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2008年02月24日

●「決勝戦」の重みと難しさ ('08ラグビーMS杯決勝)


午後、秩父宮ラグビー場でトップリーグプレーオフ(マイクロソフト杯)決勝を観戦。三洋電機ワイルドナイツ 10-14 サントリーサンゴリアス。いよいよ今季の王者が決まる一戦は、リーグ全勝、準決勝も東芝相手に劇的な逆転勝ちを収めた三洋と、昨季同じ舞台であと一歩届かず東芝に敗れたサントリーの対戦に。試合は大一番にふさわしくロースコアのしのぎ合いとなったが、「勝ちに徹した」サントリーが強力防御で三洋を押さえ込み、見事初優勝。


東京に「春一番」の吹いた翌日だけあって、この日もピッチには終始強い風が吹きつけた。

前半は風上に立った三洋がSOトニー・ブラウンのロングキックを武器に攻め込んでいく形に。いきなり3分、ブラウンのPGが決まって先制。その後もほとんどの時間帯サントリー陣で試合が進んでいく。しかし、三洋はなかなか決定機を作れない。理由はおおむね2つ。まずはラインアウトでの劣勢。サントリーは東芝以上に入念な対策を立ててきたらしく、完全に球筋を読まれた三洋はマイボールをほとんどキープできない。

もう一つ挙げるべきは、サントリーの強力防御である。秋口に見られた脆弱さはどこへやら、ファーストタックラーの鋭い出足と二線防御の粘り強さが三洋に容易な展開を許さない。攻めあぐねる三洋はキックを多用するが、風の強さにブラウンのコントロールも狂い気味で、DG・PGもたて続けに失敗。逆に17分、三洋が自陣深くのラインアウトでミスしたところをNO8竹本が奪い、DFをはねのけながらそのまま走りきってトライ。3-7。

ようやく三洋らしさが見えたのは23分。速い展開から左→右へ大きく振り、防御が伸びたところで今度は左へ方向転換、見事なつなぎからNO8ホラニがDFライン裏へカットイン、FB有賀のタックルをかわしてゴール下へ飛び込んだ。10-7。ところが、その後も三洋が攻めるものの、相変わらずラインアウトがとれず得点に至らない。一方のサントリーはボールを奪うと無理せずモールとFWの縦突進で時間を費やす。3点差のままハーフタイムへ。



後半になると風上に回ったサントリーが俄然優位に。伸びるキック(SOも後半早々に菅藤から野村へチェンジ)に加えてモールでも着実に陣地を稼ぎ、アグレッシブさが身上の三洋を受身へ追い込んでいく。55分を過ぎた頃、有賀がキック捕球からのカウンターで大きく前進し、「いよいよBK攻撃か?!」という雰囲気に。一度は三洋が堅い防御ではね返したものの、ここでついに試合の行方を決定づけるプレーが飛び出す。

60分、サントリーの左ラインアウト。着実なキャッチから右へ大きく展開、と見せかけて、中央の野村が短く速いリターンパス。ラインアウトの陰から躍り出たWTB小野澤が加速しながら受け取り、一気にDFライン裏へ。リーグ2位のトライゲッター相手に虚を突かれたDFはなすすべがなく、小野澤はスラロームを描くように数十mを走りきってトライ。それまでFW中心の攻めに偏っていただけに、単純だが効果的で、実に鮮やかな「一撃」だった。10-14。

こうなると風下の三洋は苦しい。ブラウンのキックの威力も限定され、ラインアウトも全くとれないまま。それでも、再びモールに偏るサントリーの攻勢をギリギリでしのぎ、パス攻撃でサントリーDFをじりじり後退させるのはさすがではあった。70分頃にはサントリー陣中央のラックからSH田中がサイドアタック、きれいに抜けて22m内へ入るも、有賀のタックルに止められ、さらにラックを有賀の鋭い出足に粉砕(!)されてチャンスを逃す。

終盤、サントリーは疲れた三洋DFをモールでゆっくりと押し下げて時間を使う。三洋は左右へ揺さぶって活路を開きたいところだが、気合空回り気味のブラウンやタイオネが中央で捕まってしまう場面が多く、WTB北川を走らせるチャンスはほとんどなし。78分、ようやくテンポよくパスが回って「外だ!」という場面もWTB吉田がノックオン……これで勝負あった。最後は中央のモールからボールを持ち出したSH田原がタッチへ蹴り出してノーサイド。



