●「イザベル・ユペール展」
先日、写美で「キュレーターズ・チョイス」展のついでに見た「イザベル・ユペール展」。「フランスを代表する女優、イザベル・ユペールだけを被写体に、世界的に活躍する72人の写真家が撮影したポートレート」(チラシより)を集めた展覧会。これが、意外に(と言っては失礼だが)面白かった。
ユペール自身は既に50歳を過ぎており、正直なところ20年前は確かに美しいけれど最近の写真はちょっと…という感じ。なのだけれど、しかし「イザベル・ユペール」という1つの題材を扱う様々な写真家の作品を同列に並べることで、その写真家たちの作家性・特徴の違いをはっきりと見て取ることができる。そこが、僕のようなニワカ写真好きにとっては楽しいのである。
例えば、杉本博司はスクリーンが白く光って「時間の止まった」劇場に座るユペールの姿を、ナン・ゴールディンは華麗な外出時と裏腹に自室で孤独と老いに襲われるユペールの姿を、ギィ・ブルダンはスタイリッシュな構図の中で人格を埋没させるユペールの姿を、ロベール・ドアノーは街路や酒場で生き生きと振る舞うユペールを写している。なるほどその作家なりの視点が出てるわなあ、という感じ。
僕が特に気に入ったのは、ロベール・ドアノーの1枚。カフェでカウンターに座ってじっとマスターを見つめる若き日の美しいユペール。彼女の視線を受けたマスター(スケベそう)はやや伏し目がちに彼女にワインを注いであげていて、周りの客の視線も彼女に釘付け……あのワインは絶対タダ酒だな(笑)。つーか、僕があの場にいても絶対に奢っちゃうね、というくらいこの写真の彼女は魅力的だ。
あと、アンヌ=マリー・ミエヴィルが写した短髪のユペールの写真(クレジットによれば1981年の作品)があったけど、おそらく『パッション』撮影中の写真なんだろう。あの映画の彼女もすげーきれいだったよね。いや、上に「最近の写真はちょっと…」なんて事を書いちゃったけど、それはあくまで僕が今の若造の目で見ているからで、当時同じくらいの年齢であったら、たまらなく素敵に感じたんだろうな、と思う。
これらの展示作品は、何か1つの企画、あるいは1人の人物の手引きに従って撮られたものではない。魅力的な被写体がいて、卓越した技量を持つ作家たちが彼女に引き寄せられて色々な時と場所で多くの作品を残し、それを後から集めた結果としての展覧会が今こうしてパリ・ベルリン・マドリード・東京と巡回している。その事実だけでも、上手く言えないが「何だかすげえなあ」と思ってしまう。大女優なんだなあ、と。