●ありがとう (FC東京×ジェフユナイテッド千葉)
FC東京 1-0 ジェフユナイテッド千葉 (J2第37節 味の素スタジアム)
前節鳥取戦の勝利でJ1昇格とJ2優勝を決め、安心して迎えることができたホーム最終戦『dia obrigado(感謝の日)』 。日が暮れて徐々に冷え込む味スタで見届けてきた。
試合は、序盤から膠着気味の展開に。4-1-4-1の密集体型で自陣を固める千葉に対し、梶山を欠く東京はボランチの所でプレッシャーをかけられなかなか前に運べず、ルーカスらを狙うフィードも大半は待ち構えるDFがカット。一方の千葉も守備はタイトだが攻撃は少人数のカウンターがほとんどで、前半半ばまで両チームシュート0の状態が続く。ようやく21分、左サイドから中央に持ち出す村井が鋭いミドルシュートを撃つが、塩田が横っ跳びで弾き出した。
27分、逆襲速攻から深井へラストパスが通るが、森重のカバーの甲斐あってシュートはバーを越えてくれた。29分、右サイドでDFを吹っ飛ばした徳永がクロスを入れるがルーカスの寸前でDFがクリア。思うようにパスが回せない東京は個人能力で打開を図るも、局面で数的不利に陥っては行き詰まる場面が多い。突破を狙おうとしてDF2人に立ちふさがられた徳永が、逆向きにドリブルを始めた時はどうしようかと思った(笑)。モヤモヤなムードのまま前半終了。
ところが、後半に入ると雰囲気が一変して東京の攻勢に。いきなり46分、徳永が入れたグラウンダーのクロスを羽生が落とし、石川の鋭いシュートがサイドネットに刺さる。ハーフタイムの打ち合わせの成果か、前半にはあまりなかったFWとMF(特にルーカスと羽生)が縦に入れ替わる動きが増え、守備をかき回しながら押し込んでいく。47分、右サイドから細かくつないでフリーの田邉がボックスへ突入するが、シュートが遅れてGK岡本に防がれてしまった。
48分、ボックス手前で石川がファウルされながら後方へ流し、入れ替わりにルーカスがDFの背後に飛び出す大チャンス。しかし主審はアドバンテージをとらずに笛を吹いてしまう。「えーっ!」という場面だが、笛を聞いた瞬間両手を挙げて回りながら崩れ落ちるルーカスの姿には思わず笑ってしまった。マンガかお前は(笑)。そのFKを直接狙った森重のシュートはゴール右隅を襲うも、岡本が横っ跳びで好セーブ。その後も東京が押し気味に試合を進めていく。
57分、東京は存在感の薄い田邉に替えてセザー投入。セザーが前に張ることでルーカスが下がってさばく時間が増え、ポゼッションはさらに一方的なものとなっていった。が、なかなかゴールまでは至らない。60分、羽生の足の長いスルーパスでセザーがDF裏に抜け出すが、シュートは岡本がブロック。64分、高橋がループ気味に狙ったロングシュートはわずかにバーの上。他にもセザーや今野がシュートチャンスを迎えるも、岡本が好セーブでこれを阻んだ。
やっと先制したのは山口退場で千葉が10人になった直後の76分、ボックス前で羽生→セザー→ルーカスとつながった場面。ルーカスは鋭い反転と引き技でDFをちぎって一気にゴール前へ突入し、即座に右足を一閃!ボールは岡本の脇をきれいに抜けてゴールネットに突き刺さった。すげえルーコン!まるで助っ人外国人みたいだ!!……という冗談はさておき、いかにもブラジル人らしい超絶テクによるビューティフルゴールであった。1−0。
こうなると今の東京は強い。77分にセザーが放ったミドルシュートは惜しくも外れたものの、その後も焦らずパスを回して時間を遣い、林・坂本を投入して反撃を図る千葉にペースを渡さない。危なかったのはロスタイム、林が入れたインスイングのクロスを今野がゴールライン方向へクリアして「オウンゴールか!」と冷や汗をかいたシーンくらいか。結局、そのまま1点差で東京が勝利を収めた。
まあ、最高の試合ではなかったけど、でも今季最後の味スタを勝利で飾れたのは良かった良かった。
