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2008年03月18日

●「これで良かった」かな ('08ラグビー日本選手権決勝)


日曜の午後は、秩父宮ラグビー場で日本選手権決勝。サントリーサンゴリアス 18-40 三洋電機ワイルドナイツ。国内シーズンの締めくくりとなる大一番は、トップリーグプレーオフ決勝の再戦に。リーグ戦を全勝した三洋電機と、その三洋を撃破してリーグ優勝を飾ったサントリー。まさに現在の日本ラグビー界の頂点を競う対戦である。試合は、リベンジに燃える三洋が終始アグレッシブな姿勢を貫き、快勝で初の日本一に輝いた。


立ち上がり、サントリーがハーフウェー付近でモールを形成した時には、またしても勝負重視の「ファイナルラグビー」が繰り返されるかに思えた。「勝つこと」に徹したサントリーがやはりタイトルを奪うのか、と。だが、今日の試合においては、初タイトルとリーグ戦の復讐に燃える三洋電機の気迫がサントリーの「計算」を上回った。モールを押されながらも何とかもちこたえ、トニー・ブラウンのロングキックで押し戻す。6分には田邉がPGを決めて先制。

ここ最近ラインアウトの劣勢に苦しむ三洋だが、この試合では様々なパターンを駆使してボールを確保、テンポ良い球出しからパス攻撃を挑む。8分、右ラインアウトから長いボールでホラニを走らせて左へ高速展開、田邉が左サイドを突き破ってトライ。コンバージョンも決めて0-10。さらに15分、カウンターの応酬から左展開、霜村がタッチ際を抜けて中へクロスする榎本に、さらに内へ入る三宅へパスが鮮やかにつながってトライ。0-17。猛攻である。

思わぬ一方的な展開に、山下大悟キャプテンの怒声が響いた。「お前ら!このまま負けるのかよ!!」。これで戦う気持ちに火がついたか、そこからはサントリーがモールとパス攻撃を織り交ぜて攻め込む展開に。しかし、三洋のDFは相変わらずのしぶとさを見せる。モールを押しても押しきれず、BKが走ってもあと数mが走れない。加えてメイリングと佐々木の欠場も影響したか、モール以外のFW戦は三洋が優勢でターンオーバーも頻発。

ようやく25分、ニコラスがPGを決めて3-17。34分にはゴール前まで攻め込みながら、FW突進に拘泥して反則で逸機。ところが、ここでなんとブラウンがミスキック。これにつけ込む形でサントリーのカウンターアタック、有賀の大きなゲインから最後はニコラスが転がり込むようにトライ。8-17。さらに終了間際にも、ニコラスがPGをきっちり成功させて11-17。サントリーの地力を考えれば、これで勝負の行方はわからないように思えた。


後半にはいると、ネジを巻き直した三洋が再び攻勢に出る。いきなりパス展開からタイオネ・榎本らの突進でゴール前まで攻め込み、たまらずサントリーはペナルティ。田邉がPGを難なく決めて11-20。三洋は果敢な攻撃姿勢で一気に流れを取り戻したように見えた。微妙に移ろっていた風向きも三洋側に傾き、ブラウンが有賀や菅藤とのキック合戦を制して一気に前進する場面が目につくようになってくる。リーグ戦で見られた力強さが戻ってきた。

白眉だったのは46分からの三洋。右ラインアウトから大きく速い展開、ピッチをまたいでからまた右へ展開、ラックを形成しながらテンポ良くボールを出してさらに左→右→大きく左へ。この揺さぶりにサントリーDFは寸断され、最後はコリニアシが大きなストライドで左中間へ走り込んだ。各アタッカーのボールダウンの技術とつなぎへの執念、ブラウンのパスさばきのキレ、野生の獣のような田中の俊敏なパスアウト。思わず言葉を失う素晴らしい攻撃だった。11-27。

追い詰められたサントリーは選手を入れ替えながら攻撃での打開を図る。しかし、キック戦では完敗、モールもいたずらに時間を食うばかりでなかなか三洋陣に入れない。逆に56分、田邉のPGで三洋が追加点。11-30。そのうち、前半の縦突進連続の反動もあるのか、サントリーFWに疲れが目立ち始める。孤立したBKは無理なパスやキックによる一発勝負に出ることになり、それがまたミスをよんでイライラが募る。もちろん時計は進んでいく。

