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2006年07月11日

●いやはやなんとも…唖然、であった ('06W杯決勝後編)

前編から続く)


延長戦に入ると、フランスの攻勢に拍車がかかった。イタリアは相変わらず前にボールの収まりどころがないために攻撃の形が作れず、頼みのピルロも運動量とパスの成功率が激減。ガットゥーゾは健闘していたものの、両SBやデル・ピエーロがタッチライン際で孤立して潰される姿が目立つ。ほとんどハーフコートマッチの様相。フランスは右に左にパスを回し、仕留めるタイミングを測る。

5分、マルーダがドリブルで左から中へ切れ込んでカンナバーロを抜き去るが、ガットゥーゾ炎のカバーリングで防ぐ(両手を挙げて滑り込んだガッツさん、ちょっとグリコみたいな格好になってた(笑))。13分には中央のジダンから右に展開、サニョルのクロスにジダンが飛び込んでドンピシャのヘディングシュートを枠に飛ばすも、ブッフォン片手一本でセーブ!さすがに、両チームとも動きは重い。

そして延長後半、信じがたい「事件」が発生。アンリ→ヴィルトールの交代が行われた直後の3分、突然プレーが止まり、マテラッツィが倒れている後ろでブッフォンが何事かアピール。ちょっと間をおいて、画面にはジダンがマテラッツィの胸に頭突きしている場面が映し出された。唖然とした。ジダンの瞬間湯沸器ぶりは有名だしいくらマテラッツィの挑発があったとはいえ、今日はW杯決勝、しかもジダン自身の引退試合だぜ…。

最初は審判団も事態を把握していない様子で、頭の中には「これで最後までジダンを見られるか?」「いや、あの行為を見逃してもしフランスが勝ったら、それこそ…」と色々な思いがよぎった。しかし、主審は第4の審判に確認し、やはりジダンにレッドカードを提示。うーむ。目を赤く腫らして優勝カップの脇を去っていくジダンの姿はあまりにも悲しかった(そして、皮肉っぽく拍手をし、「およしなさいって!」ポーズをするドメネクの姿はかなり間抜けだった)。

スタンドから激しいブーイングが降り注ぐ中、試合再開。だが、イタリアにはもはや数的優位を生かすだけの余力は全くなく、むしろフランスが攻め続けるのだけれど、アンリとジダンを欠く状態ではイタリアDFを崩しきるのは難しい。ぎこちない攻防が10分あまり続き、弱々しい終了のホイッスルが鳴ってPK戦突入が決まった。味方を励ますブッフォン、集中するバルテズ。8年前には、同じ組合せ(確か準々決勝だった)でフランスが勝っているが…。


PK戦。明暗が分かれたのは、ピルロとヴィルトールがともに決めた後の2本目。トレセゲの失敗はもちろんだが、マテラッツィの成功も大きかった。バルテズは完全に読んで左に飛んだのだけれど、マテラッツィのキックはその指先を抜けてゴールに突き刺さる。3人目以降の余裕ぶりを見ると、あの成功でイタリア側は「読まれてもコースさえ狙えば大丈夫」という自信を得たのだと思う。逆に、トレセゲは、ブッフォンの逆を突いたのに枠に飛ばすことができなかった。

3本目以降は、ブッフォンが逆をとられ続け(フランスはよほど研究していたのか)、フランスはアビダル・サニョルと連続成功。しかし、イタリアも失敗しない。デ・ロッシが決め、デル・ピエーロが決め、そして5人目はグロッソ。「すごい人選だ…」と唸らされたが、さすがリッピとも言えるだろうか。グロッソは思い切り右上隅に蹴り込んで、イタリアの優勝が決まった。走り回るブルーのユニフォーム。うなだれ、突っ伏すトリコロール。最後は、やはりW杯らしい終幕となった。


フランスにとっては、とても悲しい結末だった。ジダンの退場はさておくとしても、試合の大半で優勢だったのはフランスの方。イタリアがほとんど決定機をつかめなかったのに対して、フランスはアンリとマルーダのサイド突破にジダンのヘッダーと、いくつもの好機があった。堅守ぶりもさすがだったが…結果的には、やはり延長前半までに仕留めるべきだったのだろう。ヴィエラの退場も不運。さらに、トレセゲは、前回大会に続いてまたバーに嫌われて…。

そして、衝撃だったのはやはりジダンの「ヘディング」。VTRで確認する限り、ジダンは何の前触れもなく突然ぶち切れたように見える(マテラッツィは一体何を言ったのだろう?)。したり顔で「愚かだね」と切り捨てたくはない。でも、「過ち」なのは確かであり、極めて残念な事件であったのも間違いない。レッドカードが出された瞬間、横にいたガットゥーゾのこわばった表情。涙ぐむジダンの頬に手をやり、懸命に慰めるブッフォンの姿。忘れられない光景である。


