« 釜石シーウェイブスが熱い! (日野自動車×釜石シーウェイブス) | メイン | またしても(FC東京×サガン鳥栖) »

2015年11月05日

●ジャパンの「3勝1敗」が残したもの

ラグビーワールドカップ2015が閉幕して間もなく1週間。日本代表の最終戦(対アメリカ)からも3週間がたち、南アフリカ戦勝利に始まった「ジャパンブーム」もさすがに落ち着きを見せ……たかと思いきや、ハロウィンの日には五郎丸のコスプレをした若者たちが渋谷の街を闊歩したりするのだから油断がならない(笑)。今回は、ジャパンの戦いがもたらしたものを振り返ってみよう。


今回のW杯で日本代表が残した成績は疑いなく素晴らしいものだ。なにしろ、それまでの7大会でわずか1勝、24年間無勝利だったのが1大会だけで3勝。グループリーグ終了時にメディアで何度も繰り返されたように、3勝を挙げて決勝トーナメントに進出できないチームは史上初めてだった。前回大会で準優勝したフランスなんて、グループ戦ではNZとトンガに敗れて2敗でギリギリ突破したチームだったのに。

しかもうち1つは、南アフリカ相手の金星であった。南アといえばNZに次ぐ南半球の巨人であり、世界の楕円球界を見渡しても確実に五指に入る「格」のチーム。日本が南アに勝つなどと予想した人間はこの世に何人もいなかったに違いない。ヘスケスの決勝トライが決まるまでは南アの選手たちだって(「PGを狙え!」と叫んだジョーンズHCだって)そんな事が現実になるなど信じられなかったはずだ。

そんな日本の「3勝1敗」は、とてつもなく大きなインパクトをもたらした。


まずは、日本国内におけるラグビー人気の沸騰である。メディアはこぞってこの快挙をとりあげ、特に4試合を通じて大車輪の活躍だったFB五郎丸はその独特のキックフォームも相まって一躍「時の人」となった。ラグビーのブームなんて日本ではもう四半世紀以上昔の話だったのに、今やどの週刊誌をめくってもジャパンや五郎丸の記事が載っているなんて、数ヶ月前には一体誰が予想できただろうか?

僕の仕事場でも、つい先々月までは「ああ、ラグビーもW杯をやるんだよね」「2019年には日本開催なんだ。へー」てな雰囲気だったのが、南アとサモアに勝った後には「サモアがスコットランドに勝ってくれれば決勝に行ける!」とか「山田のトライは凄かった」とか「リーチ マイケルのカフェが府中にあるらしい」とかいう会話が普通にあちこちで聞こえるようになっていた。

もちろん、人気なんて所詮水もの、ジャパン人気の盛り上がりを嬉しく思う一方で「日本代表だけではなあ」「どうせ一時的なもんだろ」と警戒する気持ちも僕の中にはある。ただ、そのうち落ち着くとしてもラグビー界にとって貴重な「火種」には違いないし、実際トップリーグのチケットがやたら売れていることなどを考えれば、今後の強化や2019年大会に向けた準備のためには間違いなく好材料だ。


もう一つ大きいのは、今回の健闘が世界における日本ラグビーの地位向上につながるであろうことだ。従来の日本は、正直なところ本大会での成績の割に予選の組分けなどで優遇されていたように思う。2019年大会の開催権も同様。おそらく「ラグビーの多様性を確保したい」というワールドラグビーの思惑があったのだろう。そうした状況に僕はありがたいと思う一方で少々後ろめたさも感じていたのだ。

だが、今回の3勝、それも日本らしいラグビーを実現しての好成績でだいぶ状況は改善した(と思う)。日本のW杯における「7大会で1勝」という不名誉な記録は「8大会で4勝」となり、世界ランクも一時は9位まで浮上した。スタッツ以上に世界のラグビーファンに与えたインパクトは大きく、日本×南アが大会のベストマッチに選ばれるとともに、五郎丸はベストフィフティーンという栄誉も得た。日本は今大会主役の座に躍り出たと言っても過言ではあるまい。

