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2015年04月24日

●『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』

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先日、DVDで『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』を観た。レンブラント『夜警』やフェルメール『牛乳を注ぐ女』など世界的名作の数々で知られるアムステルダム国立美術館の大規模改修(の挫折)の模様を描いたウケ・ホーンダイク監督のドキュメンタリー映画。2013年に同美術館が実に10年ぶりに開館し、昨年本作の続編が公開されたことも話題になった。


2004年に始まったアムステルダム国立美術館の改修。野心的な館長と優秀な学芸員たち、意欲的な建築家の下で工事は順調に進むと思いきや、トラブルに次ぐトラブルにみまわれる。コンペによるデザインは市民団体に噛みつかれ、設計が終わった後で許認可を持つ行政にケチをつけられ、展示計画はなかなか決まらず、館長や主要メンバーはしびれを切らして辞めていき、そして入札の不調……。

なんというか、美術館に関わる仕事をしている者にとっては身につまされるというか、「あるある!」の連続(笑)であった。そうなんだよ、改修って本当に難しいし、文化施設ってのは色んな人が口を出したがるんだよなあ、みたいな。

僕自身、「そもそもミュージアムという存在は進歩的な市民社会や高度化した行政機構にはなじまない部分もあるのではないか」と思うことがある。ミュージアムには様々な人が強い思いを持っている一方で「なくても人が死ぬ訳じゃない」なんて言われることもあるし、そもそもミュージアムが扱う「美」というのは主観によるところが大きいから、その質や価値についての合意が難しいし。

それだけに、この映画に出てくる美術館関係者の苦悩は胸に刺さるものがあった。世界に冠たる国立美術館がサイクリスト協会みたいなある種の市民運動に難癖つけられたら「やってられん!」と思うのも無理はない。「新しい価値や機能を加えろ」みたいな要求に斬新な建築案で応えたのに「建物の歴史的な価値にそぐわない」として却下されたらそりゃ頭に来るだろう。気持ちはよくわかる。

ただ、まあ当然ながら、公立施設である限りそういう人々も含めた市民社会のために運営されているものでもあるわけで……難しい、というかホント如何ともし難いところはあるよな、と思う。

嬉しかったのは、普段なかなか見る機会のない外国の一流美術館の運営の裏側が見られたこと。収蔵庫の規模なんかには目を見張らされたし、世界的名画の修復の様子も興味深い。加えて、美術館自体やその収蔵品はもちろん、そこで働く館長や学芸員たちの社会的な地位の高さも垣間見えて印象的だった。なんだかんだで日本の美術館に比べればずっとマシなんだなあ、なんて思ったり。

映画の中で出てくる人物たちがけっこう露骨に互いを批判したり、インタビューに対して「それ言っていいんかいな」という答え方をしたり、あのあたりのオープンさというかあからさまさというのは情報公開当たり前のヨーロッパ先進国ゆえなのかな。

あと、リニューアルオープンに向けた目玉作品の一つが日本の金剛力士像なのもなかなか楽しかった。館長が像を絶賛する物言いは日本人から見たら「ほー、そう見えるのか」という感じだし、像が到着した時の担当学芸員の嬉しそうというかウットリした表情がまた面白い。言われてみれば確かに仏像ってすごい表現力なんだよね。ただし、結局劇中では最後まで展示されないままだけど(笑)。


という感じで、とても見応えのある映画だったんだけど、そうこうしているうちにあれよあれよと工事が延びて行き、ついに工事が終わらないまま突然映画も終わってしまう。うーむ……。この何とも言えない虚しい中途半端感と、だからこそ感じる登場人物たちへの共感がこの作品のキモなんだとは思うのだが……それにしてもすごい話だ。何しろ結果的に10年間開かなかったんだもんね。10年。

日本でもこういう改修の裏側を描く映画を作ったら面白いのではないか(『ようこそ、東京都美術館へ』とか(笑))と一瞬思ったのだけれど、どう考えてもこれほどあけすけなドキュメンタリーにはならないだろうから、やっぱ駄目かな。


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