●『チビルダ ミチルダ』
夜、吾妻橋のアサヒ・アートスクエアで『チビルダ ミチルダ』。この時期恒例となっていたコンテンポラリーダンス中心のパフォーマー・イベント「吾妻橋ダンスクロッシング(ADX)」がモロモロの事情により今年はなし(別時期に「HARAJUKU PERFORMANCE +」が行われた)ということで、代わりに(?)康本雅子さんの単独公演である。経緯はどうであれ、「ADX」では数分だけだった康本さんの踊りが目の前でたっぷりと観られるのは、ファンとしては大変にウレシイ。
うっかり開場の1時間も前に着いてしまったため、しばし雷門近辺を散策。あいにくの雨模様だけに仲見世もガラガラの様子だった。東武浅草駅前の回転寿司屋で軽く夕食をとってから、アートスクエアの入っている「アサヒスーパードライホール」へ。下品な話だが、昔、ここのビルの上に乗っている黄色い物体を見て「ウ○コビル」とか呼んでる人がいたよなあ(川崎フロンターレは同様の理由で……いや、クラシコ敗者の身では何も書けません(笑))。
19時半に始まった肝心の公演は、期待通りの素晴らしさ。予定時刻になっても始まらず、特に合図もないので「あれ?」と思ってたら、いきなり康本さんがトナカイのオモチャを引いて歩いてきたのには意表を突かれた。で、静寂の数分間が過ぎ去って、テンポの良いBGMが鳴り始めてからはもう一気の70分。しなやかな手足の動き、キレのあるステップ、虫の動作、絡み合う男女、キ○ガイ的な奇声、狐ときつね……濃ゆい康本ワールドを存分に堪能。
単独公演といっても今回はソロではなく、康本さんが振付をして彼女と5人のダンサーでステージを作る形。とはいえ、あくまで中心は康本さんで、他のダンサーもいかにも康本的な動きをし続けるため、印象としては「共演」というより「増殖」(笑)。6人が一斉に転がって痙攣する場面などは「相当キテるなこりゃ」という感じである。「笑い寸前」と「どん引き寸前」の瀬戸際を行き来するのが康本流だが、いつも以上の際どさに思わずニンマリとしてしまった。
僕はこの手のステージをたくさん観ているわけではないのであまり偉そうな事は書けないけれど、少ない経験の中でいえば(特に今回のように周りに比較対象があると)康本さんの踊りの魅力は突出している。BGMのセンスの良さ、動きのキレと独創性、そして理想的なプロポーションに加え、ふっと静止した瞬間に見せる横顔の美しさがなんとも。公演のクライマックス、ちゃぶ台の前に躍り出た瞬間の凛とした表情なんて「参りました」という感じである。
絶賛ばかりでも気持ち悪いので(笑)あえて付け加えるならば、同会場で行われていた「ADX」の多様性豊かな有り様なんかと比べると、どうしても一本調子に見えてしまうところはあったかも(単独公演だから当たり前っちゃ当たり前か)。あと、共演のダンサーたちと康本さんとでは踊り自体のスキルだけでなく、表現力にもかなり差というか物足りない部分があったかな、と。まあ、入場料たったの3500円でそこまで求めちゃあいかんよな。
ともかく、僕にとっては大満足の70分間だった。今年の秋には「吾妻橋ダンスクロッシング」も本来の形で一応復活する予定で、その他に単独公演シリーズ第2弾として『ボクデス(小浜正寛)ショー』もラインナップにあるとか。ボクデスも芸達者なパフォーマーだから、さぞかし笑えてシビれる舞台になることだろう。非常に楽しみである。