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2010年10月24日

●まだ「ある」んだな、これは (FC東京×アルビレックス新潟)


土曜日の午後は、味の素スタジアムでJ1第27節。FC東京 1−1 アルビレックス新潟。前節、残留争いのライバル仙台に手痛い逆転負けを喫した苦境の東京。ホーム味スタに戻った今回はまさに「負けられない一戦」であった。試合は、ここ数試合と同様優位に進めながらなかなか得点が奪えず、FKで奪われたリードはPKで追いついたものの、ついに勝ち越すことはかなわず。が、終了間際PKのピンチを権田が防いでくれだお陰でお得な(笑)勝点1はゲット。
 
 
キックオフから東京がペースを握る。いきなり2分、徳永のフィードで石川が右サイドを抜けて折り返し、大黒が頭で合わせるも枠外。序盤はボールに激しくアタックする守備が有効で、攻守の切り替えもスムーズだった。特に徳永は抜群の運動量と一対一の強さで中盤の優勢をもたらす。8分、羽生から左へ展開、北斗が中へ切れ込んで撃ったシュートはGK東口の正面。10分にはCKにどんピシャ合わせた森重の強烈なヘッダーを東口が横っ跳びで弾き出す。

しかし、東京の攻撃は次第にペースダウンしていく。新潟の攻撃は急がずゆっくりパスを回すもので、前に出る迫力は少ないもののなかなかボールを奪えない。また、東京も平山への楔が警戒されたせいもあって前へ進めず、焦れったい根比べの様相。23分、右からのワンツーで曺がボックスへ突入した場面は今野がカット。26分、椋原が粘って上げたクロスは2トップへ届かず。36分には徳永のポストプレーから石川が切れ込んでシュートするも、バーの上。

42分、梶山のパスで椋原が右サイドをきれいに抜け、クロスに飛び込む大黒がDFに倒されたがノーホイッスル。東京が押してはいるのだが……と思っていた終了間際、新潟がボックス前でパスを回す中で東京の守備網に穴が空き、そこを狙って走り込むリシャルデスを徳永が倒してしまう。このFKをリシャルデスが左隅へきれいに決めて新潟が先制。0−1。ユルめとはいえ優勢に試合を進めながら、フッとした「空白」を突かれて失点。最近はこればっかである。
 
 
後半、ネジを巻き直した東京が再び攻勢に出る。開始直後、左サイド攻撃に参加した徳永のクロスを平山が落とし、梶山が右にはたいて走り込む石川がシュートしたが、ポストのわずか左を抜けた。52分、羽生のアーリークロスを大黒が落とし、石川が飛び込むも間一髪東口がキャッチ。54分、羽生のミドルシュートがバーを越えた。東京はここで羽生に替えてリカルジーニョ。リカはタッチ際でDFをぶち抜いて突進するなど、得意のドリブルを繰り返していく。

同点ゴールが生まれたのは61分。徳永のフィードをボックス内で平山が胸トラップしたところ、永田が後ろから引き倒してPKの判定。ラッキーな形ではあったが、梶山がきっちり左隅に決めて同点。1−1。こうなると勢いは東京である。63分、CKのこぼれ球を大黒が反転シュートで狙う惜しい場面。前半の停滞の反省もあるのかつなぎすぎず、ロングボールを交えて攻めたてる。石川が背中越しのパスで椋原を走らせるなど思い切り良いプレーも多くなった。

しかし、またしてもゴールは遠い。69分、石川のFKに合わせた森重のヘッダーは枠外。71分、梶山のバックスピンパスでDFライン裏に抜けた大黒のシュートはポスト左。72分、森重のアーリークロスを大黒が落とし、石川がDFの間に走り込むもシュートできず。75分にはボックス付近に進出した梶山のシュートが右サイドにこぼれ、拾った平山がシュートするも東口がまた横っ跳びでセーブした。「あと一押し」というシーンが続くうちに時計も進む。

新潟は引き分け上等なのか全体的には無理しない構えながら、時折の速攻が怖い。77分、左サイドをリシャルデスが突進、DFが寄ったところで右に展開して小林がシュートし、北斗が懸命にブロック。82分、リカの左突進から平山が丁寧なクロス、フリーの石川がダイレクトで狙うもふかしてしまう。惜しい……。その後は新潟が時間をつかうパス回しを徹底し、東京は石川→松下、大黒→大竹と交代するも、かえって攻撃からダイナミズムが失われてしまった。

