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2010年11月04日

●ザ・熱闘120分 ('10ナビスコカップ決勝)


昨日の午後は、国立霞ヶ関競技場でナビスコカップ決勝。ジュビロ磐田 5−3(延長3−1) サンフレッチェ広島。今年のファイナルはかたや7年間タイトルから遠ざかり、かたやJリーグ発足以後ノンタイトルが続く両チームの対戦となった。試合は、タイトな攻防が続く前後半となったが、ともに優れた個人技で2点ずつを取り合ってタイムアップ。延長戦は堰を切ったような攻め合いとなり、大エース前田の活躍などで3点をもぎ取った磐田が見事優勝を飾った。
 
 
例年どおりというべきか、秋晴れの青空の下でキックオフ。広島は3−4−2−1の布陣で、長短のパスをつなぎながら徐々にポジションをずらして数的優位とスペースを作っていくいつもの攻撃。対する磐田は起用メンバーを含めていつも以上にソリッドな、べた引きではないがまず守備から入るサッカーであった。磐田の守備は前線からDFまで寄せが早く、広島はなかなか攻撃を組み立てることができない。森脇のヘッダーと森崎浩のミドルシュートはいずれも枠外。

磐田は前田・西・ジウシーニョの突破力を生かして機会をうかがう。15分、前田の突進で得たボックスすぐ外のFKを上田が狙い、ゴール左上をかすめた。22分、ジウシーニョがDF裏に抜けかけた場面はGK西川が果敢に飛び出してクリア。そして36分、右サイドに開きながら船谷のミドルパスを収めた前田が柔らかいクロスを上げ、ファーサイドに走り込んだ船谷が叩きつけるヘッダー!これが決まって磐田が先制する。前田のトラップが絶妙であった。1−0。

しかし、広島の反撃も早い。43分に右タッチライン際をミキッチが突進、フェイントでDFを1人、2人、3人とヒラリかわしてGKとDFの間にクロスを通す。ゴール前に詰めた李のシュートは当たり損ねに見えたが、かえってGK川口の逆を突く形となって右隅にゴールイン。ミキッチの鮮やかなドリブル技と李の泥臭さの勝利。槙野を中心に11人輪になって(西川も70mほど走ってきて)「弓矢バーン!」のゴールパフォーマンス。アホや(笑)。同点で前半終了。
 
 

後半は早々にスコアが動いた。47分、DFを引きつけた李が森崎和のフィードをスルー、左サイドを猛然と駆け上がる山岸が李を追い越して抜け、あっという間に川口と一対一に。川口の股を抜くシュートが決まった。この形は山岸の「伝家の宝刀」である。1−2。一転して追う立場になった磐田はここから前がかりになり、怒濤の攻撃を見せる。55分、右サイドから仕掛けた西がDFをかわしてゴール前へ突入、西川を抜いたシュートは惜しくもポスト左に外れ。

56分に広島は森崎浩→青山、一方磐田は60分に船谷→菅沼。広島は後ろを固め、磐田は前に仕掛けていく意図の交代である。66分、右に開いた西のクロスをジウシーニョが流し、フリーの菅沼がダイビングヘッドを狙うもポスト左。その他にも磐田はボックス周辺まで攻め込む場面を度々作る。ただし広島も引きっぱなしではなく、ミキッチのドリブルなどで逆襲することが幾度か。69分、攻撃参加の青山がボックス内で上げたクロスは、高萩にわずかに合わず。

71分、左の菅沼から右の西へサイドチェンジ、折り返しのクロスに菅沼が飛び込むも合わせきれず。75分、那須の強烈なミドルシュートは西川の正面。ここで磐田はジウシーニョに替えて山崎投入。山崎は独特の重心の低いドリブルでDFを翻弄し、磐田は一層押し込む形に。だが、焦りもあるのか磐田は反則やつまらないミスも増え、チャンスをものにできない。81分、山崎が胸トラップから狙ったボレーシュートもDFがブロック。残り時間はあとわずか。

ところが88分、磐田の右CK。那須がどんピシャで合わせたヘッダーは一旦西川が弾いたものの、こぼれ球に詰めていた前田が伸びる西川の手を吹き飛ばすように蹴り込んでゲット。皆が体力の限界に達しつつある時間帯にこの反応はさすがとしか言いようがない。土壇場の同点劇。2−2。5分のロスタイムも双方譲らず、延長戦に突入した。
 
 
延長戦は攻め合いとなった。双方既に3人交代枠を(広島は守備的に)使い切っていたが「もう攻めるしかない」のである。93分、磐田のDFが引きすぎたのを見た高萩が思いきったミドルシュート、糸を引くような弾道は川口の指先を抜けてバーを直撃。98分、ボックス正面から上田が狙った直接FKは西川がジャンプ一番弾いてバーに当たる。さらに99分には右ゴールライン際でDFを抜き去った菅沼がニアを突くシュートを撃つも、これも西川が好セーブ。

そして102分。左CKから上田がニアに入れたボールを那須がすらしてコースを変え、菅沼がダイレクトボレーで叩き込んで磐田勝ち越し。また那須である。3−2。さらにその直後、ショートカウンターから山崎がDFをかわしながら突進し、前田とのワンツーでボックスへ突入。立ちふさがる青山の脇を抜くグラウンダーのシュートがゴール左隅に突き刺さった。若い積極果敢なアタックがチームの勢いを増す好循環。4−2。これで試合は決まったかに思えた。

