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2013年06月16日

●ジャパンがウェールズに初めて勝った日 (日本代表×ウェールズ代表)

日本代表 23−8 ウェールズ代表 (リポビタンDチャレンジ2013 秩父宮ラグビー場)
 
 
花園での惜敗に続くウェールズ来日第2戦は、雨上がりの蒸し暑い秩父宮にて。大入り満員のスタンドの一角で、歴史的勝利の瞬間を見届けてきた。
 
 
初戦の苦戦ぶりと高い気温を考慮して早く勝負をつけたかったのだろうか、ウェールズはSOビガーを中心に序盤から速い横への展開を繰り返して攻勢に出てきた。前半の大半は日本陣で試合が進むことに。

だが、ジャパンは22m内の苦しい時間帯を堅実なタックルと素速い動き直しでしのぎ続け、ロースコアの緊迫した展開となる。前の試合で悔しいキック失敗のあった五郎丸が40m超のロングPGを決めるなど日本が得点機を着実にものにして、6-3のリードで折り返すことに成功した。

後半、44分にウェールズがビガーの変則パスを交えた展開で日本の防御を破り、トライ。6-8。しかしすぐさま日本も鋭いパス攻撃で逆襲し、48分、廣瀬らの突進から最後はウィングが右隅を突き破ってトライ。五郎丸が難しいコンバージョンを決め、13-8。沸き返る超満員のスタンド。

さらに日本は次第に疲労の色が濃くなる相手に畳みかけ、59分、怒濤の連続攻撃から見事な判断を見せる田中のロングパスが決まってブロードハーストが右隅にトライ。五郎丸がまたもや角度のないキックを蹴り込んで20-8。

いくら2軍編成とはいえ負けられないウェールズはそこから最後の力を振り絞ってゴール前まで攻め込むが、日本はしぶといタックルでゴールラインへの進入を許さず、畠山投入で強化されたスクラムと密集戦を武器に何度もボールを奪い返す。

逆に76分、福岡の思いきったランで得た正面のPGを五郎丸が難なく決め、これでついに勝負あり。23-8で試合終了!日本、シックスネイションズ王者を相手に念願の初勝利である。秩父宮にこれまで聞いたことがない程の拍手が鳴り響いた。
 
 
いやー、ラグビー界では本当に久々の、「やったぞー!」というか「WE DID IT!」というか。会心の勝利だったと思う。

勝因の第一は何といってもDF。この日のウェールズはどんどん大外に回してきて「ヤバい、余る!」という場面が幾度もあったのだけれど、その度にウィング・サウのドンピシャのタックルが、あるいは五郎丸や両WTBのカバーディフェンスが炸裂。FW陣の守備も第三列を中心によく持ち堪え、奪われたトライはたったの一つ。結局、ジャパンが世界に伍するためには何を置いてもまずDFの強化が必要なのだと改めて思わされた。

2つめの勝因はミスの少なさか。キックオフやスローインのミス、意図せざるノータッチ、不用意な反則がなかったわけではない。ただ、従来のジャパンでよくあったような、試合の流れを自ら手放すような大ポカや集中力を切らす場面はいつになく少なかったのではなかろうか。第1テストの惜敗もよほど悔しかったのだろう、選手たちのプレーからは「新しい歴史を作ってやる!」という大いなる気概が感じられた。

もちろん、気候に恵まれたのも大きかった。前日まで雨模様で湿度が上がっているところに当日の青天、というのは宿沢ジャパンがスコットランドに勝った時と全く同じパターン。明らかに相手方は前半で勝負を決めたがっていたけれど、そこを日本が耐えきったことで若いウェールズ選手たちはナーバスになり、実際に試合の終盤にはバテバテになってしまった。まあ、地の利に加えて時の運もあったということで。

他にも勝敗に関わるポイントはいくつもあったと思う。特に、第1テストで残念な出来だった五郎丸がスーパーブーツと呼ぶに相応しい仕事ぶりをしてくれたのは大きかった。彼が難しいプレースキックを決める度にスタンドの盛り上がりは高まっていき、それを見てジャパンの選手たちも「行ける!」という自信を得たのではなかろうか。キック戦でも途中からは優位に立てたし、彼の貢献は本当に大きいものがあった。

貢献が大きいといえば、SH田中の存在感は実に素晴らしかった。スーパー15でのプレーを経て、目を見張る程のレベルアップ。ある時はため、ある時は素速く動かす絶妙のパスさばきによるコントロールの見事さは誰の目にも明らかだったろう。これほど懐の深い日本のSHというのはちょっと見たことがないように思う。隣で観ていたカミさんがぽつりと「中村憲剛みたいだね」とつぶやいた。なるほど。

