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2009年07月03日

●『ラストキング・オブ・スコットランド』『運命じゃない人』『タクシードライバー』

最近ハードディスク・レコーダーから掘り出して観た映画その2。


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ケヴィン・マクドナルド監督『ラストキング・オブ・スコットランド』。医大を卒業したばかりのスコットランド人ニコラス(ジェームズ・マカヴォイ)は若者らしい気まぐれと冒険心からクーデター直後のウガンダに渡航し、医療支援に従事するように。彼はふとしたきっかけから新大統領のアミン(フォレスト・ウィテカー)に気に入られ、主治医として政権の中枢に関わるようになるが、次第にアミンの独裁者としての恐るべき正体が明らかになっていく……。

この映画、主人公は気が強いばかりで視野が狭く、エゴが先に立つイヤな奴。でも、そんな男が他人の女に手を出したり、独裁者の理想論に魅せられたり、特別扱いされていい気になったり、といった「若気の至り」から徐々に泥沼にはまり、気がつけば進退きわまっていた、というお話はけっこう身につまされる。それまで反発してた英国人外交官に助けを求めるも拒絶されるくだりなんて痛々しくて……世の中、取り返しのつかないことがあるのよのう、という感じ。

国内で30万人を虐殺した「食人大統領」を演じるウィテカーは、この作品アカデミー賞主演男優賞を獲得したそうな。アミンの子供っぽい魅力とその裏の暗黒面の両方をしっかり見せる演技は、凄みを感じさせるものがあった。ただ、残念だったのは、その暗黒面が明らかになるくだりがやや唐突に思えてしまったことだろうか。周りの人が1人1人消えて街も荒廃して、といったあたりをもう少し段階的・丁寧に見せる脚本だとより不気味さが増したように思うのだが。

あと、最後のエンテベ空港からの脱出シーンはあまりに劇的すぎるように思えたのだけれど、あれはきっと創作だよ、ね?

 
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日本映画期待の若手・内田けんじ監督の『運命じゃない人』。恋人(板谷由夏)に出て行かれたばかりのサラリーマン・宮田(中村靖日)はある夜、親友の私立探偵・神田(山中聡)に理由もわからぬままとあるレストランに呼び出され、そこで真紀(霧島れいか)に出会う。婚約破棄され、行くあてもないという真紀を宮田は自宅のマンションに泊めることになるのだが、その裏では宮田の想像も及ばないとんでもない騒動が巻き起こっていた……。

いや、これは上手いな、というのが第一印象。物語の時間を度々巻き戻しながら5人の登場人物それぞれの視点から構成し直す脚本も、それをテンポよく見せる演出も、大変上手である。

時間軸の操作と多面的な描写、軽妙なやりとりといった要素はタランティーノの『パルプ・フィクション』を想起させるんだけど(銃撃戦や血しぶきドバーのバイオレンスはないけど(笑))、完全に一つの出来事を繰り返し違う視点から描き直すあたりはこちらの方が徹底しているというか。物語が巻き戻るたびに「あ、さっきの出来事はこういう意味だったのか!」と発見できるのはなかなかに楽しい。もしかしたらパソコンのアドベンチャーゲームの影響とかもあるのかな。

個人的には、探偵・神田勇介のキャラクターとそれを演じる山中聡がとても気に入った。「今どきのいいヤツ」って感じで、いいよね。『仮面ライダー』に出てたこともあるのか。へー。
 
 
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マーティン・スコセッシ監督『タクシードライバー』。これは最近NHK-BSでやったやつ。山形浩男さんにならって僕も「これまで観たフリをしていただけの映画を実際に観る月間」というのをやってみようかと(笑)。社会不適応で童貞をこじらせたタクシー運転手・トラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)が主人公。ベッツィ(シビル・シェパード)やアイリス(ジョディ・フォスター)といった女たちに相手にされない彼は、見返すために大統領候補の暗殺を図るが……。

ひたすら痛い映画。いや、肉体的な痛さではなく、トラヴィスのズレまくった行動が「イタい」という意味なんだけど。世の中から孤立して、せっかくデートに誘った女性をエロ映画に連れて行ったり、ピントの外れた政治談義で得意になったり、風俗の女の子に説教をしたり。そうした行為自体もさることながら、それらを何とか意味づけようとするモノローグがまた自意識過剰な感じでイタすぎである。まあ、でも、こういう奴はいるんだろうな(秋葉原の事件とか)。

そんなトラヴィスが拳銃を手に入れてから急に体を鍛え、次第に自信をつけて妙な使命感に燃え始めるくだりは、塚本晋也の『バレット・バレエ』なんかと同様、拳銃による「男」の変貌というわかりやすいパターンであった。トラヴィスが上半身裸で鏡に向かって拳銃を構え、「俺に言ってんのか?(You talk to me?)」と凄むシーンはインパクトあるよね。その自信満々ぶりも結局は家の中限定で、大統領候補を前にして何もできないあたりがまたイタいんだけど。

クライマックス、アイリスの働く売春宿に殴り込みをかけるシークエンスのバイオレンスは「壮絶」のひと言。「殺してやる!」と狂ったように叫ぶギャングたちは手や頭を吹き飛ばされ、掌をナイフで貫かれ、あるいは顔に無数の穴を空けられて息絶える。首や肩を撃たれながら自動人形のように殺し続けるトラヴィスの姿も不気味で、勧善懲悪の爽快さも北野映画のような構造的美しさもない銃撃戦はまさに「アメリカン・ニューシネマ」の味わいなのであった。

なんつーか、後味の悪さが魅力という、まあ不思議な映画ではあると思う。
 

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コメント

内田けんじ監督は昨年公開の「アフタースクール」もいいですよ。私は「運命じゃない人」よりもこっちの方が好きです。
リワインドするとどうしても”あえて見せない”感があるからだと思うんですが。

>「アフタースクール」
うちのカミさんが映画館で観たらしく、けっこう褒めていました。今度、DVDを借りてきて観てみます。2本続けて傑作ということは、やはり才能のある監督なんでしょうね。

>リワインドするとどうしても”あえて見せない”感があるから
ああ、なるほど。私はどちらかと言えばそこら辺のぎこちなさというか、裏を返せば「何かあるかも」的雰囲気が好きでもありますが。

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