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2010年02月03日

●『ひこうき雲』

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昨年の12月、友人(この人この人ね)の結婚パーティーのジャンケン大会でiTunesのプリペイドカードをもらった。最近特に欲しいアルバムがあったわけではなかったのだが、せっかくだからとiTunesストアでちょっと懐かしめの名曲を見つけてはポツポツと購入したりしている。

数日前にダウンロードしたのが、荒井由実(松任谷由実)さんの『卒業写真』と『ひこうき雲』。『卒業写真』はハイ・ファイ・セットや徳永英明さんのカバー版も含めてこれまで幾度も聴いてきた曲だけど、『ひこうき雲』の方はかなり久しぶり……というより、通しでじっくり聴いたのはこれが初めてかもしれない。
 
 
あらためて聴いてみると、なんというか、不思議に心に引っかかる歌であった。

歌詞の内容については、何となく「空に浮かぶ飛行機雲を見て遠くに思いをはせる」という風におぼろげに記憶していたのだが、正確には「若くして友だちを亡くした女の子が、(その友だちがあこがれていた)空の飛行機雲を見て、故人に思いをはせる」だったんだね。とても哀しいシチュエーションである。

 空に憧れて 空をかけてゆく  あの子の命はひこうき雲

ただし、それでいて決して悲痛で暗い歌になってしまっていないのがこの曲の良い所なのだろう。過剰な修辞はなく、全体的にかなり淡々と、むしろほの明るささえ感じるくらいのトーン。ユーミンのボーカルも他の曲同様にボンヤリ木訥な感じ。しかしだからこそ、静かにしっかりと伝わってくるものがあるというか。

「憧れの空」へ昇ってしまった友人の懐かしい記憶と、彼女に対する哀惜の気持ち。「こちら」に残された者の生の実感。そして果てしなく、澄み切った美しい空。メロディーも、詞も、切なく胸に響き渡っていく。1stアルバムの表題作がこれってのは凄い(というか「最初」だからこそなのかも)。本当にいい曲だ。


ところで。個人的な話で恐縮だけど、実は半月ほど前、とても悲しい出来事があった。カミさんの実家で家族として暮らしていた、そして僕も大いに可愛がっていたウェルシュ・コーギーのアルバート君が亡くなったのだ。

享年11歳。この冬に差しかかる頃から具合が悪くなって、何とかクリスマスやお正月はケーキやおせちでお祝いできたものの、あともう少しで12歳、というところでお別れとなってしまった。数年前から病気持ちだったから、よく頑張ったなと思う一方、やはりもう少し長く姿を見ていたかったのが正直な気持ち。悲しくて悲しくて……。

彼が亡くなった1月17日の日曜日、東京は雲ひとつない青空だった。その前日も、その翌日も、天気は冬らしくきれいに晴れわたっていたのを覚えている。亡くなった知らせを受けて愕然としてカミさんの実家に向かう途中、そして火葬に向かう車を見送った後、ふと顔を上げるとそこには真っ青な空があったのである。

その時、僕の頭に浮かんだのは、「この天気なら、アル君も天国まで道に迷うこともないかな」などというらちもない考えだった。別に僕は何か特定の宗教を信じているとか、死後の世界について何か定見をもっているわけではない。けれど、どうもあの青空を見て以来彼が「お空の上にいる」気がしてならないのだ。アルバート、時々上を見上げるしぐさをしていたし、ね。

あの日、きっと空のどこかには、きれいな飛行機雲がかかっていたのだろう。
 
 

こういう風にある出来事とある音楽とが印象的な形でクロスするという体験は、人生においてしばしばあることだ。おそらく『ひこうき雲』を先に聞いていて後で悲しい別れに遭遇したら、歌の内容を頭の中で反芻する自分のチープさが嫌になったのかもしれない。でも、今回は順番が逆だったから……。

生きるとは、こういうことを重ねることなのかな。
 

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コメント

実は、Zeppelinだらけの僕のi-Podにも、ひこうき雲とベルベット・イースター、他のアルバムからも10数曲、松任谷(荒井)由実の曲が入っています。

音楽は人生を豊かにしますね。
パートナーと同じ。

自分は「ひこうき雲」を知らないのですが
BSで「MASTER TAPE〜荒井由実『ひこうき雲』の秘密を探る〜」
という番組があり再放送が2月19日(金)後11:00~11:54からあるみたいです。
http://www.nhk.or.jp/fm-blog/050/33586.html

たまたま大友良英さんのツイートでそんな話が出ていたので
ビックリ&なんか自分も興味出てきました。

kaerusan ラジオ 沼#438 歌と量子計算/NHK BS2「荒井由実 ひこうき雲の秘密を探る」、東浩紀「クォンタム・ファミリーズ」/ http://12kai.com/numa/ 11分前 from web otomojamjamがリツイート

『ひこうき雲』、今見てもものすごいメンバーで作られてたんですね。そして、現在でも制作秘話でテレビ番組ができるくらいの名アルバムだったんですね。そこまでは知らなかったから、なるほどいうか何というか……。

再放送、観なきゃいけませんなー。

「MASTER TAPE〜荒井由実『ひこうき雲』の秘密を探る〜」録画してあるよ。再放送なかったら見せてあげましょう。わたしはベルベットイースターを聞くと泣きそうになるのよん(乙女)

あ、再放送あったw BS 2 2月19日(金)後11:00~11:54

ありがとうございまーす。再放送みまっす!!

 当時、確か中学生だった私にも、荒井由実というのはすごいかもしれないと思わせるものがありました。
 アルバムとしての完成度が高いのは、2枚目の「ミスリム」だと思います。特にA面(死語?)はすごい。彼女の才能もあるとは思いますが、実は旦那のアレンジ力が効いているのだと思います。70年代洋楽ロックの私のi-Podにも、数曲入っていますよ。でも、年寄は、カバーはほとんど知りませんねぇ。

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