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2010年02月19日

●『メトロポリス』

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DVDでフリッツ・ラング監督『メトロポリス』を観た。戦前ドイツ映画の黄金時代(1920年代)に撮られた、SF映画の金字塔でもあるあまりに有名な超大作。

<あらすじ>
舞台は2026年(制作年の百年後!)の未来都市「メトロポリス」。超高層ビルに住む特権階級と地下で過酷な労働に従事する労働者階級の対立が深まる中、その状況に疑問を抱く若者フレーターは労働者の娘マリアと恋に落ちる。彼の父で「メトロポリス」の支配者たるフレーダーセンは、マリアそっくりのロボットを使って労働者たちの混乱と分断を図るのだが……。
 
 
名作中の名作と言われるだけあって、映像についてはとにかく素晴らしいの一言。摩天楼が立ち並び、高速道路や飛行物体が行き交う大都会。エレベーターで降りていく先に突然現れる地下世界。シャープでミステリアスなロボットの造形と、それが人に姿を変える際の美しいオーバーラップ効果。全く古びていない、というと言い過ぎかもしれないけど、少なくとも各シーンの「ワンダーな感じ」は今でも十分通用していて、とても85年前のセンスとは思えない。

また、古い大作映画の見所と言えばやはり群衆シーンであろう。ドライアーの『裁かるるジャンヌ』とかエイゼンシュタインの『戦艦ポチョムキン』『十月』とか。この映画もご多分に漏れず、マリアが語る「バベルの塔の話」と終盤の労働者たちの大暴動という2つの群衆場面がある。コマ数の関係で人の動きがチャカチャカ速くなってるせいもあって、やたら迫力あるんだこれが。おまけに爆発シーンでは人がバンバン吹っ飛ぶのだが……もしかして本物か(笑)?

ただ、そんな感じで見応えがある映画なのは確かなんだけど、今の感覚で普通に映画として観ると苦しいところがあることも否定できない。無声映画を見慣れていない身からすると台詞も効果音もない映像はどうしても刺激不足だし、挿入字幕で語られるストーリーも間延びした感じが強いのだ。今回観たバージョン(冒頭に淀川長治さんの解説が入る(笑))だと耳障りの良いBGMが淡々と流れるせいもあり、途中2度ほど寝落ちして(巻き戻して)しまった。

あとは俳優の演技がちょっと……やっぱりサイレントってのはこんなものなのかな?身振り手振りといい表情の作り方といい、やたら大げさで仰々しくて落ち着いて観ていられない感じ。僕は無声映画というのをおそらく今までに10本弱しか観たことがないはずだが、チャップリン映画を除けばここまで派手な演技はなかったような気がするので、監督の個性もあるのだろうか。それとも「未来社会を描くSF」という作品の特性も関係しているのだろうか。うーん。
 
 
まあ、それでも、繰り返しになるけど映像は間違いなく美しいし(特にロボットがマリアの姿に変身する場面は凄い)、ヒロインのブリギッテ・ヘルムはファンタジックな美人さんだし、階級対立を扱うテーマは現代の状況に通じるものがあるしで、一度観てみる価値はあると思う。つーか、身も蓋もないけど、CGもデジタル編集もない85年前に想像力と工夫と人力(笑)でこれだけの映画が作れて、それを今観ることができるという事実はやはり感動ものではある。

フリッツ・ラング監督というと、あとは『ドクトル・マブゼ』とか『M』とかになるのか。けっこうDVDで観られるんだね……よし。


[付記]
今回観たDVDは「淀川長治総監修『世界クラシック名画100撰集』」と銘打たれたシリーズの1本。本文にも書いたように冒頭淀川さんが出てきて「日曜洋画劇場」ばりの解説を繰り広げてくれるのだが、「亡命してハリウッドに渡ったが、ドイツ時代の経歴が通用せず寂しそうにしていたラングに『メトロポリス』の話をして大喜びしてもらった」というエピソードはさすが淀長さんというか。ある意味、映画本篇以上に貴重な映像かもしれないね。
 

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