« コマネチ!! | メイン | 寝落ちを許さぬシチュエーション、てか (追記あり) »

2010年06月20日

●『アウトレイジ』

  Outrage-kitano.jpg
先日、新宿ミラノ座で北野武監督の最新作『アウトレイジ』を観た。関東一円を仕切る巨大暴力団「山王会」の直参である池元(國村隼)は、親分の関内(北村総一朗)に弱小ヤクザ村瀬(石橋蓮司)との蜜月を怪しまれ、村瀬組を締め上げるよう命令される。焦った池元は配下である大友(ビートたけし)にその役目を押しつける。大友は子分の水野(椎名桔平)らを使って暴力で村瀬を追い詰めていくが、それはより血なまぐさい大抗争の引き金となっていく……。
 
 
期待が大きすぎたせいもあるのか、個人的にはイマイチ乗り切れない映画だった。

あらすじ自体は、『ソナチネ』や『BROTHER』と同じような感じ。たけしさん演じる不器用なヤクザが筋を通しているうちにでっかい抗争に巻き込まれ、凄惨な殺しが止めどもなく連鎖していく……という感じ。お得意の筋立てだけあって演出には切れ味があり、序盤〜中盤はヤクザたちの大迫力の怒鳴りあいや私利欲得による殺し合いがテンポよくつながって全く飽きることがなかった。歯医者での襲撃場面など、行き過ぎた暴力が笑いに転じるシーンも大変に楽しい。

ただ、結局、大友組の組員が殺され始めると抗争というより一方的な虐殺になってしまって……巨大な、逃れられない死のマシンに挽きつぶされていく感じ。要するに『BROTHER』と同じである。それはそれで僕は好きだし、「風力発電の巨大な風車へ続く道路に転がる死体」みたいな鳥肌ものの名場面もあるにはあった。でも、今回は情緒性の否定というかアンチクライマックスというか、感情的な盛り上がりを意図的に外す展開が多すぎて肌が合わない感じだった。

修行が足りないのか、それとも性格的なものなのか、僕は登場人物に感情移入をしないで物語を追うのが得意ではない。しかもたけしさん主演となるとなおさらである。おそらく、たけしさんはこの映画を群像劇として撮ったつもりだろうし、そのままその通り受け取る観客もいるのだろう。でも、僕はやっぱりたけしさんら大友組の視点から物語を観てしまうのであった。つーか映画の宣伝コピーは「悪い男ばっかり。」だけど、大友は人が好すぎるでしょう、あれは(笑)。

となると、やっぱりあの終盤の展開はないよなあ、と。水野の殺されるタイミングとか、大友が体育館裏に後輩の刑事を呼び出したくだりの顛末とか、あと刑務所内の野球シーン。観客が「何かドラマティックな事が起こりそうだな」と思う度にそれを外して「ホラ、期待とは違ったろ」ってつぶやく声が聞こえるような気がして……何というか、たけしさんはキューブリック的に登場人物を突き放して撮ってるんだろうけど、ちょっと僕の視点とはすれ違っちゃったな、と。

つか、どうせやるならもっと派手にドンパチで殺し合いをしてくれれば良かったのになあ、とも思う。早々に決着がついちゃったのがまたアンチクライマックスっつーか。確かに、最近の作品は変に台詞で叙情を増そうとしたり、逆に実験的で理解困難になったりしていたから、たけしさんとしては原点回帰的な姿勢で作ったんだろうけど。そういや、小悪党が生き残ってボスの座を奪うラストは、『その男、凶暴につき』と一緒のように思えたね。ストップモーションも。

まあ、ウェットな描き方をしないことは監督自身が宣言していたわけだから仕方がないとも言えるし、たけしさんが主演じゃなきゃまた全然印象が違ったのかなあ……。考えようによっちゃ、僕にとっては、この映画に違和感を感じたことで逆に「自分の好きな北野映画のエッセンス」がはっきりわかったかも。うーん。少なくとも、「賛否両論」という前評判については納得できたな。

最後に、バランスをとるために(笑)少し褒めておこうか。鈴木慶一の音楽はシャープでダークでシニカルで、映画の雰囲気にピッタリ合っていた。あと、今回はいわゆる「北野組」は全くと言っていいほど出演していないけれど、どの役者さんも熱演ぶりが素晴らしかった。弱気で小狡い國村隼や腹黒い三浦友和には笑ったし、加瀬亮の悪党ぶりや杉本哲太の貫録にはシビれた。一番良かったのは椎名桔平かな。こんなに色気のある役者さんとは思わなかったねえ。
 

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://umanen.org/mt/mt-tb.cgi/2626

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)