しかし、ロスタイムに広島はボックス左手前でFKを獲得。30mはあろうかという距離だったが、槙野のシュートはもの凄いスピードでゴール左隅へ曲がり落ち、川口の横っ跳びも届かず決まった。ある意味最高の「パフォーマンス」!「本業でも魅せるぜ!」と槙野が言ったかどうかは知らないが(笑)勝負の行方はわからなくなった。4−3。広島は勢いを取り戻し、延長後半も攻め合いが続いていく。開始早々、右サイドを突破した森脇のクロスできわどい場面。

そんな熱戦に決着をつけたのは、やはりエースの一撃だった。109分、ボックス左角付近に構えた前田がロングボールを巧みな胸トラップで収め、そのままDFをかわしつつゴールへ向けて突進。最後は西川の頭上をふわりと越すループシュートでゲットした。まさに決定的なワンプレー。5−3。諦めない広島は槙野を上げっぱなしにして反撃を試みるが、磐田も川口の着実なセービングなどで譲らない。114分、槙野が左サイドから撃ったシュートもわずかに外れ。

で、最後の見せ場はロスタイムに待っていた。ボックス内左でパスを受けてドリブルを仕掛けた槙野がDFに当たられた瞬間にビヨーンと跳んで(笑)PK獲得。だが、セットしたボールに背を向けて立ち、クルリと振り返って蹴った槙野のシュートはコースが甘く、川口が難なくはね返して「意地の一発」ならず。満面の笑みの磐田DFが川口の上に折り重なったところで高山主審が終了のホイッスルを吹いた。ジュビロ磐田、本当に久しぶりのタイトル獲得である。
 
 

いや、素晴らしいファイナルだった。熱くて、面白くて、グッときた。

両監督が試合後にコメントしたように、36分まではジュビロのタイトな守備が機能したことに加えて双方緊張や慎重な気持ちも強かったのだろう、膠着状態が続き、締まってはいたが「ちょっと退屈かな」というのが正直な感想だった。ところが、である。磐田に先制点が入ってからは、魔術的な個人技による同点→乾坤一擲の個人技による逆転→猛反撃もなかなか届かず→終了間際にエースが劇的な同点弾、と90分まででも目まぐるしくも見応えのある展開だった。

そして延長戦。なんというか、システムとかそういうレベルの話じゃなくて(もちろん両チームちゃんと手当てはしてたけど)、意地と闘志のぶつかり合いが延々と繰り返されて、30分間だけで計4得点。まるでジェットコースターに乗っているような、かつ周囲のサポーターの一喜一憂に包まれながら胸が熱くなる、個人的にも希有なサッカー体験だったように思えた。特に槙野のスーパーFKが決まった瞬間なんて……シビレたなんてもんじゃないっしょ、あれは。

熱い攻撃精神の激突と、何事でも起こりそうな先の読めない試合の流れ。2001年のUEFAカップ決勝リヴァプール×アラヴェスをちょっと思い出した。あの、解説の原博実さんが思わず涙した、伝説ともいえる5−4の試合である。いやあ、本当に興奮したぞ。

サンフレッチェにしてみれば、逃げ損なった試合であった。全体的には満足する内容ではないながら、個人技で2点を奪ってリード。しかし78分までに交代カードを、概ね守備を強化する(消耗に対処する)方向で使い切ってしまい、同点にされてからは交代で二の矢(寿人!)を繰り出すことができず、最後はやや無理攻めになってしまった。まあこれは結果論で、前田の同点ゴールは時間的に不運だったし、延長も高萩のミドルが決まっていればわからなかった。

逆にジュビロにとっては、ヒヤヒヤものだが最後は自らの力で堂々と勝ち取った勝利である。先制するまでの展開はおそらくプランどおり。だが、ミキッチと山岸の見事すぎる個人技は誤算だったろう。その後の攻勢もなかなか決定機に至らず、負けパターンに陥っているようにも見えた。それをひっくり返したのは、大エース前田の力と、若い選手たちの攻撃精神だ。この試合は、スマートだが大人しかった磐田というチームが、一皮むける契機になるのかもしれない。

個々の選手を見ると、前田のMVPには異論がないところだろう。元々巧くて強い選手だったが、最近は時折(まさにこの試合のように)突き抜けたプレーぶりを見せる事があって、替えの効かない存在感を発揮しているように見える。エースの風格、というか。一方、広島の槙野も単なる好選手の枠外に飛び出す可能性を秘めた個性だと思う。少なくとも、おバカなゴールパフォーマンス(も僕は全然アリだと思うけど)だけで注目されるべき存在ではあるまいよ。

槙野といえば、延長終了間際にPKをとったプレーは正直「ダイブ」に見えたのだが、考えようによっちゃそれまで見せ場に乏しかった川口能活に活躍の場を与えてくれたのだから、能活ファンの僕としては感謝するべきなのかもしれないね。つーか、あの「ゴールに背中を向けた姿勢から振り返って助走するPK」って実際に効果があるのかねえ。W杯でイングランドのキャラガーが失敗したり、なんか悪い印象しかないんだけど。槙野には堂々と蹴ってほしいな。

他にも「佐藤寿人とストヤノフの不在について」とか「柳下監督のサッカーは磐田ファンに受け入れられるか」とか、他にも書きたいことは色々とあるのだが、キリがないのでこの辺でやめておこう。いや、ホント、ナビスコカップ決勝は外れ試合がないというか。天皇杯決勝もそうだけど、こういう大きな試合を毎年毎年地元で観ることができる幸せよ。うむ。


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