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2010年02月14日

●赤い竜の底力 ('10シックスネイションズ ウェールズ×スコットランド)

土曜日の夜は、JSPORTSでラグビーシックスネイションズ。ウェールズ 31−24 スコットランド。2週目に入った今年の6カ国対抗、この日は初戦で完敗したチーム同士の「負けられない」対戦であった。アウェイのスコットランドが大半の時間ペースを握り、残り数十秒までリードを奪う展開となるが、土壇場にウェールズが怒濤の攻撃でドラマティックな大逆転勝利を収める。
 
 
序盤からスコットランドペースで試合は進む。9分、甘いタックルをくぐり抜けてFLバークレイがトライ。続いて20分、ゴール内へのグラバーキックをWTBエバンスが押さえて3−17。その後スコットランドはエバンスやFBパターソンを負傷で失うも、手堅いボールキープでリードを守る。56分、WTBウィリアムスの快走からウェールズがトライするが、67分にSOパークスがDGを決めて14−24。さらに時計は進み、勝負は決まったかに見えた。

流れが変わったのは74分、スコットランドHOローソンが妨害行為でシンビン(一時退場)になってから。数的優位に立ったウェールズはそれまでのミス連発が嘘のように高い精度と集中力でボールを動かし続け、78分、パス展開からWTBハーフペニーが右隅を抜け、中央まで回り込んでトライ。21−24。ウェールズは勢いに乗ってさらに攻め、ラインブレイクからミニパントを上げたFBバーンが倒されて22m内でPK獲得、倒したグッドマンは一発退場。

ここでの判断は難しかった。残りは40秒ほど。いずれにしてもキック+1プレーの時間しか残されていない状況だ。PGを狙えば確実に同点には追いつけるが、最後の攻めが自陣深くからになってしまう。一方、ラインアウトやスクラムから攻めれば残り十数mから逆転トライを狙えるものの、攻めきれなければ敗戦のリスクを負うことになる。「どうするのだろう」とドキドキしたが、ウェールズが選んだのは前者だった。24−24で、正真正銘の残り1プレー。

ここからはもうイケイケドンドン。キックオフをキープしたウェールズは迷いなくパス&ゴーを繰り返し、DFの間を抜けたSOジョーンズが右方向へキック(そこで蹴るか!)。跳ねたボールをフォローの選手が拾ってさらに連続攻撃、最後はスコットランドDFの足が止まったところを「切り札」ウィリアムズが雄叫びを上げ、右手を挙げながらポスト下へ走り抜けた。騒然とするスタンド、熱狂の抱擁を繰り返す赤いジャージの15人。なんと劇的な幕切れか!!
 
 
いやー、凄かった。驚いた。久しぶりにラグビーで鳥肌が立った。

試合全体を通して出来が良かったのはやはりスコットランドの方だったと思う。ハンドリングエラーの数はウェールズより全然少なかったし、地域的には押されながらもほぼ思い通りのボールコントロールができていた。でも、残念ながらエバンス(首を手術するとか……)をはじめアンラッキーな怪我人が出たのと、あと最後はホームの雰囲気と勢いに飲み込まれてしまった感じ。フットボールは理屈だけでは割り切れないのだと改めて思い知らされたような。

ウェールズにしてみれば、最高の逆転勝利、なんだけど、前半のDFのユルさとかノックオンの多さとか落ち着いて考えれば反省点ばかりの試合だったかもしれない。それでも勝てたのは大観衆の後押しと、79分のPG選択、そして土壇場で発揮した集中力のおかげだろう。特にPGの選択は冷静な計算ぶりが良かったと思う。スペースがないところで無理攻めしてもトライに至るのは難しかったろうから。日本のチームだったら絶対攻めてるだろうけど(笑)。

同じフットボールでもサッカーに比べると、ラグビーやアメフトはプレーが途切れ途切れになる分、こうした重要な(流れの中とは違う)「選択」を迫られることがしばしばある。そうした場面で表れる判断力、決断力というのは成功するにせよ失敗するにせよ大変に興味深く、個人的には醍醐味の一つだとさえ思っている。ラグビーにおけるキャプテンの責任は実に重いのだ。

この試合、個々の選手を見るとスコットランドのFW陣にSOパークス、ウェールズのSHリースやCTBフックあたりが良かったと思うのだが、やはり一際目立っていたのはWTBシェーン・ウィリアムズ。小さな体(173cm!)に鋼の肉体、弾丸のような突進。アシストのキレ味もあるし、本当に素晴らしい選手である。最後のトライを決めるあたりも「さすがはスター」としか言いようがない。サントリーの有賀とかには、こういうプレーをしてほしいと思う。

いや、ホント、こういう試合があるからラグビー観戦はやめられないのである。最後の10分くらいは本当に面白かった。日本でもこういう熱い試合が観たいぞ!
 

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