●「解放」を目の当たりにする歓び (ジュビロ磐田×FC東京)
昨日の午後は、ヤマハスタジアムに遠征してJ1第13節。ジュビロ磐田 1-2 FC東京。北京五輪とキリンカップ・W杯予選に向けた、40日に渡るリーグ中断前の最終戦。連敗中の両チームにとっては「絶対に負けたくない」一戦であったろう。試合は「魔の時間帯」を突いたジュビロが先制するものの、エースストライカーと復活したファンタジスタ、そしてついに覚醒した「10番」の活躍で後半たたみかけた東京が見事な逆転勝ちを収める。
汗ばむ陽気の中でキックオフ。立ち上がりから双方とも素早いパスワークで攻めたて、ボールがよく動く見ごたえのある展開に。2分、カボレのポストからパスを出し入れ、ボックス内の赤嶺にボールが収まるがクロスはDFがブロック。3分、梶山が足を滑らせてボールを奪われ、前田→上田とつながれたがシュートは塩田が正面でキャッチ。7分、バイタルエリアでのパス交換から羽生のミドルシュートを能活がキャッチ。やや東京ペースで試合が進む。
東京で中心的な役割を担ったのは梶山。この日は判断・プレーの精度ともに素晴らしく、攻撃では磐田のプレスをかいくぐりながら右へ左へパスを散らして好機を創り、守備でも相手の虚を突く寄せで幾度もボールを奪った。10分、左へ流れたカボレとのパス交換から長友が突破、クロスはわずかに赤嶺に合わなかったが、2次攻撃・3次攻撃とたたみかけ、徳永のクロスが絶妙のタイミングで走り込む梶山に合うもヘッダーはバーの上。
しかし、押しながら得点が奪えないでいるうち、東京はフリーランニングの量が減って息切れ状態に。逆に磐田は攻撃のスピードを維持する。21分、藤山が西に振り切られ、際どいクロスは佐原がはじき返したものの、さらに波状攻撃で苦しいクリアが続く。そして右CK、梶山を振り切ってどんピシャのタイミングで飛び込んだ大井がヘッダーを叩き込み、磐田先制。佐原が怒っていたが、集中力が途切れて必要以上にバタついた時間帯だった。0-1。
またも先制されてしまった東京は反撃に出る。25分、羽生とのパス交換で抜け出したカボレが豪快な切り返しでDFをかわして折り返し、懸命に走り込む羽生がシュートするが能活キャッチ。先制した磐田は守備優先の体勢にも見え、東京はパスを回しながらも攻めあぐむ。33分、中盤のボール争奪戦を制した梶山から赤嶺へ、スルーパスでカボレが抜けかけるがDF必死にカットし、能活のクリアを梶山が拾ってミドルシュートを狙うもまたDFブロック。
暑さのために早くも選手たちの動きが落ち始める中、東京は押しながら仕掛けきれずにイライラする展開。38分、佐原と競りながら撃った萬代のヘッダーはバーの上。44分、梶山の好サイドチェンジから長友が切れ込んで強烈なシュート、能活がはじいたボールを拾って2次攻撃となり、梶山がボックス内を横切るクロスを通すが、羽生渾身のシュートはわずか左に外れ。ロスタイムに前田が放ったミドルシュートも塩田がキャッチし、0-1で前半終了となった。
このままでは名古屋戦・柏戦の轍を踏むことになる東京は、後半開始と同時に再び攻勢をかける。開始直後、左へから切れ込む赤嶺が角度のないとこから撃ったシュートがサイドネットに突き刺さる。そして48分、右CKでなぜか羽生に代わって蹴った徳永のクロス、佐原がDF2人に競り勝って頭で叩きつけ、ショートバウンドを能活がファンブル。詰めていた赤嶺が思いきり蹴り込んでゲット!1-1。ゴールへ向かう積極性が生んだ得点だった。
これで東京は勢いに乗る。「前の見えている」梶山の展開パスと、前線で確実に収めるカボレ、ボールを引き出す羽生・赤嶺・長友らの動きが噛み合ってパスワークで押し込む(磐田相手に!)。53分、梶山のフィードから長友が抜けて追いすがる西をかわしてクロス、惜しくも赤嶺に合わず。54分、自らボールを奪った梶山が持ち上がり、右でフリーのカボレへパスを通すも、一対一は能活がストップ。57分にもカボレの強烈なロングシュートが磐田ゴールを襲う。
もちろん磐田も黙っているわけではなく、特に快足カウンターで東京DFラインの裏を突く西は脅威であった。55分、西の強烈なグラウンダーシュートを塩田が横っ跳びで押さえる。60分にはパス交換からフリーで上がった駒野が弾丸ミドルシュート、かろうじて塩田がはじいたボールが西の足下に落ちたが、シュートはDF陣が壁を作ってブロック。この時間帯は東京の攻撃がまたしても息切れし始めた感もあり、主導権がどちらに転ぶが微妙な情勢であった。
先に動いたのは東京ベンチ。羽生に代えて怪我から復帰のエメルソンを投入。この交代が奏功する。62分、右に流れたエメがドリブルで仕掛けた場面。大きな切り返しで村井を抜き去り、一瞬ためてからスルーパス。完全にDFラインの裏に出たカボレが狙いすましたクロスで能活の脇を抜き、ファーサイドに走り込む赤嶺が押し込んでゲット!!絶妙なタイミングのパス交換で、完全にDFを崩した素晴らしい得点。2年前の栗澤のゴールを思い出した。2-1。
