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2010年06月01日

●大逆転バッソ復活 ('10ジロ・デ・イタリア)


久々の自転車エントリーは今年最初のグラン・ツール、第93回ジロ・デ・イタリア。例年以上の難関ステージが揃った今年のジロは序盤から波乱続きの展開となり、一時は伏兵勢が総合有力者たちに10分以上の大差をつける状況も。しかし後半の山岳に入ってチーム力に勝るリクイガスが度重なる猛チャージをかけ、第19ステージでついに逆転に成功。バッソが4年ぶりの総合優勝を飾る結果となった。
 
 
序盤の3ステージはオランダ開催。海沿いの美しい風景の中で優雅なレースが……なんてことは全然なく、狭い市街地コースは多数の落車を、吹きすさぶ横風はプロトンの分断を引き起こし、早くもエヴァンスがタイムを失ってしまう。例年、平坦区間は割とノンビリした展開になることも多いのだが、今年は終始ピリピリとしたムードが漂っていた。トラブルの多くをうまくやり過ごし、イタリアに戻ってのチームTTを制した本命リクイガスがまずは主導権を握る形に。

その後も波乱は続く。第7ステージでは雨の泥んこ未舗装区間(なんちゅー設定やねん)でリクイガスのバッソとニバリが遅れ、ヴィノクロフとエヴァンスが躍進。ところが第11ステージでは今度はなんと56人の大逃げが決まってリクイガス勢とヴィノ・エヴァンスがまとめて12分以上も遅れてしまい、サクソバンクの新人ポートがマリアローザを獲得するという大事件が。もう何でもありというか、有力者たちのあまりの遅れっぷりに唖然とする他ない状況だった。

この時点で目立っていたのは、BMC・アスタナのアシストの力不足とリクイガスの消極性。特にリクイガスは山頂ゴールの第8ステージでほとんど攻撃するそぶりを見せず、第11ステージでも「マリアローザのチーム(アスタナ)が追うべきだ」などと躊躇しているうちに大逃げを許してしまうなど、じれったいというか……「根性ないなあ。いつもこのチームはダブルエース体制とか何とかいって色々曖昧にしているうちに終わるんだよなあ」というのが正直な感想だった。

だが、今回のリクイガスはひと味違った。そのままでは終わらなかったのだ。

第12ステージ、リクイガスの反撃開始。残り10数kmで飛び出したバッソ・ニバリらがメイン集団に先着。詰めたのは「11分差のうち10秒」に過ぎなかったが、果敢なアタックぶりはそれまでのレースぶりと明らかに一線を画すものだった。第14ステージではリクイガスの作ったハイペースによりモンテ・グラッパで集団が破壊され、下りで飛び出したニバリが優勝、バッソはエヴァンスらとともにメイン集団に2分半の差をつけた。トップとのタイム差はあと7分。

そして第14ステージ、ゾンコラン。連日のリクイガス列車の牽引により「魔の山」に高速で突入した集団は最大斜度22%の上りであっという間にばらけ、バッソとエヴァンスの一騎打ちに。最後は弛まぬペースで踏み切ったバッソがエヴァンスを振り切って復活のステージ優勝!!バッソは3位にジャンプアップし、総合トップのアローヨとの差は3分半に縮まった。続く第15ステージの山岳TTはバッソが差をさらに1分縮め、エヴァンスが40秒差で続く展開。

第19ステージ。モルティローロ峠でまたまた攻撃を仕掛けたリクイガスは、バッソがニバリとのデュオで飛び出してアローヨらを置き去りに。ニバリの助けで苦手の下りを切り抜けたバッソは引いて引いて引きまくり、アプリカのゴールまでに他の有力勢を3分余り引き離した。ついに4年ぶりのマリアローザに袖を通すバッソ。所々に雪の残る最難関の第20ステージでもリクイガスは堅実な集団コントロールで攻撃を封じ込め、バッソとニバリは表彰台をキープした。

