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2010年03月23日

●『インビクタス ー負けざる者たちー』

土曜日(珍しく)カミさんと一緒に、銀座シネパトスでクリント・イーストウッド監督『インビクタス −負けざる者たち−』を(やっとこさ)観た。1995年ラグビーワールドカップにおける実話を元に、南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ大統領(モーガン・フリーマン)と同国代表「スプリングボクス」のフランソワ・ピナール主将(マット・デイモン)がアパルトヘイト廃止直後の人種対立を乗り越えながら、世界一に向かって邁進していく姿を描いた作品。
 
 
全体的な印象としては、いかにも「職人」イーストウッド監督らしく、過剰さを廃して訥々と描いているな、と。でも、だからといって映画の感動が削がれているかと言えばむしろ逆で、もともと奇跡的な実話だけに映像化すれば変にエモーショナルになったりわざとらしくなったりしがちなところ、丁寧に細かいエピソードを積み上げていくことで過不足ないところに落とし込んでいるように思えた。興ざめを上手に回避しつつ、でも淡泊になっていはいない、という。

例えば、マンデラの依頼によって黒人居住地でラグビー教室が開かれる場面。初めは嫌々だったスプリングボクスの面々が子供たちの笑顔に引き込まれて夢中で教えるようになるんだけど、群がる子供たちに向かって選手の1人がポン!とボールを蹴った瞬間、高い位置のカメラに切り替わってパッと広く視界が開ける演出などは見事だった。「あ、この瞬間に何かが変わったんだ」という感覚。正攻法極まるカメラワークではあるんだけど、それだけに隙はない。

他にも良い場面はいくつもあった。決勝戦を前にして実家に帰ったピナールが、両親と奥さんの他に黒人の家政婦さんにもチケットを用意してあげるシーンとか。その時、皆が本当に、心底嬉しそうな表情をするのがいいんだよね。涙腺決壊用意。あとはマンデラが27年間幽閉されていた独房をピナールが訪れる場面か。彼の脳裏にアーネスト・ヘンリーの詩がよぎって……予定調和といえば予定調和なんだが、美しいエピソードが観客の心の中に積み重なっていく。

しかし、劇映画だから誇張されていたり変更されている部分はある(オールブラックスの食中毒事件はなかったね(笑))にしても、基本的には実話なのが凄いよな。人間の「克服する意志」の尊さと威力を再確認することができる映画である。

難を言えば、最後の決勝戦(対NZオールブラックス戦)がちょっと冗長で単調に過ぎたかな、と。あそこをもう少し短く抑揚をつけて描いてくれれば文句なしだったのだが。あとは、ラグビー的にはいくつか変な描写があったけど、そこをいちいち指摘するのは野暮というものか。アメリカの監督がラグビー的価値(キャプテンの重要さとか)をきっちり描いてくれただけでも喜ぶべきなのだろう。だってエンディングテーマが『ワールド・イン・ユニオン』だぜ!!
 
 
個人的な第3回ワールドカップの記憶について。やはり印象的だったのは、決勝戦の試合前にマンデラが登場した場面である。なんというか、彼の姿が現れた瞬間にテレビ(確かNHKの生中継)の画面からもスタジアムの空気が変わってNZを呑み込むのが伝わってきた。僕にとってはあのワールドカップは「ネルソン・マンデラが南アフリカを勝たせた」大会なんである。あの場面については、この映画の描き方が少々大人しすぎるように感じられたくらいだ。

あと、ついでに言うと、準決勝の南アフリカ×フランス戦も豪雨の悪コンディションの中で激しい攻防が延々と続く、凄まじい試合だったように記憶している。1トライ差以内まで詰めたフランスがゴール前でスクラムとモールで攻めたて、南アフリカの方はFWが気迫の塊になって耐え続ける展開。ある意味、決勝戦以上に地元南アの「意志の力」が発揮されたゲームだったかもしれない。面白さや爽快さとはまた別の、フットボールの根源的な魅力があった試合。
 
 
いや、エンディングの草ラグビーの場面にかぶさって『ワールド・イン・ユニオン』が流れ始めた時には「ラグビーを好きになっていて本当に良かった」と思ったですよ。いい映画だった。こういう映画を1人ではなくカミさんと一緒に観られたのもまた嬉しい、とか言ってみたりして。
 

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