●勝利こそ最高の良薬、になれば (東京×名古屋)
FC東京 3−1 名古屋グランパス (J1第7節 味の素スタジアム)
開幕2連勝の勢いはどこへやら、その後は4連敗とすっかりドツボにはまってしまった東京。連敗脱出を賭けた一戦は雨模様の味スタで生観戦した。
まず攻勢に出たのは東京。いつも通りスロースタートの名古屋に対し、果敢なパスワークで攻め込んでいく。2分、ルーカスの巧みなクロスに合わせた千真のボレーシュートがバーを直撃。4分には徳永のパスで右サイドを抜けたルーカスの折り返しを、東が正面でシュートするもボールはバーを越えた。しかし、その後は前進と後退のメリハリのついた名古屋の守備が機能し始め、チャンスの数は次第に減っていく。
加えて、前半の東京は審判の判定にも苦しめられた。この試合を担当した井上レフェリーは激しい守備にやや敏感で、中盤で秀人らが体を入れてボールをとるたびに笛が鳴り、東京の選手やファンにフラストレーションが溜まっていく。ボール支配の割になかなかシュートまで至らないこともあり、ジリジリとした時間が続いた。
24分、米本のロングフィードで飛び出したルーカスがGKと一対一となるが、楢崎の好セーブでゴールならず。と、ここから急に名古屋の攻撃にエンジンがかかる。27分、ケネディが落としたボールを叩いた小川のシュートは権田が反応良くストップ。29分、波状攻撃からダニルソンのクロスにケネディが超高層ヘッダーで合わせ、権田の横っ跳びも届かず左隅にゴールイン。0−1。31分には太田をかわして右サイドをえぐる矢野のクロスがケネディに合いかけるも、加賀が懸命のカバーで防ぐ。
序盤から主導権を握りながらわずか数分間の守勢で失点。ガックリ来てもおかしくないところだが、この日の東京には反発力があった。森重やSBも積極的に攻撃参加して取りかえしにかかる。32分、右サイドから徳永が絶妙のクロスを入れ、千真が合わせるが惜しくも枠外。39分、右サイドを深くえぐった森重の速いクロスを楢崎が正面に弾き、千真のシュートは闘莉王が腕でブロックするも主審の笛は鳴らず。おい!
そしてロスタイム。ルーコンの浮き球でボックスへ突入した徳永が本多に引き倒され、PK。ルーコンのシュートは楢崎が手に当てながらも左隅に決まった。PKをもらう時間はちとズレたが帳尻は合ったかも、と(笑)。悪くない雰囲気で前半終了となった。
後半は開始直後からペースを取り戻した東京が攻める。47分、DFラインからボールをかっさらった千真がシュートを放ち、ポストのわずか左。49分にはボックス左手前でタメるアーリアからのパスで森重が左サイドをえぐり、田中隼のファウルを誘ってまたPK。再びルーカスが、今度は楢崎の逆をとってゲットした。2−1。さすがに名古屋も前がかりになるが、53分に小川が撃った鋭いミドルシュートはポスト右を抜けた。
決定的な3点目が入ったのは、ルーコンのヘッダーが楢崎の正面を突いた直後の58分。徳永が激しいフォアチェックでボールを奪ってボックス手前の千真へパス。千真はドリブルで切り込むかと思いきや、ノーステップで右足を一閃!ボールはあっという間に楢崎の指先を抜けてゴール右隅に突き刺さった。なんつーか、石丸博也の声で「ロケットォパァーンチ!」と叫びたくなる(いや、キックか)熱いシュートだった。3−1。
名古屋はアタッカーの二枚替えで反撃に出ようとするも、DF〜中盤は疲労の色濃く、むしろ中盤が空いて東京に攻撃のスペースを与える結果に。東京はノリノリの千真やルーコンがたびたび前でボールを奪ってチャンスを作り、DFでは不調の太田に替えてチャン・ヒョンスを投入し、加賀・徳永のSBで名古屋のサイド攻撃に蓋をする。68分には東が右サイドを突破、マイナスのクロスに合わせたルーコンのシュートが惜しくもバーを叩いた。
終盤になっても東京の優勢は変わらず、途中出場の李・平山らを中心に幾度かチャンスを作る。結局4点目は入らなかったものの、最後は主審の判定も東京側に傾いて名古屋に退場者(田口)が出るなど危なげはなく、そのまま試合終了となった。
リーグ戦では実に5試合ぶりの勝利。さすがに気持ちいいのぉ。
前半はロスタイムに入るまでは実にイヤな流れだった。序盤攻勢に出たがチャンスをものにできず、エンジンのかかり始めた相手にあっさり失点。その後も攻め続けるも決定機を逃し、フィーリングの合わない主審の判定には苛つかされ、さらに闘莉王の決定的なハンドも見逃されてしまう。普通だったら完全に負けのパターンだが、にも関わらずひっくり返せたのは非常に大きい。勝点3以上の価値があるのは間違いないだろう。