そして、そのままドローかと思われたロスタイム。椋原のミスで与えたリシャルデスの直接FKは権田がキャッチしたものの、続くパントを東京は確保できず、なぜかガラ空きの右サイドを走る西にロングパスが通る。追いすがるリカが後ろから倒し、何ということかPK……。まさに最悪の展開。ところが。この絶体絶命のピンチ、権田がリシャルデスのキックを読み切ってストップ!うおおお!!と、まるで勝ったかのような大歓声の中で終了のホイッスルが鳴った。
 
 

最後権田が止めてくれなかったら、とてもこんな冷静に観戦記など書けなかったろう。素直に嬉しかった!……って、普通に考えればホームで引き分けなんだから喜べないんだけど(笑)。

内容的に見れば、やはり「勝つべき試合」だったんだろう、とは思う。前半・後半とも立ち上がりのテンションを維持できず相手ペースに引き込まれた部分はあったし、細かい連携の齟齬などは相変わらず多い。だが、にも関わらず終始優勢で試合を進めることができた(シュート数15対7)のは評価しても良いだろう。相手が少ないチャンスをものにし、こちらはシュートを全く枠に飛ばせず結果は引き分けだったのだが、まあそこは「次は決めてね」というしかない。

心配なのは、技術的・戦術的な部分よりも選手たちのメンタルである。リードされて迎えた後半、そろそろ重圧もかかっているのか、大型画面に映った選手たちの表情は(権田ら一部を除いて)こわばっているように見えた。また、終盤に権田がボールキャッチして素早くパントしようとした時など、選手たちの上がりが妙に遅かったのも気になった。まさか「引き分けで良い」と思っていたのではなかろうが……仙台戦のトラウマが消極性を招いているのだろうか。

逆に考えれば、だからこそ権田のPKセーブはとてつもなく大きな意味を持つのかもしれない、とも思う。またしても決めきれない展開に加え、仙台戦に続くロスタイムの悪夢。リシャルデスのシュートが決まっていたら僕も心が折れかけてしまったかもしれない。でも、悪夢的な出来事に見舞われるのは人の世の常としても、それを振り払えるとしたら人の意志や行動によるしかない。権田の1プレーが、どれだけ大きな勇気をチームメイトやファンにもたらしたことか。

よって、この試合のMVPは権田である。仙台戦ではミスで勝利をフイにしたが、今回はそれを補って余りある活躍……というと言い過ぎかな、勝点的には帳尻が合ってないから(笑)。でもあの場面、落ち着いて最後まで動かずキックを読み切ったのはさすがとしか言いようがない。ハーフタイム明けに出てきた時の余裕の表情といい、器がでかいんだよね彼は。ついでに言うと、懐の深いプレーでDFラインに落ち着きをもたらす森重にも同じ匂いを感じるのだけど。

他の選手では、徳永の頑張りが目についた。怪我明けの梶山や羽生がまだシャキッとしきれてない分、彼の働きには頼もしさを感じる。両SBはちと不安定だったかも。攻撃陣では、平山はPK獲得で仕事はしたけど、時折判断の遅さが目についたような。大黒と石川はもう2〜3本はシュートを枠に飛ばしてほしかった。まあ、大黒に関して言えば、何度もスタートを切る中で本当にほしいタイミングでパスが出てくることがほとんどない、という事情もあるのだが。

あと、この試合で首を傾げたのは選手交代か。最初の羽生→リカは、相手陣でのもう一押しがほしい状況だったので納得。でも、石川→松下については、松下が守備に脅威を与えられずにかえって新潟の攻撃を招いた印象。3枚目の大黒→大竹に至っては全く機能しなかった。どっちのタイミングでもいいけど、大黒も当たってなかったわけだし、重松を使ってほしかった。

ともあれ、この引き分けで、神戸が名古屋に負けたためにちょっとだけ神戸との勝点差を開くことができた。次はアウェイの清水戦。次第に強豪と当たるようになるわけだが、最近の戦いぶりを見るとむしろ上位チームとの方が戦いやすいのでは……と思いたいところである(笑)。徳永が累積警告で出られないのは痛い。せっかくここのところ活躍できてるのに、巡り合わせが悪いというか。米本の復帰も含めて巧いやり繰りが求められるのだろう。熊さん、頼むぜ。
 
 
[付記]
マルシオ・リシャルデスが見事なFKを決めた直後のハーフタイム、カミさんと「あの位置(ボックス正面)でリシャルデスに直接FKを蹴らせるなんて、PKを与えたのと一緒だね。つか、壁でブラインドになる分もっとタチが悪いかも」などと話していたのである。「PKなら権田はけっこう止めるし」なんつって。まさか、本当に土壇場でそういう場面が来るとはね。ついでに書くと、PK止めた後でちゃんと勝ち越しを狙いに行こうとした権田は本当に偉いと思った。
 

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