« 『幕末太陽傳』 | メイン | 気がつけばあと数日 »

2010年02月28日

●三洋電機三連覇 ('10ラグビー日本選手権決勝)


雨上がりの午後、秩父宮ラグビー場でラグビー日本選手権決勝。三洋電機ワイルドナイツ 22−17 トヨタ自動車ヴェルブリッツ。いよいよ国内ラグビーシーズンも大詰め、泣いても笑ってもこれで最後のタイトルが決まる一戦は「決勝戦」ではちょっと記憶にない顔合わせとなった。泥沼のピッチで行われた試合は、やや自滅気味の三洋に対してトヨタがリードを奪う展開となるが、後半半ばから底力を発揮した三洋が怒濤の逆転劇でシーズンを見事締めくくった。
 
 
ただでさえ痛んでいた秩父宮のグラウンドは直前まで降っていた雨で泥が浮き、非常に滑りやすい状態。しかし両チームともそんなピッチにひるむ様子なく、序盤から激しいぶつかり合いが繰り広げられた。7分、SH田中の巧みな抜けだしから三洋がゴールまであと1mの地点へ至るも、トヨタDFが絡んでノットリリース。しのいだトヨタは直後に反撃。9分、DF裏を突くSOアイイのキックで攻め込み、ラインアウトからのモールで左隅になだれ込んだ。0−5。

14分、三洋のパスの乱れからトヨタが一気のカウンター、飛び出したWTB水野がゴロキックをゴール内で押さえたかに見えたが、ノックオンの判定。その後もトヨタペースで試合が進む。悪コンディションによる乱戦の中、トヨタの選手が思い切りのよいプレーを連発するのに対して三洋はなかなか集団の力を出すことができない。SOブラウンが多用するパントもことごとく読まれており、アイイやFBイェーツの着実な処理からトヨタの逆襲、という場面が続く。

18分、アイイが自陣から鋭いステップで突破、ギリギリのタイミングパスでWTB久住が左タッチ際を抜け、フォローのNO8菊谷→FLホップグットとつないで中央にトライ。0−12。23分、今度は三洋が連続攻撃で攻め込んで22m内でPK。しかし、ラインアウトからトライを狙うもモールが割れてしまい逸機。終了間際のチャンスにもブラウンからの勝負パスがスローフォワードになるなど、トヨタの勢いに比べて三洋のちぐはぐさが目立つ前半だった。
 
 
後半立ち上がりは三洋が反撃。前半ことごとく失敗したハイパントは控えめにし、小キックと縦突進で突破を図っていく。3分、田邉のPGで初得点。3−12。しかしトヨタも負けておらず、激しいタックルからの絡みで幾度かボールを奪い返す。50分、一対一で仕掛けるWTB北川をCTB難波が職人芸のタックルでストップ。スコアが膠着したまま時計は進み、56分には三洋がトヨタ陣中央でPKを獲得(ホップグットがシンビンに)するも、これを田邉が失敗。

数的優位にも関わらずなかなかスコアできない状況。三洋にとっては嫌な流れが続くかに思えたが……ここから王者が底力を見せる。鍵になったのはブレイクダウン。気迫むき出しのFW陣に加え、キックでは精彩を欠くブラウンも密集では果敢な絡みを見せる。そして62分、ブラウンのグラバーキックを霜村が捨て身のセービング。モールから交代出場の堀江が低い姿勢でDFの間に突進して左中間にトライ。コンバージョンも決まって、10−12。

逆転トライは66分。ピッチ中央の混戦からトヨタが一旦はターンオーバーしたものの、ブラウンがボールをむしり取って展開。素早くLOヒーナン→NO8龍コリニアシとつないでWTB北川が右タッチ際を疾走、タックラーを振り切って右中間にトライした。ついに抜かれた伝家の宝刀、電光石火のトライ!17−12。逆転を許したトヨタは菊谷の突進や難波のパスを武器に猛反撃するも、遠藤がゴール前まで突進した場面はFL若松の巧みな絡みでノットリリース。