エメは躍動感溢れる動きと高い技術で攻撃を牽引する。2点目直後には長友・カボレとラブリーなパス交換。楽しい楽しい……のだが、そこで前がかりの裏を突かれてピンチとなるのがサッカーの難しいところ。66分、藤山のミスパスから波状攻撃を受けるが、上田のシュートは佐原がブロック。69分にはロングボールを佐原がそらしてピンチとなり、船谷のクロスがどフリーになっていた前田にピタリ。ところが、観念した瞬間、なぜかボールは枠外へ。助かった。
ここで東京は金沢→浅利の交代。中盤守備がゆるくなり、撃ち合いの雰囲気が漂い始めていただけに妥当な交代だろう。71分、ボックス内前田のポストから船谷がボレーを狙うもバーの上。その直後には梶山・カボレ・長友のパス交換からゴール前今野の足下にボールが入りかけるがDFがスライディングタックル。さすがに東京の選手たちもキツそうで、前線にボールが入ってもフォローはなし。あとはいかに磐田の攻勢をしのいで逃げ切るか、が問題に。
77分、磐田は前田OUTゴン中山IN。それまでも長いボールが増えていた磐田だったが、力攻めの色合いが一層鮮明に。79分、エメの意表を突く左足ミドルを能活がキャッチ。82分にはロングスローからボックス内でつながれる危ない場面、藤山が河村に競りかけて何とか防ぐ。これを見て東京ベンチはカボ→石川の交代、加えて今野をDFラインに下げて3バックに近い形とし、藤山を前に出して駒野に付かせる対パワープレーシフト。これは驚いた。そして効いた。
その後は東京が石川・エメを残して自陣を固め、磐田がゴンやジウシーニョを狙うも厚いDF網を崩せない、という場面が続く。攻撃の時、前に押し出される形になった藤山が困った顔をしていた(笑)。89分、その藤山がドリブルで持ち上がり、一気に右サイドのエメに通すナイスパス。エメは浮き球をゴール前へ入れ、石川が走り込むが寸前で能活キャッチ。追加点こそならなかったものの、ロスタイムはボックス内に砦を築くようにして守りきってタイムアップ。
暑い中での試合はどうしてもグダグダになりがちなものだが、この試合はよくボールが動いて見応えがあった。磐田のロングボール作戦やそれに対抗する東京の「藤山放流」作戦なども面白かったし。それにしても、1-6で大敗したこともあり(土肥ちゃん……(泣))、僕らにとって磐田はどうしても「鬼門」イメージなのだが、そんなことは今の選手たちにはもちろん関係なく、この試合においても東京は全く見劣りしなかった。時代は変わったのである。
とても喜ばしく思ったのは、梶山の成長ぶりだ。大宮戦・柏戦に続く活躍。このブログを読んでくれている方ならご承知のことと思うけれど、僕は「たまの超絶プレーで褒めそやされる梶山」が嫌いだ。ボール扱いの巧さや身体能力の高さは認めつつも、①ボールのないところでの仕事量、②(特に守備面での)予測・判断、③視野の広さ、の3点については大きな不満を持っていた。普通に良い選手かもしれないが、もっとやれるはずじゃないか、と。
ところが、この試合では①はまあまあ、②はボール奪取の多さを見ても上々の出来、そして③は……「前が見える」どころか壁の向こうまで見えているんじゃないかと思うような展開パスをバシバシ通した。今度こそ本当に覚醒したということなんだろうか。「見える……私にも見えるぞ!!」みたいな(笑)。やっぱり娘さんが生まれて何かのスイッチが入ったんだね。ぜひこの調子で行ってほしい。次は、流れの悪い時に何ができるか、かな。
もう一つ嬉しかったのは、ようやく怪我から復帰したエメルソンが生き生きとしたプレーで勝利に貢献したこと。味スタで僕の席から振り返るとベンチ外の選手たちがガラス越しに試合を観ているんだけど、その中でもエメのとびきりつまらなそうな表情は印象的だったんだよね。もちろん、戦力的にも彼の復帰は大きい。足下のテクニックといい、「前の見えている」プレー選択といい、彼を「黒い奥原」っつったのは東京中華だっけ?ホントそんな感じだ。
他の選手では、もちろん赤嶺は大殊勲。「回すばっかりでゴールへ向かう姿勢が欠けているんじゃないか?」みたいな話も出てきたところでこの活躍。素晴らしすぎる。カボレはゴールこそないけれど、チームへの貢献ぶりは大きい。長友はもはや不可欠の選手。徳永は相変わらず予備動作が拙すぎ。佐原はロングボールをかぶった場面以外は良かった。藤山は、便利な選手であることは改めて証明されたけど、ちょっと相手にパスを渡しすぎかな。
いやー、それにしても、解放感に溢れた青空のスタジアムで、ついに解放され始めた(もっとできるはずだけど)梶山のポテンシャルを堪能し、怪我から解放されたエメルソンの姿をニンマリして眺め、そして連敗のプレシャーから自らを解放したチームの勝利に歓喜を覚える。なんと爽快な「中断前最終戦」だったのだろう。気持ちよかった!!
試合後は、浜松駅から徒歩数分の「マイン・シュロス」というレストランで祝杯をあげた。地ビール4種類を順に楽しむ。ヘレス、ヴァイツェン、アルト、ミュンヒナー。どれも水準以上の味だったように思うのだが、勝利でやや「かさ上げ」されてるのだろうか(笑)。つまみはトマトとモッツァレラのサラダにソーセージ盛り合わせ、海鮮春巻き、牛肉のビール煮、そして富士宮焼きそば。いやー美味かった。勝った後は、キミィ、とにかく何でも美味いのだよ!!