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2010年10月14日

●ふと気になった森重のワンプレー


月曜日の天皇杯3回戦を現地で観ていて、ふと気になるというか、考えさせられるプレーがあった。以下、記憶に頼って書くので間違いもあるかもしれないが、ちょっと振り返ってみよう。
 
 
前半の半ばくらいだったか、東京が北九州陣の左サイドを攻めていてボールを失った場面。ちょうど左SBの中村北斗が中寄りに上がっていたためギラヴァンツのカウンターとなり、右SB佐藤(?)が空いたスペースをドリブルで突進する。東京は北斗とボランチの松下が全力疾走で左後方へ戻るが、慣れない布陣のせいもあるのか退却はスムーズに行かず、ピンチになりそうな気配。が、そこでCBの森重が絶妙のタイミングで前に出てボールをかっさらった。

普通に森重には「ナイスプレー!」と声をかけたくなるところ。しかし実は「おっ」と思わされたのはそこからで、ボールを奪った森重は周りを見渡すとフリーの味方がいたにも関わらずパスをせず、自らスルスルッと北九州陣へ持ち上がっていったのだ。そのままDFライン前まで前進した森重は左サイドに開いていたリカルジーニョへはたいてボックスへ突入、しかし味方のフォローが続かない上にリカが持ちすぎて結局チャンスにはならず、という展開であった。

この場面、一見森重の攻撃参加は無茶なものに思える。松下・北斗は自陣と相手陣を往復したばかりで森重をフォローする余裕はなく、森重が上がっても分厚い攻めになる状況ではなかった。実際攻撃は失敗に終わり、メインスタンドでは森重を冷やかすような声も飛んでいた。
 
 
ただ、僕が思ったのは、森重の周りを見渡す仕草から見て、彼は自分の上がりが得点に結びつく可能性が低いことを承知でそのプレーを選択したのではないか、ということだ。既に書いたように松下・北斗はダッシュの繰り返しで息が上がっており(おまけにこの日はとても暑かった)、続けて攻撃参加する余裕はなく、おそらくパスを受けても有効にプレーできなかっただろう。森重がドリブルで時間を稼いだことで2人は(他の戻った選手も)楽をできた様子だった。

また、試合の流れを考えれば、序盤から東京がボールを支配して攻めたてていたにも関わらずなかなか先制点を奪えなかった時間帯。えてしてこういう時は集中力の欠如からミスしたり、逆襲速攻をくらったりして失点しがちなものだ。森重の持ち上がりは、やや無理目でも攻撃して相手を押し込み続けることで攻勢の流れを断ち切らない、という意図が込められていたのかもしれない。もちろん、その前提として持ち上がれるスペースを見つける戦術眼がある、と。

何が言いたいかというと、森重って案外色々と考えてプレーしているんじゃないかな、ということ。ボランチに入った時でも普通にパスを回すだけでなく、特に梶山がいない時は意図的にワンタッチで縦のパスを入れて攻撃を加速させたりもするよね。まあ、僕の買いかぶりすぎかもしれないし、ミスも多くて退場やPKで目立ってしまいがちな選手だけど、でも少なくとも何も考えずに漫然とプレーしている選手とは違う。「モリゲ」とか呼ぶとアホっぽいけどさ(笑)。
 
 
もう一つそのプレーを見て考えたのは、昨シーズンまでCBで主力を張っていた茂庭照幸とのキャラクターの違いである。

茂庭は対人プレーに優れ、特に好調時はアタッカーと一対一になっても低い姿勢と素早い足さばきでほとんど抜かせず、多少出遅れても快足を飛ばしてカバーしきる強さがあった。城福監督の志向するサッカーとの相性の問題(?)から出場機会を失ったものの、DFとしての能力がいまだJ1で通用することは、今シーズン移籍したセレッソでの活躍が証明している。03〜05年あたりのジャーンとの組合せは、FC東京史上間違いなく最強のCBコンビである。

ただ、茂庭は守るだけなら非常に良い選手なのだが、ピッチ全体を見渡す視野の広さや攻撃参加する能力といった面では、やや見劣りするのも否めない。たまに押し出されるような形で上がることはあったもののほとんど効果はなく、今回森重が見せたような「さりげなく味方を助ける攻撃参加」のようなものはついぞ見られなかった。まあ、懸命に攻め上がったのは良いがそこでどうしたらよいかわからなくなって(笑)、右往左往する姿はご愛嬌ではあったが。

これは別に、森重が優れていて茂庭が劣っているという話ではない。森重は茂庭に比べると守備時の対人姿勢が腰高で、それがゆえに後追いで覆い被さるような形でファウル(PK含む)を与えることが多い。警告を受ける頻度も茂庭と比べて高いのではなかろうか。しかし、彼には茂庭にはない試合を読む力と器用さがあって、それがゆえに梶山らを欠く状況ではボランチもこなす貴重な存在として貢献できたわけだ。ホント、タイプが違うとしか言いようがないわな。