イタリアの側では、とにかくマテラッツィが目立ちまくり。先制のPKを献上(しかも誤審)、あわやオウンゴールのクリアを飛ばし、目を見張る鮮やかなヘディングで同点ゴールをゲットし、挑発でジダンを退場に追い込み、そしてPK戦では見事と言うしかないシュートを決めた。「マッチポンプとはこの事か」と感心したよ(笑)。まあ、ジダンの一件についてはおそらく彼のやり過ぎだろうから、フランスには2度と入国しないのが身のためだな。

イタリアはスペイン大会以来24年ぶりの優勝。しかも決勝では、イタリア大会・アメリカ大会・フランス大会と苦杯を重ねていたPK戦を克服しての勝利である。試合後の選手たち(そしてリッピまで!)の子供のようなはしゃぎようも頷けるというもの。会場がブーイングに包まれていたのは残念だったが…でも、「憎まれっ子世にはばかる」状態こそがイタリアらしいような気もするので、これはこれでオッケーだろう。

今回のチームは、とにかく駒が揃っていてバランスが良かった。トッティやトーニらアタッカーは期待ほどではなかったけれど、ブッフォン・カンナバーロ・ガットゥーゾと守備の達人が揃ったセンターラインと、ダイナミックさ・巧みさを両立させたザンブロッタ・グロッソの両サイドは最高だった。もちろんリッピの手腕もお見事の一言に尽きる。個人的にもずっと応援してきた国だけにとても嬉しい。よかった、と思う。おめでとう!!


ともかく、これで1ヶ月間続いたお祭り騒ぎも一段落である。寝不足は体にこたえ、すっかり仕事もたまってしまった(笑)。J1再開まで1週間余り、とにかく今は休みたい……あ、でも、そろそろ「東すか」やらなきゃ……。

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コメント

優勝の瞬間はイタリアンの友達とパブで大騒ぎをしました。PK戦の一本目、ピルロは成功したもののど真ん中に蹴っていたので、そのうち誰かがバルテスに止められるんじゃないかなあと不安になりました。二本目のマテラッツィが他の選手に自信を与えたのだろうという murataさんの説明は、なるほどなあと思います。

そして、皮肉っぽく拍手をし、「およしなさいって!」ポーズをするドメネクの姿はかなり間抜けだった

私は勝手に「冗談じゃないザマス!」と吹替えて見てましたが、確かに「およしなさいって!」の方がピッタリですね。
イングランドでは準々決勝で敗退した後から、メディアは悔しさの余り「ポルトガルは汚ないチーム」と八つ当りを始めました。今のマテラッツィ叩きも似たようなものだと思いますが。フランス対ポルトガル戦終了後に、TV中継はポルトガルの選手がダイヴしたり主審に理不尽な文句を言っている場面を次々と流しました。その度に、イングランド・ファンの気持ちを代弁するかのように、ドメネクが「いい加減にするザマス」とやっている様子もいちいち映していて面白かったです。

「ザマス!」ってのもいいな(笑)。
ドメネクって、どうしても見た目からそういうキャラに思えちゃうんですよねえ。

やっぱりイングランドではポルトガルみたいなチームは受け入れられないんでしょうね。負けて悔しいのに加えて、フットボールの性質として、生理的に。

今回は、「反ポルトガル」の一点で英仏同盟結成ですか(笑)。まあ、でも、フランスはともかく、イングランドはPK戦の戦いぶり自体がちょっとアレだったので、まず己を省みないといけないかも。

ドメネクって、どうしても見た目からそういうキャラに思えちゃうんですよねえ。
もし『W杯 珍プレー好プレー集』(ナレーターみのもんた)なんて番組が作られたら、ああいう口調で吹き替えられちゃうのが、容易に想像できますね(笑)。
ガーディアン紙の解説陣による W杯総括には「クスティアーノ・ロナウドの功績は、イングランド・ファンに初めてドイツとフランスをためらうことなく応援する機会を与えてくれたことだ」なんて皮肉を書かれてます。 スポーツチャンネルにも「スコラーリがイングランドの次期監督にならなくて良かった。我々の代表まで将来あんな汚ないプレーをするぐらいなら」という投書がありました。スコラーリの指揮するイングランドって見てみたいですけど。。。

>スコラーリの指揮するイングランドって見てみたいですけど。。。
頑健さにクレバーさが加わってムチャクチャ強くなるか、それとも際限なく汚くなるか(笑)。

イングランドも、「いかにも紳士」な監督ではちょっと殻を破れないような気もしますね。ジョゼさんあたりに頼んでみればいいのに、マジで。