最終ステージの個人TT。バッソ・アローヨ・ニバリはいずれも好走を見せてそれぞれの順位を堅持。波乱続きの大会だったが、最後の最後は収まるところに収まって大団円となった。ピンク色に染まったヴェローナのスタジアム。イヴァン・バッソ、大逆転で2度目の総合優勝である。
 
 

とにかく異例ずくめのジロだった。面白かったっつーか、なんつーか……。

いつもの「前半の平坦はスプリントでポイント争い、後半の山岳のみ総合争い」という流れとは異なり、3週間に渡って終始マリアローザの争奪戦が続いて、しかも地元のバッソが11分以上のタイム差を逆転しての優勝。これほど総合争いがエキサイティングな展開を見せたグラン・ツールは初めて見たように思う。その代わりポイント争いなどはほとんど問題にならなかったんだけど、まあそもそも有力スプリンターの出場が少なかったから丁度良かったのかもしれない。

出入りの極めて激しい展開が、例年以上に特異なコース設定によってもたらされたのは間違いないだろう。横風吹きまくりのオランダステージに泥まみれの未舗装コース、急傾斜の山岳TT(これも未舗装区間あり)、数mの積雪が残るチマ・コッピ、そしてゾンコラン。レース主催者は頭おかしいんじゃないかと思えるくらい(笑)。観ている方にしてみれば面白いけど、選手にとっては過酷すぎるように思えるし、何よりジロ自体がキワモノ化する危険もあるのかな、と。

そんなイレギュラーな大会を制したのはイヴァン・バッソでありリクイガスだった。バッソは4年前に初優勝してからドーピングによる出場停止期間を経て2度目の優勝。無論本人は感激でいっぱいだろうし、その間ハラハラして見ていたファンとしても感無量である。復帰間もなくの去年は思うような強さを見せられず、色々な意味で「やっぱりそうか」と思っちゃったもんなあ……。「人間、その気になればやり直せるんだ」という事を結果で見せてくれたのが嬉しい。

今回の(特に第12ステージ以降の)バッソから感じられたのは、困難や苦境の克服に向けた強靱な意志である。以前の彼はそつのないレースぶりばかりが目立っていた印象だが、復帰してからは次第に攻撃的な走りが増えている。自らの過ちによる挫折を懸命に乗り越えようとしてきた努力、その延長線上に大逆転を引き起こした意志の強さがあるということだろう。第19ステージ、鬼の形相でニバリとスカルポーニを引っ張る彼の表情にはそれが表れていたと思う。

で、そんなキャプテンが示した意志の強さに動かされるようにして、リクイガスのチーム全体もアグレッシブに自らの意志で状況を動かしていった。山岳におけるシュミットの鬼引き、下りにおけるニバリの好リード、その他6人の献身的な動き。いずれが欠けてもこの逆転勝利はなかったかもしれない。サイクルロードレースのチームスポーツとしての素晴らしさも改めて思い知らされたというか。最後の表彰台、仲良く9人揃ってトロフィーを掲げる姿は素敵だった。

他の選手では、アローヨは大逃げで得たアドバンテージを生かして表彰台をゲット。爆発力はないけど粘り強い走りはなかなか見事で、フロックと呼ぶべきではないだろう。エヴァンスはバッソに負けない個人能力は見せたけれども、いかんせんチーム力に恵まれなかった。ヴィノクロフも同様。サストレは本音はツール狙いなのかな。ニバリは順調に行けばリクイガスの「次のエース」なんだろうけど、そう上手く行くのかどうか。ポートはとにかく今後が楽しみやね。
 
 
というわけで、今年のグラン・ツールの第1弾は終了。アームストロングの「次」を担うと思われていたベテランが復活したことで、ツール・ド・フランスの優勝争いもグッと盛り上がってくるのではなかろうか。誰もが認める第1人者のコンタドールと、同じくオールラウンダーで世界王者のエヴァンスはチーム力に不安があって、TTに劣るけど上りは強いアンディ・シュレクとバッソはチーム力が抜群で……いやー、どうなっちゃうのか、早くも7月が楽しみというか(笑)。
 

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