そして、少なくとも城福体制が何の問題もなく続いていくように思えた昨オフの時点では、茂庭を放出して森重を獲得することはある意味「必然」だったんだろうな、と。米本が怪我しなければ、そりゃあCBは今野・茂庭よりも今野・森重の組合せの方がバランスが良いだろう。おまけに「人に強い」タイプとしては平松もいたわけだし……米本と平松の負傷離脱ってのは本当に痛かったよね。茂庭を呼び戻したいくらい(笑)。今さら言っても仕方がないことだけど。
 
 
……と、まあ、ギラヴァンツ戦は、スタジアムの周りの風景も試合展開もかなりのんびりまったりしていた(選手たちは暑くて大変だったと思うけど)こともあって、こんな事をつらつらと考えていたわけであります。もっと集中して試合観ろってか(笑)。
 

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コメント

昔の話ですが、浦和戦で森重がファウルでPKを与えてしまった時にはかなりの言われようでしたよね。けど、あれは自分から言わせれば途中投入なのに攻→守の切り替えをサボったナオの責任だと思ってて。欠けたブロック組織に柏木がボールを運んで、悠々クサビパスを放ったところから始まった攻撃は、原口vs森重になった時点ではほぼ勝負ありだったと思います。

当事者である森重の責任はさすがに不可避だろうとは思いますが、あまりにもあの場面でのナオに対して文句が出なかったことには驚きました。そしてそのせいか「またか…」「前からアイツは…」「だからアイツは好きになれない」と酷い言われ様をされていた森重が逆に際立って、不憫で仕方がなかった。

前科はあっても、それに引きづられて、我々の仲間をネガティブにジャッジすることの愚かさに辟易としていましたね。

気に入られる選手、そうでない選手は傾向として分かれるのは仕方が無いことかもしれないですが、それに引きづられることで「良かったものを良いと言えない」のならばそれは不健全。

くま東京になって、ゴール前への厚みとしてボランチに掛かる負荷はかなり増しました。森重はスプリント回数が格段に増えて、トランジションゲームに持ち込みがちなくま東京の中でかなり厳しい運動量を求められていると思います。しかし、それに森重は堂々と立ち向かい、空っぽになるまでスプリントをこなしてくれてます。そういった姿勢に自分はかなりの信頼をしています。

そういった姿勢が、少しでも早く、正しく伝わって欲しいと願います。

CHONOさん、コメントありがとうございます。

>前科はあっても、それに引きづられて、我々の仲間を
>ネガティブにジャッジすることの愚かさ

これは全くその通りですね。自分もどこかでそういう見方・書き方をしているかもしれないという自戒を込めてですが、やはりどの選手も良いところと悪いところはあるわけで、その中で「良いものは良い」ということは断固として主張していきたいです。当然ながら基本姿勢は応援、で。

平山が、巧みにシュートとパスを使い分けて「お、今日は判断が冴えているな」という時でさえ、シュートしないと(DFが壁を作っていても!)野次を飛ばされるというのも同じような現象かな。あと、森重が降格した大分にいたことをもって「疫病神」などと表現したりするのは論外でしょう。

>それに森重は堂々と立ち向かい、空っぽになるまでスプリントをこなしてくれてます

彼は「梶山」にはなれないし、ボランチとしてなかなか(チームの勝利という)結果は出ていませんが、しかし梶山も米本も羽生もいない緊急事態において、力を尽くして奮闘してくれているのは間違いないと私も思っています。

いや、ホント、加入1年目で、チーム全体がガタガタしてしまった状況で、よくやってくれてると思うんですけどねえ。もちろん改善すべき点は色々あるにしても、ね。

>ただ、茂庭は守るだけなら非常に良い選手なのだが、ピッチ全体を見渡す視野の広さや攻撃参加する能力といった面では、やや見劣りするのも否めない
>少なくとも城福体制が何の問題もなく続いていくように思えた昨オフの時点では、茂庭を放出して森重を獲得することはある意味「必然」だったんだろうな、

全く同意。モニからのロングフィードが直接サイドラインを割って味スタ沈黙&失笑のゆるーい雰囲気も懐かしいものはありますが・・・

こんにちは。

>>森重は茂庭に比べると守備時の対人姿勢が腰高で、
私は森重の「守備時の我慢のなさ」に大いに不満を持っているのですが、この一節で、姿勢のせいでそう見えていたのかもと思いました(でもハンドの多さはこれでは説明出来ないか...)。

>三四郎さん

でも、茂庭、セレッソ行って良かったですよね。セレッソみたいな攻撃イケイケイメージの強いチームに「守備なら無双」の茂庭が入ったからバランス的にちょうど良かったんでしょうかね。

>thisiskwbrさん

まあ、私のは印象批評ですから(笑)。我慢がないというか、(守備時に)アグレッシブに行こうとするあまりポカをする傾向は確かにありますね。ハンドが多いという印象は私はそれほど持っていないですけど、それはおそらく別の原因かと。

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