三洋電機の側に立ってみれば、なんともやるせない敗戦である。元々の長所である爆発的な攻撃力とブラウンのゲームコントロール力に今季は守備の堅固さが加わり、リーグ戦からプレーオフ準決勝まで実に14連勝。それが、たった一度の敗戦で「リーグ2位」に終わってしまうのだからなんとも……「1リーグ制」で一度順位がついたのをひっくり返された分、先日スーパーボウルで敗れたペイトリオッツよりもさらに気の毒に思えた。

まあ、見方を変えれば、先週の準決勝を観た時も思ったことだが、やはりリーグ戦の「13分の1」と一発勝負のプレーオフでは様々な面で大きな違いがあるということなのかもしれない。三洋の出来がいつもに比べて特に悪いとは思えなかった。ただ、普段以上の周到さと集中力を求められる「大一番」において、特にサントリーのような相手に対して、「いつも以上」を出せなかったのも確かなのだろう。難しいね……。

一方、勝ったサントリーにしてみれば、昨年優勝目前にして東芝に惜敗した経験を生かし切った試合だったのではなかろうか。それは、理想のラグビーはとりあえず棚に上げてモールを多用し「勝つこと」に徹した戦いぶりや、僅差にも慌てることなくきっちりとゲームをまとめた選手たちのメンタル的な成長に表れていたように思う。ある意味、今年のサントリーと三洋の力関係は、昨年の東芝とサントリーのそれに重ねられるのかもしれない。

サントリーはこれでトップリーグ初優勝。それほど大補強をしたわけでもないのに昨年グンと強くなって、今年は色々ありながらも最後は下馬評通りの優勝。清宮氏が優れた監督であるのはもはや誰の目にも明らかだろう。今日の試合後は、さすがの彼も目に涙を浮かべていたようだ。個人的には、あくまで憎たらしく「まあ、想定通りです」くらいかましてほしかったのだが(と思ってたら、記者会見ではホントにかましやがった。オイ(笑))。

まあ、これで一度勝ったんだから、次は理想も目指してくれるよね、清宮さん。


試合終了の笛が鳴った後、サントリーの選手やスタッフは飛び上がり、抱き合って喜びを爆発させた。一方、三洋の選手たちはその脇でうなだれていたのだが、やがてサントリーを祝福しようと列になる。すると、それに気づいたキャプテンの山下が喜びに沸く選手たちに声をかけ、サントリーも一旦浮かれ騒ぎを中断して並び、黄色と赤の列が握手を介し交差していった。なんつーか、「ラグビーっていいな、キャプテンっていいな」と思える光景であった。


さて。これで半年間に渡ったトップリーグも終幕し、日本選手権での三洋・トヨタ・東芝のリベンジも楽しみではあるけれど、そろそろラグビーの国内シーズンは終わりに近づいてきた。「フットボール二毛作」の民としては、3月8日のJリーグ開幕に向けて徐々に頭の中を「もう一つのフットボール」へと切り替えて行かなければならない……と思っていたのだが、結局4月~7月もジャパンの試合は続いていくんだよな。耕作地が足りない、耕作地が(笑)。
 

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コメント

いやぁ~、やっぱり三洋電機は勝てなかったですね…。良いラグビーでも結果に繋がらない寂しさ、難しさを痛感しました。
サントリーが勝負強く感じるとは…何とも複雑でした。

サントリーはがっちり対策立てて来ましたね。
三洋寄りで見ていた側としては、風上に立った前半で3点しかリードできない時点で嫌な予感はしていたんですが。

にしてもマルチスポーツファンはシーズンオフとは無縁ですねー・・・w

>良いラグビーでも結果に繋がらない寂しさ、難しさ
本文中からリンクを張りましたが、清宮監督も試合後の会見で「やりたいラグビーと勝つためのラグビーは別物」みたいなことを言っていたようですね。確かにそうなんだけどな……最後だけ勝てなかったけれど、三洋のラグビーは三洋のラグビーで認めなければならないと、個人的には思ってます。

>風上に立った前半で3点しかリードできない時点で嫌な予感
私も同じようにというか、「この試合、もしかしたらサントリーの圧勝になるかも」くらいまで思ってました。逆に言えば、後半も小野澤の1トライだけに抑えた三洋のDFも大したものだな、と。日本選手権でもう一度当たれば(三洋がトヨタに勝てれば)、まだ分からないですよね。

>にしてもマルチスポーツファンはシーズンオフとは無縁ですねー・・・w
なにしろ「二毛作」ですから(笑)。もしくは「スポーツおたくに休日はない」(by柳下毅一郎)。

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