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2010年07月22日

●『蜘蛛巣城』

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今年は黒澤明監督生誕100周年ということで、あちこちの映画館で特集プログラムが組まれている。春には日比谷のTOHOシネマズで、現在は池袋の新文芸座で、そして秋には北千住のシネマブルースタジオでも連続上映が行われるようだ。まあ、何だかんだで日本映画史上最大の巨匠であることは間違いないし、4月に『用心棒』を観た時に思ったけど、やっぱりスクリーンで観ると黒澤映画独特のスケール感やアクションの迫力がダイレクトに伝わってきていい。
 
 
ということで、先日、今度は新文芸座で『蜘蛛巣城』を観てきた。

あらすじはgoo映画の紹介を見てもらえればわかるが、要するにシェイクスピアの『マクベス』である。舞台が日本の戦国時代になってエピソードに微妙な違いはあるけれど、森の妖婆の予言→夫人にそそのかされた主人公の王殺害→不安にかられた主人公の止まらない殺戮→狂気に陥る主人公たち(落ちない血)とその破滅(動く森)、というプロットはそのまんま。よってストーリーはしっかりしているのだが、意外性には欠けるし、少々退屈な部分がないではない。

ただ、それでもこの作品が傑作なのは、場面演出と雰囲気づくりが抜群に良いから。城の周りに漂う霧が醸し出す、全編を通じた不吉なムード。山田五十鈴演じる毒婦の不気味な言動と、三船敏郎の狂気演技。人々を破滅させる森の妖婆の奇っ怪さ。謀殺された千秋実の幽霊が登場するシーンの恐怖演出。どれも今でいうところのVFXなんて使っていないのに、重厚感溢れる画面から恐ろしさとともに、この世のものと思えぬ異界感が感じられるのが素晴らしい。

美しい画面とキャラの立った登場人物の動きを堪能しているうちに、いつの間にか違う世界に踏み込んでしまっている感覚。これはまさしく上質な「怪奇映画」である。

あとは、何といってもラスト、三船敏郎演ずる主人公が無数の矢を射かけられて串刺しになっていく場面の凄まじさか。目にも見えない速さで矢が「バッ!バッ!バッ!バババ!」と体や周りの壁に突き刺さって……今なら絶対CGを使うところだが、あれ本物の矢を撃ってるんだよな、確か。わざわざ横方向から(ワイヤーとかなしに)飛んでくる矢を見せるカットもあるし。正気の沙汰じゃない(笑)。あの迫力を体験できただけでも、劇場で見直した甲斐があったような。
 
 
とにかく、今どきのCGてんこ盛りの映画では観られないようなホンモノ感たっぷりのアクションや怪奇演出を目にすることができるという意味で、『蜘蛛巣城』に限らず黒澤映画はお薦めである。つーか、どうもカラー作品になってから(『影武者』や『乱』あたり?)の印象が強いせいか、「黒澤映画は難しい」と思い込んでいる人が多いのは残念なことだ。この映画や『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』あたりを観てもらえば、全然印象が変わるんだろうけど。
 

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