●平山砲2発でカモメ撃墜 (横浜F・マリノス×FC東京)
日曜日の午後は、日産スタジアムでJ1第30節。横浜F・マリノス 1−2 FC東京。前節の引き分けで残留争いのライバル神戸に勝点で並ばれてしまった東京。負けられない戦いが続く中、今回はACLを狙う好調マリノスとの対戦であった。試合は、開始早々平山のゴールで東京が先制するもその後は横浜の攻勢にさらされ、一度は同点に追いつかれてしまう。しかし終盤再加速した東京は再び平山のゴラッソによって突き放し、見事アウェイで勝点3を獲得した。
開始直後の主導権争いの中、3分にいきなり試合が動く。右タッチ際で巧みにボールを収めて突進した石川のクロスははね返されたものの、クリアにまごつく中村俊に米本が寄せ、こぼれ球を拾った平山が左足で思いきったミドルシュート!地を這うボールに横っ跳びのGK飯倉も届かず、ゴール右隅に吸い込まれた。強さ・コースとも文句なしの一撃。1−0。7分にも平山は左サイドから仕掛ける石川の折り返しをボックス前で叩いたが、これは飯倉がキャッチ。
しかし、幸先良い立ち上がりにも関わらず、次第に主導権は横浜へ。9分、ボックス内でキープした小野の戻しから山瀬が撃ったシュートは米本がブロック。横浜はワイドに押し上げ、人数をかける分厚い攻撃を見せる。対する東京はマークの受け渡しがぎこちなく、しばしばFKを与えては中村俊のシュートやクロスがゴールを襲う。ハイボールをはね返す平山と、守備の穴を埋める米本の働きが目立つ。15分、CKから中村俊が直接狙ったシュートは権田が弾き出した。
東京にしてみれば攻めさせておいてカウンターを決めたいところだが、この日は森重を欠く上に梶山のパスが不調で、なかなか前線へつなげない。19分、ボックス前のこぼれ球を叩いた大黒のボレーシュートは枠外。しばらく耐える時間が続く。28分、中村俊のFKに清水が頭で合わせたが、権田がキャッチ。30分にはボックス内でパスを受けた中村のシュートがポストのわずか右を抜けた。32分にもワンタッチのパス交換からボックスに進入した山瀬がシュート。
35分を過ぎると横浜も息切れしたか、東京もスムーズにパスを回せるようになった。37分、CKからの二次攻撃で椋原がクロス。平山がDF3人に囲まれながら巧みにGK前へ落としたボールを飛び出す今野がシュートし、飯倉に当たったこぼれ球をさらに大黒がシュートするも、ゴールライン寸前で田中がかき出した。これは惜しい……。その後は中村俊のクロスに小野が合わせる場面が2度ほどあったが、いずれも精度を欠いた。1点リードのままハーフタイム。
後半になると横浜が一段ギアを上げてきた。いきなり46分、小野が鋭いドリブルでボックスへ突入、東京DFが倒したか、という場面は笛が鳴らず。48分、左から切れ込む田中の無回転ミドルシュートは権田が押さえる。横浜の攻撃は前半に比べてワンツーなど細かいパス交換での中央突破が多くなり、間一髪東京DFが防ぐ場面が増えた。52分にも田中のクロスを清水が落として中村俊がフリーでシュートするか、という寸前で今野がスライディングタックル。
横浜の圧力に押されて全く2トップにボールが入らなくなった東京は大黒を外し、ドリブルでボールを運べるリカルジーニョを投入。一方の横浜は山瀬OUTで端戸IN。57分、カウンターで椋原が右サイドを突破、低いクロスがゴール前の平山に通るもハンドの反則で逸機。そして58分、横浜は波状攻撃から右サイドでキープする端戸→追い越す天野とつながり、速いクロスが逆サイドに抜けたところ、詰めていた小野がゲットした。和司采配成功っすか。1−1。
横浜にしてみればACL出場権を目指して勝点3が欲しいところ、対する東京も引き分けで良しとは言えない状況。よってその後は攻め合いとなった。62分、梶山のパスミスから小野がボックスへ突入するピンチとなるが、中村俊のFKはバーの上。65分、石川から羽生へのサイドチェンジが通り、羽生はDFをかわして速いクロスを入れたがFWに合わず。70分には横浜のカウンターとなり、清水が無人の中央を持ち上がるも、ミドルシュートは右に外れた。
