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2013年12月24日

●勝負は下駄を履くまでわからない、てか

ベガルタ仙台 1−1(延長0−1) FC東京 ('13-'14天皇杯準々決勝)


月並みな言い方で恐縮だが、「こんなこともあるのか」という展開のゲームだった。サッカーの怖さと面白さを改めて痛感させられる試合だった。
 
 
立ち上がりから優勢に試合を進めたのはベガルタだった。開始直後の3分に激しい球際の寄せから怒濤の波状攻撃で東京DFを棒立ちにさせ、ウィルソンのボレーが決まって1-0。対する東京は仙台の勤勉なプレスにビルドアップを寸断されて前線で千真とネマが孤立する形が多く、ならばと太田の攻撃参加から左サイドを切り崩そうとするも、いい形になりかけながらシュートを枠に飛ばせない。

そんな流れで、組織守備からの手数をかけない攻撃でチャンスを作る仙台が主導権を握ったまま試合が進んでいった。前半、ロングボールで梁と赤嶺が抜け出した2つの決定機。そのいずれかのシュートが塩田を抜いて決まっていたら、試合はより一方的な展開となったのではなかろうか。東京にとっては全く幸運な逸機だった。

後半になっても仙台ペースは変わらない。というより東京はますます中盤でつなげなくなり、頼みの太田も次第に封じられて手詰まりの状態に。時計は淡々と進んでいく。たまに東がSBとCBの間を突く動きを見せるが、味方と全く連動せずにパスを戻さざるを得ない場面が続く。一方の仙台はカウンターから幾度か決定機を迎えるが、シュートミスとオフサイドでいずれも得点はならず。

追い込まれた東京は石川、平山、林と投入。フレッシュなアタッカーが入ったことでようやく攻撃に勢いが出始めるが、仙台DFを崩すには至らない。気がつけば時計は90分を回ってロスタイム。東京はなりふり構っていられずまるで子供のサッカーのように前へ前へと蹴り込んでいくが、あっさりはね返されて後退、の繰り返し。選手の必死さは伝われど、敗北は必至に思えたのだが……。

全てを変えたのは、太田宏介の一蹴りだった。

追加タイムも2分を回ってから、仙台陣のペナルティボックス手前で林が粘ってFK。もはやラストプレーとも思えたこのチャンス、太田が左足で蹴り抜いたボールは両チームの選手たちが作る壁をギリギリ越えて美しい弧を描きながら右隅に飛び、GK林の横っ跳びもわずかに届かずゴールイン。これ以上ない見せ場で、完璧としか言いようのない一撃。沸き立つ青赤のスタンド。

こうなると東京は強い。それまでの劣勢はどこへやら、延長戦ではほぼ互角の攻防となった。双方ともチャンスを作るも、松下と中原が枠へ飛ばしたシュートは塩田が腕一本でファインセーブし、太田のFKに森重が合わせたヘディングシュートは惜しくも左ポストに当たって決まらず。

決着が着いたのは延長後半のロスタイムだった。米本のスルーパスで抜けた石川がゴールライン際までえぐってグラウンダーのクロス。平山が潰れて逆サイドへ抜けたボールに林が飛び込み、DFともつれ合いながら押し込んだ。土壇場での決勝ゴール!興奮を隠せず両手をぐるぐる回しながら走る林に他の選手たちが覆い被さって、その熱気が冷めやらぬうちにフルタイムの笛。東京、準決勝進出!!
 

いやー、これだから、サッカーというのは怖くて面白い。いや、負けた方にしてみれば「面白い」なんて言ってられないかもしれないけど。

仮に、これが判定によって勝負が決まるルールであったならば、勝者は間違いなく仙台だったろう。前線からの徹底したプレス守備と東京の背後をシンプルに突くカウンターはいずれも効果的で、前後半のうちに幾つかあった追加点のチャンスを一つでもものに出来ていたら、仙台の完勝、いや圧勝になってもおかしくない展開だった。ただ、どうしてもあと一本のシュートが決まらなかったのだけれど。

それでも、90分まではベガルタが普通に逃げ切れる流れだった。後半にアタッカーが決定機を逃し続けても、手倉森監督や仙台の選手たちに動揺は見られなかった。そりゃそうだ。多少運動量が落ちたとはいえ守備に綻びは見られず、むしろ力攻め一辺倒の東京の攻撃の方がバラバラになっていたのだから。勝ったと思ったろう。僕だってスタンドで観ていて「こりゃだめだ」と思ったもの。ホント、勝負は下駄を履くまでわからないのであった。だからサッカーは面白い。

太田のFKは「これしかない」ものだった。後半ロスタイムという時間帯ももちろんだけど、攻撃が完全に手詰まりに陥っていた東京にとって、直接FKはほとんど唯一とも言える得点の形だったろう。そのプレッシャーの中で完璧なキックを蹴って、ものの見事に決めて見せた太田は本当に凄い。凄い男だ。1999年だったか、満員の国立競技場での鹿島戦、やはり終了間際に同点ゴールをもぎ取った名波浩のFKを思い出した。

決勝点を挙げたのが林容平くんだったのも嬉しい。昨季の終盤に途中出場した時、鋭い飛び出しを見せて「お、なかなかいい選手じゃないか」と思ってたんだけど、今季に入ってまたぷっつりと出場機会がなくなってたんだよね。最近の東京にはいなかったタイプでもあり、これをきっかけに飛躍してほしい選手である。そういや、前に某所でウチの子供を抱っこしてくれたこともあったな。いい奴だ(笑)。

この試合、東京は内容的には決して良くなかった。冷静な目で見れば「うっちゃり勝ち」と言ってもいいだろう。でも、とにもかくにも生き残る事が大事、というか、生き残らなければ何もないのがカップ戦。劇的な勝利を素直に喜びたいと思う。次の相手はリーグ戦王者の広島だ。
 

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