« 「こんなこともあるさ」 (FC東京×ヴィッセル神戸) | メイン | 『蜘蛛巣城』 »

2010年07月20日

●競争と友情、難しいね


昨日のツール・ド・フランス第15ステージ。フランスチャンピオンジャージを身にまとったヴォクレールが見事な独走勝利を決める一方で、総合争いの中ではやや後味の悪い出来事が。
 
 
終盤のパレ峠、人数を減らした集団の中からマイヨジョーヌのアンディ・シュレクが絶妙のタイミングでアタックをかける。しかし、ライバルのコンタドールをうまく出し抜いたかに思えた瞬間、アンディの自転車のチェーンが脱落するトラブル。ここで、コンタドールが逆にアタックをかけ、それにサムエル・サンチェスとメンショフが続いてアンディを置き去りにしたのだ。

自転車ロードレースにおいて、有力選手がメカトラブルや落車で遅れた場合は待つのがフェアプレー精神、というか不文律とされている。コンタドールはこれを破ったということでアンディは激怒し、マスコミやファンの間でもコンタドールの行為に対する非難が起こっているようだ。

僕がテレビ中継を見て抱いた感想は「待った方がよかった。でも、待つのは難しかったろう」。

チェーンの脱落が起こった時、アタックをかけていたのはシュレクの方だった。しかもそれは成功しかけて、距離を空けられていたコンタドールはペダルを踏み直して加速しているところだった。つまり、アームストロングもCNにコメントしているとおり、レースは慌ただしく動いている「ON」の状態にあったのだ。そこでの判断はかなり微妙なものにならざるを得ない。

そもそも、「不運に見舞われた選手を待ってあげる」という紳士協定はいかなる場合に発動したらよいのだろうか。落車(特に巻き込まれのヤツ)は待つべきだろうか。パンクや自転車が壊れた場合も待ってあげた方がよいような気はする。でも、チェーン脱落はどうだろう。昨日のケースは不可抗力としても、シフトミスにも見える場合は止まるべきと言えるのか。

今大会の中でも、例えば第3ステージのパヴェ(石畳)区間。明らかに多くの選手がパンクやホイールトラブルで苦しんでいて、しかもフランク・シュレクが落車して負傷したタイミングで、カンチェラーラを先頭に加速して抜け出したサクソバンク=アンディの判断はどうだったのか。僕はあれも「おかしい」とまでは言えないけど、でも「えげつないな」とは思った。

つまり、あくまで勝負事の範囲内にとどまりながら、特定の選手やチームに起こる不運をどこまで(全部、でないのは言うまでもない)皆で分かちあうかというセンシティブな問題であり、待つ待たないというのは案外「当然〜べき」と断ずるのは難しい事柄ではなかろうか。
 

もっとも、それでも今回については、コンタドールはあそこで待った方が、今後のリスクや批判材料を減らすという意味でも結果的には正解ではあったと思う。本人も「まずいことしちゃったな」と思っているらしく、YouTubeにメッセージを掲載したようだ。「あそこは仕方なかったんだ。でもアンディの怒るのもわかる。批判されるのもわかる。仲直りしたい」ってか。

無論、アンディにしてみたら、それくらいで腹の虫が収まるわけがないのだろう。今大会の彼はフランク兄ちゃんと手厚いアシストに守られている従来のイメージから一歩踏み出したかのような立派な闘いぶりを見せていたし、パレ峠で見せたアタックも見事だった。そこで起こったのが自分に責任のないトラブルと、コンタドールらの抜け駆けだ。激怒しない方がどうかしている。

コンタドールとアンディはしばらくは友情関係を絶つことになっちゃうんだろう。それはそれで2人とも応援している僕としては残念な気もするけど、そもそも昨年のランスーコンタや昔のF1のセナープロストの関係なんかを思い起こせば、ここまで大きな舞台でハイレベルの一騎打ちになってしまうとお友達というわけにもいかないのかな、という気もする。つか、極東の無責任な観客としては、ライバル間でやや険悪気味に火花が散るくらいの方が面白いかも、なんて。

まあ、アンディには鬼神のクライマーと化してもらって、ツールマレーではばんばんアタックして総合争いを盛り上げてほしいものである。コンタドールにもこれまで同様抜け目なく、勝負勘とバキュンアタックを披露してもらってね。2人の「名勝負数え歌」がみたい。関係修復はオフシーズンか引退後に、イルカの泳いでいる海とかできっちりしてもらってさ(笑)。
 
 
[付記]

あの場面、コンタドールが待たなかったことについては、「Mas Ciclismo」の7月20日付の記事が興味深い。なんとなく、昨日のツィッターなんかでのコンタドールへの非難囂々に対して、自分がコンタをかばいたくなった気持ちもわかったような。もちろん、この記事の仮説が仮に当たっているとしても「あそこでコンタドールが待つべきだった」という意見の人がそれを変える必要は全くない。


[7/21 追記]

とか書いてたら、騒動はもう収束に向かい始めたらしい。ちぇっ(笑)。
 

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://umanen.org/mt/mt-tb.cgi/2633

コメント

自分があの場面を見たときは「せこいなあ」と思った。待った方が男らしいんだけど、ちぎられちゃったからそんな待つなんて余裕がなかったのかなとも。

そんなコンタとアンディですけど、ツールマレーの頂上(第17ステージね)で健闘をたたえあっていたのが印象的でしたな。

>F1のセナープロストの関係
 =現在のレッドブルの2人(ウェーバーとベッテル)だな、今は。

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)