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2013年12月30日

●今年はこれで終わり、だけど

FC東京 0−0(延長0−0、PK4-5) サンフレッチェ広島 ('13-'14天皇杯準決勝)


なんというか、先週の準々決勝とは全く逆の立場になってしまった。こんなこともあるのだから、サッカーというのは(第三者にとっては)面白くて、(当事者にとっては)おそろしい。
 
 
この日の東京は森重・チャンに加えて加賀が先発。両SBと合わせて5人でDFラインを形成し、渡邉千真1トップの形で臨んだ。相手の布陣と同じフォーメーションをぶつける「ミラーゲーム」だが、今回の布陣について言えば、佐藤寿人らが鋭い動き出しで守備網の隙間を狙う広島の攻撃に対し、最終ラインを「締めきる」ことが主眼のように思えた。寿人封じ、と言ってもいいかもしれない。

東京の作戦は奏効した。広島は寿人や石原・高萩が入るスペースを見つけられず、パスを出しあぐねる姿が目立つ。ならばとミキッチが右サイドからクロスを入れても、数的優位を保つ東京DFがはね返す。そのうち太田の粘り強いマークが効いてミキッチの突破の頻度も減っていった。35分、青山の巧みなフィードパスを寿人が落とし、ファンがボックス内で狙うが、カバーの徳永がブロック。

一方で、東京はアタッカーがいつもより1枚少ない形となり、ボールを奪っても広島の激しい寄せにあってなかなかチャンスに至らない。ただ、これはポポヴィッチ監督にしてみれば覚悟の上、膠着気味のままスコアレスでの折り返しは「よしよし」という感じだったのではなかろうか。

後半に入るとさすがに攻防は激しさを増す。東京は前半にも見られたマイボール時に3バックのうち1人が攻撃参加する形が一層明確となり、対する広島はアタッカーへの思いきった楔パスからワンタッチパスをつなげて突破を図ろうとする。だが、双方とも守備陣が集中力を切らさずよく守り、特にこの日当たっていた加賀は鋭いスライディングタックルを連発して、決定的なシュートを許さない。

59分、ボックス手前のFKで高萩がドライブのかかったシュートを撃つが、塩田が横っ跳びで好セーブ。直後の波状攻撃で撃った塩谷のシュートも塩田がセーブ。63分、森重のロングフィードを青山がそらし、拾った千真がボックスへ突入するが、シュートは西川が顔面でブロックした。65分には左サイド攻撃から逆サイドに抜けたボールを徳永がシュートするも、わずか右に外れてゴールならず。

終盤になると中盤にスペースが空き始めるが、形勢がそれなりに均衡していたのと、延長戦も意識したのだろう、両ベンチともなかなか動かない。82分、塩田が寿人にボールをかっさらわれるが、ミキッチのシュートは正面を突いた。86分、ようやく寿人が野津田に交代し、東京も千真OUTで石川IN。終了間際には東京が押し込む場面もあったが石川のシュートは外れ、0-0のまま長い笛が鳴った。

延長に入ると、体力的な厳しさもあり、両チームとも再び慎重さが前面に出て我慢比べの展開に。東京は東に替えて林を投入するが前線で孤立気味、広島はトップに上がった石原が裏を狙うが東京DFも綻びを見せない。104分、太田の速いクロスに飛び込んだ林がボックス内で粘るも、DFに囲まれてシュートは撃てず。

105分、森重のパスカットからアーリア→森重→林とテンポ良くつないでアーリアがゴール前へ飛び出すが、すんでの所で塩谷がカット。その後、東京は高萩・ファンも退いた広島相手に攻勢をかける。112分には高橋OUTで三田IN、そして終了間際にはその三田のスルーパスで石川がボックス内へ。しかし、至近距離のシュートは西川が鋭い反応で弾き出した。東京にしてみればここで決めたかったが……勝負はPK戦へ。

先攻の東京が太田、森重、チャンと順調に決めたのに対し、広島は1人目の青山と3人目の千葉が失敗。早くもリーチの状況に、東京ファンの「行ける」という期待が高まった。ところが、東京の4人目三田の強烈なシュートを西川が横っ跳びでセーブ。広島の4人目はその西川があっさりと決め、東京5人目、アーリアのシュートはやや当たりが弱く、西川がきっちりと止めてサドンデスに突入した。

6人目、東京は米本が迷いのない弾丸シュートを左隅に突き刺して先取。またしても広島は追い込まれたが、浅野がしぶとく決めて同点とする。7人目、石川のシュートをまたまた西川が横っ跳びで防いでついに広島が逆リーチをかける状態に。そして広島の7人目。野津田のシュートは塩田の逆を突き、ゴール右隅に吸い込まれて広島の勝ち抜きが決まった。FC東京、天皇杯決勝進出ならず。
 
 
先週とは逆の立場で目の当たりにすることになった「まさか」の展開。やっぱり負ける側に回ってみると面白いなんて言ってられないよなあ、という(笑)。

いつも通りのサッカーをしてきた広島に対して、東京が対策を講じて広島の持ち味を封じ込めにかかる展開。結局120分間スコアレスだったわけだけど、思い通りに試合を運べたのは東京の方だったろう。広島の攻撃を完封し、幾つか決定機を作ったのだから。延長戦でアーリアか石川のシュートが決まっていたら、あるいはPK戦で勝っていたら、ポポさんとしてはしてやったりだったはずだ。

試合後の監督コメントからもうかがえるように、こうしたやり方はチームとして2年間目指してきたサッカーとは大きく異なるものだ。だが、今回、一発勝負のカップ戦でリーグ王者を相手にする状況において「負けない戦い」という選択は、唯一の手段ではないにしても「あり」だと僕は思う。監督はよく決断し、選手たちはよくそれを実行してくれた。

塩田は相変わらず(1つのポカを除いて)安定感のあるセービングで、急造3バックもよく機能して広島FWに仕事をさせなかった。ボランチやSBは最後まで走り続け、千真や東、アーリアは孤立しがちな中でよくシュートまで持っていった。石川や三田も持ち味を発揮し、ヒーローになりかけた。PK戦でも枠を外したキックは1つもなかった。ホント、あと一歩のところだったのだが……悔しいなあ。

ただ、たとえ結果が出なかったとしても、こういう結果を求めるがゆえのチャレンジというのはファンとして歓迎したいし、この日の東京の戦いぶりを僕は誇りに思う。きっとこの経験は来年以降につながるだろう。試合後、がっくりと肩を落とし、笑顔のポポヴィッチ監督に抱きかかえられて励まされる三田の姿を見てそう思った。この悔しさは、来年にタイトルを獲ることで晴らそうぜ。

しかし、それにしても西川は凄かったな。終了間際の石川の強烈なシュートをはね返したプレーも見事だったけど、PK戦の4人目以降は鉄壁の守り。三田のシュートなんて、背水のプレッシャーの中で止めるかねあれを。しかもその直後自らキッカーとしてあっさり決めて、東京側に傾いていた流れを一気に変えてしまった。ちょっと、国内では並ぶもののない領域に入りつつあるのかもしれない。

いずれにせよ、これで東京の2013年シーズンは終了。監督が替わることも決まっていてこのオフは結構大きな区切りになるかもしれないと思うけれども、それはまあ先の話。とりあえずお疲れさまでした。天皇杯決勝は広島が勝つことを祈りつつ、今年はこれでオシマイ、ということで。
 

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