体が停滞する中でボールを動かし自分も動いてスペースを作り、獅子奮迅の働きだった。ようやく本領発揮というか。梶山は、良くも悪くも梶山らしいというか、ホント好プレーと凡ミスが交互に出ていた。大人しかった羽生もそうだけど、本調子にはまだまだ、かな。石川と平山は動きがキレていて、得点したのもむべなるかな。大竹は、もっと自分で点を取りに行ってもよいのでは。
リカルジーニョは巧いけどプレーの選択肢がもう少し多ければ。重松は仕掛けるプレーもあったけど、まだ「チェイス屋後遺症」が残ってそう。前田はもっと頑張ってほしい。森重と徳永は格の違いを見せつけた。椋原は攻守に安定していてすっかり欠かせない存在に。中村北斗は後半狙われちゃってたけど、あれはボランチとカバーリングの関係が整理されてないせいもあるのかな。塩田はさすがの安定ぶり。ヤバイ時間帯は「慌てるな!」と大声を出してたね。
てな感じで、天皇杯は何とか勝ち進み、次の試合はリーグの残留争いにおいて重要なアウェイ仙台戦である。この試合からもまだまだ調子を上げていってほしいもんだと思う。スパッと勝つとだいぶ明るい見通しが出てきそうだが、負けるとまた……いや、勝つだろう、きっと勝つ!!
ギラヴァンツ北九州は初めて見たけど、なかなかステディなサッカーをするチームであった。攻撃にパンチ力を欠くのと、あと意外性みたいなのは感じられなかったんだけど、実力差があって出せなかったのかもしれない。FWに池元友樹、MFに佐野裕哉がいるのはちょっと感慨深かった。2006年に大分で観た全国地域リーグ決勝大会では、池元は短期レンタルで岐阜に、佐野は長崎に在籍して対戦してたんだよね。こういう「再会」もまた天皇杯の醍醐味である。
[付記]
前橋駅から敷島公園(正田醤油スタジアムのある公園)までは自転車で行ってみた。所要時間30分弱、というところだろうか。晴れ渡った青空の下、遠くの山を眺めつつ知らない街をスイスイ進んでいくのはなかなか気持ちの良い体験だった。行きは向かい風があってちょっと辛かったけど。僕はTTスペシャリストではないので(笑)、次回は何人か集めてローテーションを回そうかな。上に写真を掲載したのは、僕が乗った青いママチャリである。ありがたかった。