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2010年08月17日

●永遠不朽の名作『2001年宇宙の旅』


先週の金曜日、TOHOシネマズ六本木ヒルズでスタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙の旅』を観賞。「午前十時の映画祭」と題した企画の1本として上映された、SF映画史上に堂々そびえ立つ金字塔。今までビデオやDVDでは繰り返し観てきた作品だが、映画館のスクリーンで体験するのは初めて(『蜘蛛巣城』もそうだけど、最近こういうのが多い)。数ヶ月前から楽しみにしてきた機会でもあり、3軒はしご飲みの翌日にも関わらず根性で早起きした。
 
 
で、実際に観てみた感想は……素晴らしかった。感動した。以下、感想をいくつか。

まず、やっぱり映画館の大画面と音響設備はいいな、と(笑)。当たり前っちゃ当たり前なんだが、でもこの作品独特のスケール感(文明以前のアフリカの荒野とか無限に広がる宇宙空間とか)や、それらとのコントラストで強調される細部(静寂の中に響く息遣い・重低音とか)は他の映画と比べてもよりいっそう「でかいハコ」向きなのかな、という気はした。さすがにシネラマでの上映とはいかなかったけど、壮大な映画を壮大な環境で観る、というのは大事である。

それと、今や暦が2010年になってしまったにも関わらず、映画がほとんど古びていないことにはもう驚くしかない。この映画のSFXの完成度の高さは異常。というか、登場人物の髪型や着ている服のセンスなど、古くさい(いかにも60年代の未来予想図的な)部分はある。でもディスカバリー号を初めとする宇宙船のデザインなんかは今見てもクールだし、ミニチュアワークや合成に関してはまさに「完璧」。凡百のCG映画など足下にも及ばない出来である。

まあ、古びないということに関しては、キューブリックの「謎めいた雰囲気を出すため説明は極力削る」という方針も奏効しているのは間違いない。小説版を読むと物語は東西冷戦を前提にしているのだが、映画版はそれを明確に表現していないためソ連崩壊後の現在でも話に矛盾はなく、具体的な説明の多い続編『2010年』の方がよほど陳腐化しているくらい。そもそも、物語の根幹をなしている神話的な構造や「進化の歴史」自体は時代状況とは関係ないから。

なんというか、決して朽ちない物語という意味では『ラ・ジュテ』あたりと通じるところがあるんだけど、あちらは「非常にデカい話をミニマムなスケールで見せる」という方法論で成功しているのに対して、こちらは「遠大な物語を超大きなスケールで完璧に映像化した」ということで文句のつけようがないというか、参りましたというか(笑)。全てのシーンが芸術的な美しさ。SF映画の最高傑作を挙げろと言われたら、僕は間違いなく『2001年宇宙の旅』を挙げる。

あと、1点気付いたこと。この映画の食事シーンの多さが前から気になってたのだが、改めて見直してみると象徴的に重要な描写になってるのね。つまり、猿→道具を使える猿人→近未来人→超人という人類の進化と、草食→肉食→宇宙食→宇宙人が振る舞う最後の晩餐、という食事の進化(?)がぴたり対応しているのだ。有名な「武器としての骨→ミサイル衛星」のジャンプ描写と合わせ、キューブリックの「文明」に対するクールな視点がうかがえてちょっと楽しい。

いずれにせよ、オープニングの月・地球・太陽直列とラストの「スター・チャイルド」、どちらも『ツァラトゥストラはかく語りき』が鳴り響く2つの場面を大画面大音量で観られただけでも、わざわざ足を運んだ甲斐があったというものであった。ゾクゾクきましたですよ、ホント。
 

 
 
[付記1]
この映画には冒頭とエンド・クレジット後、それぞれ数分ずつ画面に何も映らず音楽だけが流れる部分があるのだが、テレビ放映だと必ずカットされるので僕はDVDを買って初めて知ったのだった。冒頭の方は不安感を煽るような音楽だし、初上映当時には「何だ?映写トラブルか!?」とか騒ぐ客がいたりしたんじゃなかろうか、と思ったりする。

[付記2]
名画特集とはいえ、上映前には新作の予告編が。で、最初に流れたのが木村拓哉主演の『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(笑)。何かのギャグにしか思えなかったというか、CG云々以前にあの演技を見せられるのはある種の拷問というか、同じSF映画のカテゴリーに入れるのが『2001年〜』に申し訳ないというか、どうしてこう何でもかんでも実写化するのかねえというか……。あ、でも、その後には山P主演『あしたのジョー』実写版が控えてるのか。うーむ。

[付記3]
ちなみに『2001年〜』の六本木での上映はこの日が最後で、翌日からはリチャード・フライシャー監督の『ミクロの決死圏』が上映されているとのこと。病気の要人を助けようと科学者たちが小型化して潜水艇で体内に入るんだけど、何しろ病人の体温は高いので暑くてラクエル・ウェルチが水着姿になっちゃったりしてもう大変、って映画でしたな、確か。
 

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コメント

こんばんは

なるほど、食事の場面は思い至りませんでした。
実は小説の方が昔は好きだったのですが、今見ると印象が変わるかもしれないですね。
も1回見てみよっと

昔BSの何かの番組で、森本レオがこの映画の分析とすばらしさをすごいテンションで5分間ぐらいぶっ通しでしゃべり続け、そのあと抜け殻のようになってたのを思い出しました。

どうもです。

私も、SF小説をけっこう読んでた子どもの頃は、キューブリックの映画を観て「なんか痒いところに手が届かない感じだな」とか思ってたんですけども。だんだん、歳をとるにつれて映画版の方がシンプルに、鮮やかに壮大なテーマを表現できているように思えて、今では映画版の方が好きですね。

もちろん、具体的に論理的に物語をつむぐ小説版も傑作だと思いますし、シリーズとして続編が伸びていきましたしね。見比べてみると、キューブリックとクラークの作家としての方法論の違いがとても興味深いです。

しかし、森本レオさんですか……。

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