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2009年08月09日

●うまねんの社会科見学(「貨幣博物館」編)


先週の金曜は休みだったので、電車を乗り継いで都内をブラブラと。品川の食肉市場場内「一休食堂」で激ウマの煮込み定食を食べ、京橋の警察博物館を見学し、竹橋の国立近代美術館でゴーギャン展を観て、日本橋の貨幣博物館を見学し、上野の東京都美術館で「トリノ・エジプト展」を観て、アメ横脇の立ち飲み屋「カドクラ」でホッピーを飲んだ。なんか、社会科見学の小学生と美大生とアル中オヤジがちゃんぽんになったようなラインナップではあるな……。
 
 
どこもなかなか楽しかったが、特に(というか意外と)面白かったのは貨幣博物館だ。

この博物館、日本銀行が創立100周年(1982年)を記念して作ったもので、同銀行本店の隣にある「金融研究所」の2階に設置されている。収蔵・展示されている資料はもちろん日銀が自ら収集したものがメインだが、田中啓文さんという戦前の大貨幣コレクターが戦禍を避けるため、太平洋戦争末期に寄贈してくれた資料もかなりのボリュームを占めているという。1人の「もの好き」の情熱が後世に貴重な資産を残したというのは、ちょっといい話である。

館内は大きく2つのセクションに分かれており、前半では日本の貨幣の歴史が、後半では世界の様々な貨幣や記念硬貨が、それぞれ膨大な実物とキャプションによって展示されている。


前半の日本貨幣史は中学や高校の日本史で習ったような話で、古代の物々交換から初の貨幣「和同開珎」の鋳造、中国銭の輸入時代、そして江戸時代の両替商・金銀貨時代を経て近現代の銀行制度・金本位→管理通貨制度、という流れ。正直、20年前の授業中には「つまらねー」と速攻で居眠りしていたに違いない内容だが、その後受験~大学時代に得た知識を重ね合わせながらみると、意外となかなか、興味深く見ることができたのであった。

たとえば、なぜ律令国家が和同開珎を皮切りに独自貨幣(皇朝十二銭)を鋳造しながら、その後は数百年に渡って中国銭が流通したのか。キャプションには「貨幣の質の低下」云々と書かれていたけど、これは政治史的にいえば中央権力(朝廷とか)の弱体化の結果に他ならない。「中世」というのは多様な権力が分立した時代だから、単一の公鋳貨幣が存在しないのも当然といえば当然。例外的に強力だった足利義満だって、明銭の輸入貿易に依存してたわけだし。

また、統一貨幣制度が復活した江戸時代には、経済状況に応じて金貨・銀貨の質が変えられ、それが成功したり失敗したりしているのも面白い。1枚の金貨の質を下げると流通量が増え、質を上げると流通量が減る。現代の経済政策に当てはめれば前者はインフレ政策であり、後者はデフレ政策と言えるだろう。で、「享保の改革」徳川吉宗はインフレ策で成功し、「正徳の治」新井白石はデフレ策で失敗した、と。なるほどなるほど、という感じである。

明治以降になると、グローバル化の流れの中で貨幣制度は政治的・経済的に重要度を増す一方となる。大日本帝国の発展は中央銀行制度&金本位制の発達と軌を一にしているし、1930年前後には浜口内閣の経済的失政(世界恐慌の中での金本位制復帰)が結果的に相次ぐテロと軍国主義の台頭(2・26事件や満州事変!)を招いた歴史的事実が残っている。浜口首相もその親友の井上準之助蔵相も、確か殺されちゃったんだよね……。

なんつーか、「貨幣を通して日本が見える」というと言い過ぎかもしれないが、貨幣史を単なる「貨幣の変遷」で終わらせてしまうのではなく政治史や経済学の発想と結びつけながら考えることで、頭の片隅にあった知識をみずみずしく蘇らせることができたというか。そこら辺、個人的には展示のキャプションも当たり障りのない記載ではなくもう少し深く踏み込んでくれればいいのに、とも思うのだけれど、そこまでは難しいのかな。でも、面白かった。


後半は世界の貨幣イロイロの展示。一番わかりやすいところでは「金属以外でできたお金」のコーナーがあって、貝殻でできていたり竹や木でできていたり皮でできていたり……陶器製まであったな。革命前後のイラン紙幣の比較(皇帝の肖像が黒塗りに)やド・ゴール政権でのデノミ時のフラン紙幣(古いお札の上に新しい金額をスタンプ!)には笑ってしまった。あと、どこの国だか、丸い形のお札があったんだけど、あれ財布にどうやって入れるんだろう(笑)。

日本の記念硬貨のコーナーでは、その種類の多さに驚愕。オリンピックや万博や「天皇陛下即位○○周年」なんてのはいかにもな感じだけど、その他にも橋やトンネルや空港の開設記念だとか、「○○制度○○周年」だとか……ちょっと近年乱発されているきらいがあるような。でも、サッカーファンにとっては「2002FIFAワールドカップ」記念があるのはちょっと嬉しいかも(笑)。最高金額は10万円!つーか、これ本当にお店に持って行って使えるのだろうか。
 
  
てな感じで、ざっと見て回って30~40分といったところだろうか。遠くからわざわざ足を運ぶほどかと言われれば微妙なところだが、日本橋近辺に用事がある時とかに立ち寄ってみる価値はあるのではないかと思う。ちなみに、隣にある日本銀行本店の建物は国の重要文化財に指定されていて、事前予約すれば見学も可能だそうな。地下金庫はちょっと実物を見てみたいような気もするな。別に中に札束の山がギッシリ、というわけではないのだろうが(笑)。
 
 
[付記]
この貨幣博物館は日銀の教育普及事業ということで、無料で公開されている。そのため、というべきか、にも関わらず、というべきか、館内の応対は大変に感じが良かった。入口では入館票(記名不要)を書かされるものの、その際に「撮影可能」等々の事項は丁寧に伝えてくれたし、とても暑かったこの日は「2階に冷水器がありますから」なんて事もちゃんと教えてくれた。子供連れのお客さんには係員の方が「体験コーナーをどうぞ!」と笑顔で声かけしていたし。

まあ、平日の夏休みで来館者も少なく、職員の人たちも余裕があったということなのかもしれない。それでも、そういった小さな気遣いが意外なほどその施設に対する心証を大きく左右するものなのだ。つーか、だからこそ僕もこんな紹介記事をこうしてここに書いているわけで。
 

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コメント

いいですねー、貨幣博物館。近所で働いてたことはありますが、行ったことはありません。気になってたんですが。。。

警察博物館なるものがあるのをはじめて知りました。でももっとも惹かれたのが一休食道ですね、もつ煮うまそう。

それにしてもmurataさんは東京を遊ぶのが上手ですね。とても参考になります!

どうもです!

いや、上手というより、お金があまりないし人混みが苦手なので、近場のマイナー系で済ませているだけであります(都美や近美は別にマイナーじゃないですけど)。

貨幣博物館、意外に見ごたえありますよ。警察博物館の方はボリューム的にすぐ見終わっちゃいました(笑)。犯罪関係の展示があればもっと面白いと思うんですけどね……。

一休食堂は機会があればぜひ行ってみてください。もつ煮、脂加減と旨味がサイコーです。

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