終盤になると双方いっぱいいっぱい、大半の攻撃がミスで終わる状況。「こりゃ引き分けかな……」。ところがそんな78分、羽生の絶妙のフィードが左サイドの平山に通った。平山は追い越すリカに縦パスを通し、自分はマークを外しつつ中央寄りに走る。そしてリターンパスが足下に収まるや右足を一閃!次の瞬間、ボールは逆サイドネットに突き刺さっていた。うおおおおおお平山!!素晴らしいパス・シュート4本で守備を完全に無力化した1点。2−1。
現金なもので、得点した後は動きが良くなる東京(笑)。80分、リカのパスをポストの平山が落とし、正面から石川がシュートするもポスト右。横浜も最後の反撃を試みるが、CK・FKの連続も東京はしのいでいく。88分、壁パスで前進した端戸のシュートはバーを越えた。ロスタイムには横浜のシュートが連続する場面もあったが、東京DFは集中してブロックし続け、そしてついにタイムアップ。徳永はピッチに倒れ込み、すぐ後で選手たちの歓喜の輪ができた。
いや、これは何とも嬉しい勝利だ。よくぞ勝ってくれたもんである。
東京はここ3試合負けなし、清水戦では快勝を収めて「これで下を少し離せるか」という皮算用もあった。が、神戸がその裏でまさかの(と書いては失礼だが)連勝。横浜・川崎・名古屋と続く連戦を前にして辛うじて得失点差で上回るも勝点差なし、という状況は東京の選手たちにプレッシャーを与えたに違いない。終了の笛を聞いて倒れ込んでしまった徳永をはじめとして、いつも以上に喜びを露わにする選手が多いように見えたのはそのせいだったのだろうか。
試合自体も決して楽な内容ではなかった。早々に平山の一撃で先制するも、その後は横浜の勢いに押され、梶山の不調もあって攻撃がなかなか組み立てられない。絶好の追加点の機会もものにできず、後半はさらなる攻勢を受けて同点ゴールを許してしまった。一気に押し切られてもおかしくないところだったが、そこでガンバ戦と同様にチームが反発力を見せ、今回は個の力も発揮して突き放してみせたのは嬉しい驚きである。2点目の展開と崩しは見事だった。
まあ、森重不在でセットプレーの高さに不安があるところ、横浜が怪我で中澤・栗原を欠いていたこと。狩野がやはり負傷欠場で横浜に攻撃を加速させる駒が少なかったこと。試合全般でオープンに撃ち合ってくれたことも含め、このタイミングで今のマリノスと対戦できたのはもしかするとラッキーだったのかもしれない。それにしても、である。よく勝ってくれた。
勝利の殊勲者が平山であることに異論はないだろう。彼はパス回しの中心になったりアシストを決めたりする貢献が多く、逆に言えば「後は得点さえあれば」と言われることが多いのだが、今回は文句のあろうはずがない。力強いキックでズドン!という取り方も平山らしかったし。特に2点目は「撃て!」と思った瞬間に撃ちきったもので、観ていて気持ちの良かったこと!加えて、守備でも高さを生かして中村俊のFKをよくはね返してくれた。一皮むけた、かな。
実は、スタジアムに向かう地下鉄の中で横浜ファンの男の子たちが東京のJ2降格について話していて「平山はJ2だと暴れそうだよな。でもJ1では……ウチはハーフナー・マイクを呼び戻した方がいいよ」などと言っていたのである。それを聞いて僕は、悔しいと思うと同時に、FWとしての得点の少なさを考えればそう見られるのも仕方がないな、とも思ってしまったのだ。だから余計に、今回彼がたくましさを発揮してチームを勝利に導いた事実は大変に嬉しい。
他の選手では、米本・羽生・石川はそれぞれ持ち味を生かして活躍した。先制点は実質的には米本のアシストと言っていいだろう。決勝点を生む羽生のロングパスも凄かった。大黒は今日は不遇だったね。リカは、あの場面、よく自分で行かずに平山を使ってくれたと思う。梶山は自陣でのパスミスが多すぎ。椋原は運動量が光っていた。徳永も、森重に比べれば不安定だったけど、慣れないポジションでよく頑張ったのではなかろうか。北斗は抜かれまくってたのう。
さて。神戸がまたしてもしぶとく引き分けたので「一安心」とは行かないまでも、少し引き離すことができた。次はいよいよ多摩川クラシコ。東京はJ1残留を、川崎はACLを賭けているだけにいつも以上に熱い戦いになるのだろう。中村憲剛が累積警告で出られないのは一サッカーファンとしては残念だけど、東京としては助かる。勝って、今季初の連勝と行きたいものである。