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2006年07月07日

●「キュレーターズ・チョイス」


先日、写真美術館で見た「キュレーターズ・チョイス」展。写美の館長・学芸員ら専門スタッフが、数万点に上る美術館コレクションの中から思い思いの観点で「セレクトした」作品群を展示。おそらく日本では他に類を見ないユニークな展覧会だが、これが非常に面白かった。

よく映画雑誌とかである「○○年私のベスト10」という類の企画。あれの楽しさは、「皆はどんな映画を好むか」という統計的な情報にあるのではなく、複数の選者が異なるチョイスをすることによって、多様なものの見方、さらには「こんなものもあるのか」というマイナーな知を得られるところにある(逆に、アンケートの多数決で順位づけられたベスト10の何とつまらないことよ)。今回の展覧会の魅力も、まさに同じである。

ある人は自分が研究してきた作家の作品を、ある人は世界最古のカラー写真等の貴重な素材たちを、ある人はマルセル・デュシャンら「キテルオヤジたち」の写真を、ある人は終戦後のヤミ市を、ある学芸員はシュルレアリズム写真を、ある人は失われたピグメント印画法の写真を、ある人は30年代のモダン都市をテーマにした作品を、ある人は車の写った写真ばかりを、そしてある人は自分の人生に影響を与えた組写真を並べている。

特定のテーマの展覧会でこれほど多くのジャンルが揃うことはないであろうし、いわゆる常設展でこれほど体系だっていない展示が行われることもないだろう。これらの作品に存在する共通性といえば、「写美のコレクションである」「写美の専門スタッフがセレクトした」という2点だけなのである。そこが面白い。出かけた先で、デパートやスーパーではなく、見知らぬ商店街や市場をのぞいた時のワクワク感、とでも言おうか。

昨年、写美では10周年記念展として「写真はものの見方をどのように変えてきたか」というシリーズ展が行われた。これは、写美のコレクションのみで1世紀半にわたる写真の歴史を再現してしまおうという野心的な試みで、相当に質の高い(特に第2部は)ものであった。しかし、「すげー」と感心はさせられるものの、ちょっと概括的に過ぎるところがあったのも確かだ。ダイジェストゆえに深みを欠くというか。

でも、今回の展覧会は、複数人が「好き勝手に」選ぶことで、逆に膨大なコレクションをふんだんに生かしている感じがするのである。展示作品の横にはセレクターの名前も明記してあるくらいだから、そりゃ「思いが入ってる」って感じがするわな。もちろん、他の展覧会もちゃんと学芸員が意図や思いを込めてキューレーションしているんだろうけど、僕みたいな素人だとなかなかそこまで思いが至らないし、実際学芸員の名前って明示されてるのを見たことがない。

とにかく、なんちゅーか、「お高くとまっている」と見られがちな(意外とそうでもないんだけどね)公立美術館にあって、こういうわかりやすい「人の顔が見える」展覧会が行われるのは画期的だし、個人的にはとても良いことだと思う。HPで金子隆一さんが語っているように、今後、他の展覧会を見るときも「これは誰がキューレーションしているのだろう?」と気になるよね、少なくとも写美については。

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