74分、田邉の好タッチキックで深く攻め込んだ三洋はラインアウトから渾身のモール。消耗激しいトヨタFWはこらえきれず、なだれ込んでトライ。22−10。終了間際にはトヨタも意地の反撃を見せ、78分、カウンターからイェーツがタッチ際を快走、龍コリニアシ必死のカバーディフェンスも届かず右隅にトライ。22−17。しかし反撃もここまで。最後は同点トライを狙う攻撃の中、SH和田のノックオンで試合終了となった。三洋電機、三連覇達成である。
 
 

熱い試合だった。シーズンの最後に良いものを見た。

後半の途中まではトヨタの思い通りに試合が進んでいたと思う。1回戦から連勝を続けてきた勢いそのままにラッシュし、トライ2本を先取。攻撃ではゲインを確実に切っていたし、守ってもブラウンのキックも三洋FW陣の縦突進もほぼ完璧に封じていた。惜しむらくはホップグッドのシンビン(一時退場)か。なし崩しに反則を繰り返してのものだけにもったいないというか。彼のいない10分間の間に逆転されただけでなく、他のFWが完全に消耗してしまった。

それでも、そこをきっかけとして流れをたぐり寄せるあたりが三洋の底力、ということになるのだろう。前半キックに固執した組み立てで自滅しかけながら、後半きっちり修正してきたのはトップリーグ決勝の教訓が生かされたということなのかもしれない。66分のトライは見事としか言いようのないもので、その前後にトヨタFWの消耗につけ込むモール戦法もさすがだった。最後の最後で「ここぞというところでたたみかける」三洋の良さが戻ってきた印象。

MVPは……難しいけど、やっぱりトニー・ブラウンを挙げるべきなのかな。今シーズンは特にポストシーズンでは彼の衰えがかなり目立っていて「蹴るだけ、しかも(ヒルやアイイに比べると)イマイチ」という感じだったんだけど、後半の密集での仕事ぶりは全盛期を彷彿とさせるものだった。タックルと態勢のたて直しとボールへの絡みがワンモーション、ほとんど一瞬で完成するあの技術とタフネスは本当に素晴らしい。「最後の輝き」かもしれんけど。

試合中、菊谷や難波らの頑張りを見ていて「トヨタにもここらで一つくらいタイトルを獲らせてあげたい」という気持ちも起こったのだが、しかし三洋もトップリーグ決勝は霜村や北川のインフルエンザがあって気の毒だったから……。まあ、カップは一つしかないからねえ、という感じ。

それにしても、あのひどいぬかるみの中であれだけの激しい肉弾戦を繰り広げるラグビーメンってのは一体どういう作りになっておるのかね(笑)。特に龍コリニアシなんて、2度も脳震盪起こしてそれでもなおカバーディフェンスに走ってあわやトライセービングタックル、なんて場面もあったし。劉永男をはね飛ばすほどパワフルな遠藤の突進に小さな体の入江がタックルに入ったシーンなんて、恐ろしいというか感動ものというか……いやはや凄い人たちである。
 
 
[追記]
日本ラグビー協会のサイトにあるこの試合の公式記録の中で、グラウンド状態が「良い」となっているのは、ある意味ものすごいブラックなジョークだと思う(笑)。
 

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://umanen.org/mt/mt-tb.cgi/2581

コメント

MVPブラウンは同感です。今シーズンは明らかに衰えが目立ち始めていましたが、トヨタ戦後半の鬼気迫る密集プレーを見ていたら、やっぱり凄い男だと感じました。
日本選手権が終わると、Jが開幕。仰るとおり二毛作は厳しいですね(笑)。

どうもです。

ブラウン、前半の効果の薄いキック連発を見たときには「ああ、もう駄目か……」と寂しい気持ちになりましたけど、後半開き直ってからはホント圧倒的でしたね。

「ライオンは老いてもライオンか」という感じでした。試合前からもしかしたら日本で見られる最後のプレーかも、という覚悟をしていただけに、余計に感動しました。

>仰るとおり二毛作は厳しいですね(笑)。
1週くらい空いてほしいんですけどね(笑)。

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)