もちろん他にも、ツイやブロードハースト、菊谷、ウィング、サウといった選手たちの攻守にわたる貢献は特筆すべきだし、山下と畠山の活躍(この2人の交代は大成功だ)も忘れられない。廣瀬のベテランらしい要所を押さえたプレーぶりと優れた判断(前半、五郎丸にロングPGを狙わせたのはナイスすぎる)、福岡のキラリと光るセンス……ああ、書いても書いても書き足りない。勝利ってホントに素敵だなあ(笑)。
 
 
しかし、まあ、ウェールズに勝つとはねえ。土曜日のビールは本当に美味しかったよ。

ウェールズにはこれまで12回対戦して全敗だったのだそうだ。「大西式のシャローディフェンスが届かなかった」73年や「餓狼作戦」で5点差まで追い詰めた83年の対戦は僕にとっては歴史上の話だけど、手も足も出なかった99年W杯、リードして前半折り返しながら後半叩き伏せられた01年の秩父宮、新婚旅行先のロンドンでBBCニュースを見て絶望した04年。僕が覚えている試合もこれまでは全てが完敗だった。

もちろん、今回来日したウェールズは全英ライオンズに主力をとられた2軍編成のチームで、地の利等も考えれば勝ったからといってはしゃぐべきではないのかもしれない。それはわかっている。ただ、これまでのジャパンはそういう相手にも常に勝ちきれなかったのだ。「89年のスコットランド以外、いわゆる世界8強に勝ったことがない」という事実は、僕らにとってずっととれない胸のつかえとなっていたのだ。

おそらく、それこそ廣瀬キャプテンが試合後に語っていたように、ジャパンはこの勝利をもってようやく「世界」への挑戦のスタートラインに立つことができたということなのだろう。とはいえ、いや、だからこそ、まずは勝ったことを素直に喜ぶべきなのだと僕は思う。少なくとも確かな進歩は見えたのだから。つーか、2軍相手だろうとまずは勝たないと、本当に強いところと当たることさえできないのだから。

次は、是非ともハーフペニーやフィリップス、デイヴィスのいる「本物の」ウェールズ代表とやりたいよな。そして勝つ、と。
(という具合に、勝てばまあ気も大きくなるわけだよ(笑)。)
 
 
[付記1]

前回僕が生でウェールズ代表を見たのは2001年6月17日の秩父宮だった。それから12年、あの時ジャパンの10番を背負ってピッチに立っていた岩淵健輔氏は今日本代表のGMとなっていて、この試合の最中にも厳しい表情でスタッフに指示を飛ばしていた。何というか、彼に象徴されるように一つの「つながり」としてのジャパンがあって、その長年にわたる努力が今回の勝利に結実したと考えると感慨もひとしおだよな。ま、もちろん問題は今後なんだけど。
 

[付記2]

試合終了後、拍手が鳴り止まない中でふとメインスタンドの後方を見上げると、貴賓席の中でラグビー協会会長の森喜朗さんが目をしばたいていた。フッと彼がこちらを見て目が合ったような気がしたので拍手を送ると、森さん、手を振りかえしてくれましたよ……とか書くといつぞやの長嶋さんみたいになっちゃうのだが(笑)、まあ総理(前にウェールズが来日した年に辞任)としてはアレだったけど、ラグビー協会会長としては仕事してくれてるからな。
 
 
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コメント

どうも、お久しぶりです。
花園には駆けつけたのですが、惜敗に泣き、秩父宮には立ち会えずにちょっと残念です。
長年のジャパンウオッチャーとしては、大事な試合に勝った経験がなかったもので、どう喜んでよいのかわからずちょっと戸惑っています。
6月と云えば、敗戦後に下を向いてトボトボと青山通りを歩いて帰るのまでがセットであって、村田くんとの数多くの「反省会」のことを思い出しました。
まあ、内容についてはいろいろあるのだけど、ひとまず喜んでおきます。
そうそう、花園では坂田先生と握手してきましたよ。

ご無沙汰してます!やっぱり1stテストの方に行ってらしたんですね。あっちも五郎丸のキックが入ってれば勝てたかと……。

仰るとおり、日本代表の試合といえば内容はともあれ結局負けてしまって「ジャパンは○○が駄目なんだよなあ……」と飲みながら嘆くのが定番になっていたので、今回は僕も試合後のリアクションに困ってしまいました(笑)。

言い換えれば、正直なところ今までのジャパンは「(強豪に対しては)負けるのが普通」だったので、この勝利が新しいスタンダードとなってくれればいいな、と思います。相手のメンバーを考えれば金星でも奇跡でもないんだけど、でも今まではなかなかそういう相手にすら勝てなかったわけですから。

今度6月に会った時は「反省会」じゃなくて祝勝会をやりましょう!

坂田先生、カナダ戦では森会長と肩を並べでテレビに映ってましたね。完全にレジェンド扱いですが、良いことだと思いました。最近の協会はわかっているなと。

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