前半はしょっぱい内容だった。ボランチのところで狙われるのはわかりきっているのにそこを経由しようとしては潰され、かといって他のルートは作れない。梶山不在時の組み立ての不安は解消されておらず、千葉のタイトな守備が従前からの課題を改めて浮き彫りにしてくれた、というところか。少なくとも前半は千葉のゲームプラン通りだったのだろう。これでオーロイやミリガンがいたら普通にやられてたんじゃないの、とかそういうことは言わない(笑)。
ただ、後半になるとルーカスが下がったり羽生の飛び出す頻度を増やしたり、ポジションチェンジやオーバーラップで流動性を増やしてそれなりに良くなった。あの工夫などは今季成長した部分なのかもな、と。個人能力頼みや一本調子でゴリゴリ行くだけじゃなく、切り口を変えて仕掛けていく事が意識的にできているとすれば嬉しいのだけれど。得点はルーコンのスーパーゴール1つだけだったにせよ、その前の努力が明らかだったから後味は決して悪くなかった。
MVPはもちろんルーカス。76分のプレーは体のキレが凄かった。ワンフェイントでジェフのDFが完全にぶっちぎられてたもんね。2004年ナビスコ杯準決勝の時を思い起こさせるような怪物ぶり。中盤でもよくボールをさばいてくれたし。というか、これは前から言ってるけど、ルーカスって能力の高さで1トップもそれなりにこなしちゃうけど、実は1.5列目とか2列目で使ってこその選手だと思うんだけどね。来年やれるかどうかも、使い方次第ではないかな。
試合後は、ルーカスのインタビューとJ2優勝杯の授与(チェアマンがわざわざ来てくれたんだね)だけを見届けて、セレモニーはパスして退散。だって寒かったんだもん(笑)。せっかくだから大熊さんの挨拶は聞けばよかったかも、と思わないでもないが、残ってたら平松君のパフォーマンスでいっそう寒かったらしいから……。
最後に。もしかすると今年はこれが最後の観戦(更新?)になるかもしれないので、ちょっとシーズンの総括的なことを書いておこうか。
初めは苦しいシーズンだった。開幕戦は何とか勝利を収めたものの、その後は東日本大震災によって1ヶ月半のリーグ戦中断。再開後は千葉戦の大敗でリズムを崩し、おまけにチームの軸となるべき平山・米本を含めて怪我人(それもシーズン絶望となる程の)が続出した。5月半ばまでは成績も内容も低空飛行が続いて、監督やレギュラー選手の交代等のテコ入れが必要ではないかと思われた。正直なところ、僕も「昇格は難しいか」と覚悟した時期もあった。
だが、しかし。そこから持ち直してJ1昇格はおろかJ2優勝もつかみとったことで、結果的にはとても楽しいシーズンとなった。腹を括ってパスを回し倒す戦法へと回帰し、根気強く粘り強く勝ち点を積み重ねていったその後の東京には、ここ数年とは違うある種のたくましさがあったように思う。何より嬉しかったのは、5月の「転換」が選手たちからの提案によるものだったという報道である。それが本当ならば、ようやく大人のチームに近づいたのかな、と。
もちろん、今季限りで勇退となる大熊監督にも感謝感謝、である。選手からの提案もあったにせよ、大胆な選手起用と戦術変更でチームを不振から脱出させ、2度目のJ1昇格に導いた手腕はお見事。昨年途中で火中の栗を拾ってくれて、結果的にはJ2に落ちてしまったけれども再び昇格させる事できっちり責任を果たしてくれた。本人はまだ続けたかったかもしれないが、良い形で第2次政権の幕引きができたのは本当によかったと思う。ありがとうございました!
あと、楽しいといえば、J2そのものもファンにとっては大いなる楽しみだった。J1とはまるで違う対戦相手、遠征先、審判、そして日程。その中で戦い抜いて結果を出す我らがチームを1年間見守ったことは、僕たちにとっても実に希有な体験であった。もちろん1年でJ2を脱出したことは喜ぶべきなんだけど、その一方で寂しさがないと言ったら嘘になるかもしれない。千葉戦の試合中、隣に座っている東すか編集長がつぶやいた。「もうすぐ終わっちゃうんだなあ」。
ともかく、FC東京の選手・監督・スタッフの皆さん、楽しい1年をどうもありがとう。来年はまたJ1で頑張りましょう。あ、でもその前に天皇杯があるのか。大熊さんの花道が元旦の決勝になったら、12年前の昇格も知る古株ファンとしてはこれ以上ない喜びではあるな。楽しみだ。