やっとサントリーが1本返したのは71分になってから。22m付近中央のモールから左展開、細かく速くつないでタッチ際を小野澤が抜け、リターンを受けた平がゴールへ飛び込んだ。18-30。ところが三洋も負けてはおらず、すぐに再反撃。34分、サントリー陣のミスパスを拾って榎本が22m内へ突進、パスを受けたコリニアシが立ちふさがるDFをはねとばし、一気にトライラインを駆け抜けた。18-37。これで「勝負あり」となった。

残りの時間は、意地の一発を返したいサントリーに対して三洋も一歩も引かない攻防となり、結局三洋がPG1本を追加。最後はブラウンに代わって入った入江(リーグ戦のトヨタ戦でブラウンの代役を立派に果たした「全勝」の殊勲者)がホーン直後にタッチへ蹴り出して試合終了。三洋電機、創部48年目にして初の日本一である。

 

三洋電機が勝つべくして勝った試合だった。プレーに表れた気迫、各選手の積極性と技術、チームの意思統一、勝利のための対策と準備。全ての面で三洋は相手を、そして「2月の自分たち」を上回っていたように思う。何より、リーグ戦での快進撃をもたらした果敢さが戻ってきたのが嬉しかった。ブラウンもさすがのプレーぶりだったが、FW陣も健闘したし、CTB2人の奮闘も光った。MVPには田中を推したい。個人的には、今日本で一番優れたSHだと思う。

試合後、バックスタンドで「48年目の悲願」みたいなボード(ゲーフラ?)を掲げているファンがいた。創部48年目での初優勝……大型ビジョンに宮地元監督の姿も映されていたが、まあなんとも歴史的な瞬間だったわけである。三洋電機といえば「7連覇時の神戸製鋼のライバル」「いいところまで行って、必ずツメの甘さでタイトルを逃す」というイメージだったんだけど、これで次の時代に入れるのかな。宮本監督、大泣きしてましたな。

サントリーにしてみれば、全くの完敗である。FW主力2人の欠場は確かに痛かったが、それにしても力が足りなかった印象。おそらく清宮監督もそれはわかっていて、だからこそ前回の「ファイナルラグビー」、ということだったのだろう。試合後は清宮さんも山下キャプテンもむしろ晴れ晴れとした表情だった。監督2年目でリーグを獲って、まだ向上する余地が大いにあるというのはある意味幸福なことかもしれない。もっとやれるよ、このチームと監督は。

まあ、終わってみれば、今年のトップリーグ~日本選手権はなんと面白い展開だったのだろう。実力伯仲のプレーオフ争いがあって、僅差のトーナメント勝負が2回あって、優劣が入れ替わりながら最後は落ち着くところに落ち着いて。来年はちょっと「抜けた」チームが出てくるのではないかと密かに思っているのだが……今から楽しみである。つーか、その前に日本代表のシーズンがあるか。選手もファンも、結局休みがないのな(笑)。


ちなみに、三洋電機のトニー・ブラウンはこの後南アに渡ってスーパー14のストーマーズでプレーするそうである。北半球と南半球のシーズンが逆だからこそできるワザだが……それにしてもラグビーが好きなんだなあ。昔、ディオン・サンダースという選手が夏はMLB(野球)、冬はNFL(アメフト)でプレーしていたけど、あれを「スポーツ二毛作」と呼ぶならば、ブラウンは「フットボール二期作」ということになるか。いつ休むのよ(笑)。
 

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コメント

絶対に勝ちたいという気合満点の三洋のアタックに、ちょっぴり感動しちゃいました。最後になって内容も素晴らしいチームに勝利の女神が微笑んで、本当に一つのドラマのようなシーズンでしたね。
しかし清宮さんのコメントはなんと言うか、子供と言うか…(笑)。

今シーズンは濃かったなぁ。
ひいきのチームがMSカップや日本選手権に出られなくても、そんなこと関係なくいい試合が続いて見所が多かったし。
それにしてもブラウン、鉄人だよなぁ。

>本当に一つのドラマのようなシーズンでしたね。
まったくですね。ホント、「通し」で観ることの楽しさを痛感させられた半年でした。

>しかし清宮さんのコメントはなんと言うか、子供と言うか…(笑)。
まあ、自爆も含めてコメントで存在感を発揮するのがこの人のカラーですから。和製モウリーニョ、っつーとほめすぎか(笑)。

>それにしてもブラウン、鉄人だよなぁ。
普通に考えれば、もうベテランの域に達してるのに体のメンテナンスどうすんのよ?って感じなんだけども。ナチュラル・ボーン・フットボーラーなんだろうね。

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