そんな日本代表の活躍は「弱小国」としてのイメージを覆し、2019年大会への準備の中で世界における日本ラグビーの存在感や発言力を高めてくれるに違いない。無論、この1大会のみの活躍で全てが覆るわけではない。でも、世界ラグビーにおける「ティア1の壁」のような階層構造に確かに一石を投じたのだ。少なくとも、南半球を始めとする「8強」の国から見下されるばかりではなくなった、と思う。


……とまあ、つらつら書いてきたんだけど、ここからが本当に書きたかったことだ。思うに、W杯におけるジャパンの活躍が与えた最も大きなインパクトは、日本においてラグビーをプレーする人々、応援する人々に与えた精神的なパワーにあるのではなかろうか。そのパワーとは「自信」であり、今後は「野心」という形をとることもあるだろう。人によっては「希望」と言ってもいいかもしれない。

たとえば。僕は南ア戦の前までは、自分が生きてる間にジャパンがオールブラックスに勝つことはないだろうと考えていた。W杯優勝となればなおさらである。でも、日本は南アに勝ったのだ。つい何年か前まで南アがNZに勝ち越してたことから、そして今回の準決勝で南アがNZを2点差まで追い詰めたことからしても、南アに勝てるのであればNZに勝てるチャンスもきっと来る。今は本気でそう思っている。

なんというか、最高到達点が高ければ高いほど、人はさらなる高みを望むことができるのだ。南ア戦勝利を含む「3勝1敗」はこの国でラグビーに携わる人々のマインドセットを大きく変えたのではないかと思う。人気は気がつけば過ぎ去ってしまう。負けが込めば、世界ラグビーにおける地位も下がっていくのだろう。でも、「希望」はそう簡単に潰えることはない。それは人の心の中にあるものだから。

思えば、僕が20年以上圧倒的に負け越し続けるラグビー日本代表を応援し続けられたのも、子供の頃に宿澤ジャパンのスコットランド戦勝利を見てしまったから。そして、第2回W杯でのアイルランド戦の健闘とジンバブエ戦の勝利を見てしまったからだ。もっと前の時代のファンなら、秩父宮での3-6のイングランド戦を挙げるかもしれない。それは心の中に「希望」を植えつけられてしまったということだ。

そして、日本代表の与えたインパクトは自国に対するものとは限らない。南ア戦勝利の衝撃は世界ラグビー界を駆け巡っていった。ラグビー弱小国、それも参加国で最も背の低くて小さい国がスプリングボクスを倒したのである。今回は予選・決勝合わせて非常に接戦の多い大会だったが、それは日本の金星が他のティア2国に刺激を与え奮起を促したからではないかと思うのだが、思い過ごしだろうか。


まあ、何度でも繰り返すけど、この大会のジャパンの戦いぶりは過去最高だったし、出来の良さは奇跡的ですらあった。ついでに言うと、ちょうどブレイクしたこの大会において、伝統的なジャパンのジャージー(白と赤の横縞)が復活してくれたのもファンにとっては嬉しい限りだった。やはり桜のジャージーが最高だな、とつくづく思うし、過去との連続性を感じながら従来の限界を突破したこの快感よ。

海外メディアではすっかり定着した「ブレイブブロッサムズ」という愛称にしても、元々は2003年大会で向井ジャパンの健闘を目にした豪州の新聞が付けた呼び名だったはずだ。あの時はすごくいいラグビーをしてスコットランドやフランスを追い詰めたのに、結局1勝もできなかったんだよね。こうして「勇敢な桜」という呼称が残っていただけでも、あの戦いも無駄ではなかったのかな、と思えたり。

つまり、今回のジャパンの戦いは、日本ラグビーの伝統を更新することで伝統を守った、あるいは、歴史を踏まえつつ新しい時代の幕を開いた、ということになるだろうか。なまじっか「最高の成績」を残してしまっただけに、逆に今後については全く楽観できないけれども、この秋に得たものを含め、遺産を、種子を、次の時代へつなげていくのが僕たちの務めではないかと思ったりもするのである。

世界最高のラグビーを目指していく日本代表を、これからも見守って応援していきたい。改めてそう思わされたワールドカップだった。




↓よかったらクリックして下さい。
にほんブログ村 その他スポーツブログ ラグビーへ
にほんブログ村

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://umanen.org/mt/mt-tb.cgi/2836

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)