選手たちは相当な気合というか、決意を込めてプレーしていたんだろうと思う。体のぶつけ方はいつになく激しく、森重は最近自重していた攻撃参加を繰り返して事態を打開しようとしていた。不運や不利が重なる状況にもキレずに粘り強く攻めた結果があのPKだ。以前よりも精神的にタフになっているということなのか、自分たちのサッカーへの自信を失っていないということなのか。いずれにせよ良いことではある。
まあ、あえて言うならば、またも先制点を献上してしまったのは反省点になるだろうね。昨年もそうだったけど、このチームは悪い時に「勝てない」だけじゃなく「負けてしまう」んだよね。今の勝点ルール(引き分けは負けに近い)からすると一概にその傾向が悪いとは決めつけられないんだけど、まずは「負けない」ことが成績の安定につながるのも事実ではないのかな。ともかく、そろそろ完封が見たいな、と。
個々の選手について。まず徳永が素晴らしかった。大宮戦くらいまでの不調などどこへやら、攻撃も守備も好調時の迫力を取り戻していた。実に頼もしかった。対照的に太田は酷い出来だったんだが、怪我があったのかな。森重は、彼らしくもなく(と言っては失礼かな)果敢で熱いプレーぶりだったけど、2枚目のイエローを回避したあたりは「大人になったなあ」と。米本と加賀もいつも通りの活躍ぶりだった。
攻撃陣では、まずルーカスが良かった。PK2本ももちろん、巧みなボールキープや献身的な動き出しで文句なしの貢献。ビバ。次に渡邉千真。2−1の時点では主審の判定も含めてまだまだどちらに転ぶかわからない状況だったから、あのミドルシュートは本当に決定的だった。ああいう時は「カズマックス!」ポーズやればいいのに(笑)。ちょっと心配なのは東で、やっぱりあのPK失敗以来ちょっとスランプに見えるんだよな……。
ということで、とりあえずは連敗脱出して一安心。そして、次のリーグ戦はいよいよ多摩川クラシコである。川崎も丁度連敗を脱出したらしいので、お互い深刻になりすぎずにファイトできることになって良かったというべきか。去年はホームで悔しい負け方をしたからな〜。勝ってくれよ、東京。
[付記1]
勝ったから笑い話になる(いやならんか)のだが、前半39分の闘莉王のハンド見逃しは凄かった。意識的に手を出したかどうかは知らんけど、バレーボールのレシーブみたいだった。お前は「アタックNo.1か!」という。少なくとも主審・副審のどちらかからは見えていたはずだけど、あまりにあからさまなハンドだからかえって吹きづらかったのかな。「まさか!」みたいな(笑)。
問題のプレー直後、東京の選手のうち5〜6人が猛ダッシュでレフェリーに詰め寄ったのも、今から思えば笑えるんだが、あの瞬間は明らかに守備がおろそかになってたよなあ。カウンターくらって2点目、なんてことにならなくて本当に良かった。あれ、相手が名古屋じゃなくて鹿島とか今の横浜だったらマジでヤバかったのではなかろうか。
しかし、闘莉王のチームと試合するとホント色々とあるねえ。ハンド以外はそんなに酷いプレーぶりではなかったと思うんだけど、まあ闘莉王だからブーイングはしたくなるわなあ。東京ゴール裏の大ブーイングを聞いて、2010年の豊田スタジアムで「くそったれ!」コールに対して身を震わせて怒っていた名古屋ファンのおばさんを思い出してしまった。実は、個人的には非常に好きな選手であったりするのだが。
[付記2]
この試合、サイドの攻防に的を絞って観返してと面白いかもしれない。前半は両チームとも明らかに右(東京は徳永・ルーコン、名古屋は矢野・田中隼)がストロングサイドで、左(太田と本多)がウィークポイント。かつ、左SBは双方ともイエローカードをもらっていた。
で、先に修正しようと動いたのは名古屋で、後半頭に本多→阿部の交代。でも結局阿部の出来も悪くて、決定的な3点目は徳永が阿部からボールを奪って起点になったものだった。一方の東京は2点リードしてからではあるけれど、太田→チャンで加賀を右に、徳永を左に回す対応。こちらは功を奏し、63分以降は名古屋が攻め手を失って、やむを得ずミドルシュートを撃ったりする場面が多かった。
おまけに東京の方は後半になると左サイドの攻撃も機能し始めて、勝ち越し点も長谷川アーリアが絶妙のタイミングでオーバーラップの森重を走らせてゲットしたPK。何というか、少なくともこの試合では、サイドにおいて選択肢を多く持ち得ていたことが勝利の大きな要因であったように思える。CBに強くて巧い選手がいるだけに、サイドで崩せたのはホント大きかったよな、と。