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2010年07月23日

●『ぼくのエリ 200歳の少女』

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先日、銀座テアトルシネマでトーマス・アルフレッドソン監督『ぼくのエリ 200歳の少女』を観た。主人公はストックホルム郊外に母親と住む、12歳のいじめられっ子オスカー。彼は隣の家に父親と共に引っ越してきた少女エリに初恋を抱くが、時を同じくして彼らの住む町で惨たらしい殺人事件が頻発するように。ある時、オスカーは重大な秘密を知ってしまう。エリは町から町へ移り住みながら人の血を吸って200年間生きながらえてきたヴァンパイアだったのだ……。
 
 
とても残酷で、とても哀しい映画だった。

現在一般化している(ブラム=ストーカーが『ドラキュラ』で作った)ヴァンパイアのイメージは、恐ろしい化け物であると同時にもの哀しさを帯びた存在でもある。宙を舞い人を惑わせる超越的な能力と、冷酷に人を殺す残忍さ。しかしその一方で血以外のものを口にできず、日の光を浴びることもかなわず、容易に死ぬことのできない「生ける屍」でもある。この映画はそうした伝統的なフォーマットを忠実になぞっており、堂々たる正統派吸血鬼映画と言ってよいだろう。

加えてこの作品は、安息の地のない吸血鬼エリと、彼女と恋に落ちる独りぼっち(友達はなく両親は離散)のオスカーをともに12歳(相当)とし、彼らの淡い恋心を描くと共に2人の世界から孤立した状況を重ね合わせることで、物語に一層の深みと情感を与えることに成功している。もちろんホラーであるからして場面描写やストーリー展開は常に血なまぐさいものとなるわけだが、それでも、観ていてこれほど素直にセンチメンタルな気分になれた映画は久しぶりだ。

しかし、ホント哀しい話なのよこれが……オスカーにしてみればエリはようやく見つけた「辛い日常からの出口」で、エリにしてみればオスカーはようやく見つけた「永遠の苦しみの中の安らぎ」なわけだ。だけど、2人の関係はエリの吸血鬼としての生(人殺し)抜きにはあり得ない、という。オスカーが「大人になる」どころかさらに一歩踏み出してしまったかのような結末は、ハッピーエンドと言ってよいのかどうか。観る人によって受け止め方は変わるのだろう。

まあ、エリと「父親」の殺しのやり口があまりに稚拙で「そりゃすぐに騒ぎになるやろ!」とツッコミたくなるとか、オスカーとエリがやけにあっさり仲良くなっちゃう(ルービックキューブ1つでかよ!)とか、物足りない部分がないわけではない。でも、雪と氷につつまれたスウェーデンの無機質な街並を背景とする美しい映像や、所々で情感たっぷりに挿入される繊細な音楽、そしてオスカーを演ずるカーレ・ヘーデブラントの熱演なんかでだいたい許せちゃうかな、と。

とにかく、傑作なのは確かだと思う。陳腐な言い方だけど、ホラー好きじゃない人にもお薦め。
 
 
(以下、ネタバレ込みの付け足し) 

この作品、個人的に特に琴線に触れたのは物語終盤のプールのシーン。エリがオスカーに別れを告げて町を離れた直後、オスカーはいじめグループの卑劣な罠にかかって窮地に陥る。グループのリーダー格の少年の兄(キチガイ)によって頭を水中に沈められ、あわや命を落とすかという場面。エリが助けに来るんだけど、その描写が凄まじいんだな。水面をあり得ない方向に足がバタバタバター!首がボチャーン!ついでに手首もボチャボチャーン!!みたいな。

なんつーか、切株描写を見てカタルシスを感じたのは『スターシップ・トゥルーパーズ』以来だろうか(笑)。僕はオスカーくらいの歳にやはりいじめられっ子だったので、ああいった陰湿・悪質ないじめのシーンを見ると未だに体の底から怒りが沸き上がってくるというか、「こいつら死んでしまえばいいのに!!」と思ったりする。今回、ホントにそうなってくれたという点でもつくづく正しい映画なのであった(違うか)。
 

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